「まったくもう。高校生になったのに、ひまりちゃんはいつまでたっても甘えんぼなんだから」
「えへへー♪ だってアキトくんが甘えさせてくれるんだもーん♪」

「なんで僕のせいになってるのさ……」などと口では言いながらも、そんな甘えんぼなひまりちゃんが、なんだかんだ可愛くて仕方ない僕である。

「でも明日からまた学校が始まるからさ?」
「うん、知ってるよ」

「連休明けから授業で寝ちゃうわけにはいかないし、ほどほどにして切り上げてくれると嬉しいかな?」
「それはアキトくんのサービス次第だねっ♪」

「OK。ひまりちゃんに楽しんで貰えるよう善処するよ」
「ふふふ、期待してるー♪」

 かくして僕はひまりちゃんに論破されてしまったのでした。

 まあ、ね?
 こうやってひまりちゃんと論破合戦するのは、勝っても負けてもそれ自体が楽しいから勝ち負けはいいんだよ。

 というか、僕がひまりちゃんに勝つことはほとんどないんだけれども。


 そんな約束をしてしまったこともあり、今日の夜は、結局2時ごろまでひまりちゃんとベッドの中でおしゃべりをした。

「今日のアキトくん、すっごく大人っぽかったよ? あの2人組、途中から呆気に取られてたみたいにはキョトンとしてたもん」

 月明かりだけがうっすらと差し込む消灯した僕の部屋で、ベッドで向かい合ったひまりちゃんが嬉しそうに説明してくれる。

「僕ももう高校生だからね。落としどころを用意して、逃げ道を作ってあげるくらいのことはするさ」

「う~~~~! アキトくんが本当にかっこいいよぉ~~! ヤバーい!」

 ひまりちゃんが大げさに言いながら、ベッドの中でギュッと抱き着いてきた。

 ひまりちゃん愛用の可愛いピンクのジェラピケのパジャマ越しに、ひまりちゃんのすっかり大人っぽくなった柔らかい身体が、どうだと言わんばかりに存在を主張してくる。

「ちょっとひまりちゃん、くっつきすぎだよ」

「だってアキトくんがカッコよすぎるのが、いけないんだもーん。それにあったかいしー」

 さらにぎゅっと、くっついてくるひまりちゃん。
 その両手は僕の腰と背中にしっかと回され、太ももは互い違いにお互いの太ももの間に割りいっている。

 石鹸の爽やかな匂いとともに、ひまりちゃんの女の子な甘ったるい匂いが強く香って、僕は身体中の血流がどんどんと強くなっていくのを自覚せざるを得なかった。

 しかも落ちつこうと深呼吸をしたら、ひまりちゃんの匂いを強く吸い込んでしまって、余計にダメな感じになってしまった。

 さらには、

「今日は特別サービス♪ ちゅっ♪」
 ホッペ――というか口元にチューまでされてしまう。

 今日のことがよほど嬉しかったのだろう。
 いつになく積極的に過ぎるひまりちゃんの猛攻に、僕の心はもうどうにかなってしまいそうだった。

 それでも僕は鋼の意思で踏み止まる。
 僕たちは兄妹だし、僕はまだまだひまりちゃんにふさわしい男にはなれていないから。

 ひまりちゃんへの積年のコンプレックスが──最近は少しだけ薄れた気がしている──僕に一線を踏み越えることを思い止まらせてくれた。

「思い切ってチューしたのに、なんか反応が薄い……」
「小学校のころ以来だったから、懐かしいなって物思いにふけってた」

 僕は適当な言葉で、今のたかぶっている感情を誤魔化す。

 本当は緊張しすぎて、ドキドキしすぎて、心の中じゃ激しい葛藤が繰り広げられていた。

 僕も男の子で、ひまりちゃんはアイドルみたいに可愛い女の子だ。
 兄妹と言っても義理。結婚することも可能だ。

 僕の反応は当然っちゃ当然だろう。

 ひまりちゃんの柔らかい唇の感触が、少し湿ったくちびるの感触が、脳内で生々しくリピートし続けてしまう。

 この昂った感情をひまりちゃんに知られてしまうと、それこそ取り返しのつかない一夜になってしまうことは間違いなかった。

 なんとかやり過ごさないと。

 僕はやたらとくっついてくるひまりちゃんをなんとかあしらいながら、夜遅く――どころか日にちが変わってかなりの時間まで――ひまりちゃんとお話していたせいで、次の日は朝から一日、眠さを(こら)えるのが大変だった。