「つまり僕やこの子もそれと同じなんですよ」

「同じだと?」
「意味わかんねーこと言ってんじゃねえよ!」

「まぁまぁ、話は最後まで聞いてください。つまりです、ここのお店って僕たち兄妹の家なんですよ。自分の実家をけなしてくるような人と、仲良く一緒に遊びになんて行く気にはなれませんよね?」

「は?」
「僕たちの家? 兄妹?」

「そうです。僕らはバイトじゃなくて、実家の手伝いをしてるんです。そして『こんなところ』だの、『こんなバイト』だの、『こんなどこでもありそうな定食』だの言って、自分の実家をバカにしてくるような人と仲良くなりたいなんて、普通は思いませんよね? ってことを、僕は言いたいんです。さっきアクセサリをバカにされたと思ったあなたたちが怒ったのと、構図は同じですよね」

「ぐ……っ。そ、それは……」
「あ、えっと……」

 僕のド正論パンチに、チャラ男2人が目に見えて怯んだのが分かった。

 さっきまでの威勢の良さはどこへやら。
 僕を睨みつけていた視線は、泳ぐように床に向かい、バツが悪そうに口ごもる。

 論破が成功したことを見て取ると、僕は即座に論破芸をやめて、提案へと切り替えた。

「ところで、うちのお勧めはエビチャーハンなんです。エビがいっぱい入っていて美味しいですよ? 常連さんからも大人気のメニューで、僕もお勧めなんですが、注文はそれにしませんか? 何年か前に新聞やテレビで取り上げられたこともあって、この子の大好物でもあるんです。味は保証しますよ」

 僕は相手に反論する余地を与える間もなく、矢継ぎ早に言葉を並べたてる。

 反論しづらい雰囲気を作り出したうえで、新聞・テレビという権威付けを嫌味にならない程度にさらりと添え、ナンパしようとしたひまりちゃんの好物という一言で最後の一押しすることも忘れない。

 もちろん笑顔は絶やさずにだ。
 ひまりちゃんも僕の方針転換の意図が分かったのだろう、可愛らしい笑顔でにっこり微笑んでくれる。

 もちろん、こんなことをせずに彼らを完膚なきまでに論破してしまうのは簡単だ。
 公衆の面前で赤っ恥をかかせてやれなくもない。

 だけど、たとえここでこいつらをパーフェクト論破しても、こういった輩はあとで食べログに低評価を付けるだの、SNSで罵詈雑言を並べ立てるだのなんだの、事実に基づかない一方的かつ不愉快な嫌がらせをしてくることは、想像に難くない。

 よって今必要なのは彼らを完全論破することではない。

 僕が得るべき結果は、うちのおすすめメニューであるエビチャーハンを食べてもらい、満足して帰ってもらうことだ。

 お腹がいっぱいになれば、怒りも収まる。
 それが美味しければなおさらのこと。
 もちろんお店の売り上げにもなる。

 誰かを論破することそれ自体が楽しくて、事あるごとに論破しまくっていた小さな子供の頃とは違って、今の僕はもう高校生。
 あと2、3年もしたら成人して大人の一員となる年齢だ。

 これが近い将来に求められる「大人の論破」というものだろう。

「あ、ああ……じゃあそれで……」
「俺も……それで……」

 僕の大人の論破芸で毒気が抜かれてしまったのか、2人は呆然としたように頷いたのだった。

「ではすぐにお作りしますので、少々お待ち下さいね。4番テーブル、エビチャーハン2つ入りまーす!」

 僕は厨房で忙しく手を動かしている父さんに伝えると、ひまりちゃんとともにその場を離れた。

 ひまりちゃんを落ち着かせるために、いったんお店の裏――というかいわゆる居住エリア――に連れて行く。
 すぐにひまりちゃんが口を開いた。

「ありがと、アキトくん。あそこで止めてくれなかったら、もうキレちゃってたと思う」