「そう言わずにさ。ちょっと俺らと遊ぼうよ? こんなところでバイトなんてしてないでさ」
「俺らと連絡先の交換しようぜー」

「ごめんなさい、遠慮します」

 あ、ひまりちゃんが今、ピキッ来たのが僕には遠目でも分かった。

「遠慮とかいらないから、金ならいくらでもあるからさぁ」
「そうそう、タカヤと仲良くなったら、こんなはした金でのバイトとかあほらしくなるぜ?」

「そんな気持ちには、これっぽっちもなりませんので」

「絶対なるって。な? 俺らとちょっとお茶でも飲もうぜ?」

「そうそう、こんなどこでもありそうな定食をせこせこ運んでないで、おしゃれなお店で美味しいご飯食べようよ?」

「……当店のお勧めはエビチャーハンです」

「エビチャーハン? そんなどこでも食えるメシより、ミシュランの☆付きレストランで美味しいご飯食べようって」
「なんか近くにイタメシのお店があるらしくて、俺らそこに行く予定だったんだ」

「うちのエビチャーハンを食べもしないで、失礼なこと言わないでください」

 あー、これはちょっと止めに行かないとだ。
 もはやひまりちゃんの怒りゲージは、激おこぷんぷん丸だった。

 理由はいわずもがな。

 ひまりちゃんにとって、きっと自分自身と同じくらい大事に思っているエビチャーハンを「そんなどこでも食えるメシ」なんて言われてバカにされたからだ。

 加えて、さっきからチャラ男たちが「こんなところ」「こんなバイト」「こんなどこでもありそうな定食」って言ってるけど、ここはただのバイト先ではなく、ひまりちゃんの家でもある。

 自分ちがそんな風にボロカス言われて、不愉快に思わない人間はいないだろう。

 それら2つで合わせて一本。
 ひまりちゃんが怒りを爆発させる前に、僕は兄として行動しなくてはならない。

 ついでに父さんも静かな怒りを見せ始めていたしね。
 父さんが怒るとマジで怖いから、そっちの怒りが爆発する前に僕がなんとかしないといけない。

 すー、はー。
 僕は大きく一度、深呼吸。

 店内にはたくさん人もいるし、常連さんもいて、完全に僕のホームゲーム。
 甲子園で地鳴りのような大歓声で試合をする阪神タイガースと同じくらいに、圧倒的なホームアドバンテージがある。

 同じナンパでも雪希を助けた時と比べたら段違いで楽勝だ。

 だから余裕で大丈夫!
 ひまりちゃんは僕が守る!

 ──あとはまぁ、最悪こじれても、父さんが何とかしてくれるからね。

 親の力を宛にするのは、別に恥じることじゃない。
 自分の家という最強の地の利を生かさないのは、それこそ愚の骨頂だ。

 僕は父さんに「僕ちょっと行ってくるね」と断りを入れると、厨房を抜け出て、3人の間に割って入った。

「すみません、店内で揉め事は勘弁してください」

 僕がにこやかな笑顔で伝えると、

「なんだてめぇは?」
「すっこんでろよガキ。俺らはこの子と話してんだよ」

 2人はひまりちゃんへの態度とは正反対のチンピラムーブを向けてきた。

 はいはい、これが君らの「素」なんだね。
 そうやって脅したらビビって言うことを聞くと思ってるんでしょ?

 まったくもって想像通りすぎだよ。
 テンプレ過ぎて、なんかもう逆に安心しちゃったもん。

 まぁ外でならビビったかもだけど、この圧倒的ホームグラウンドで僕がそれにビビることはないよ?

 でもOK、これなら対処は簡単だ。
 僕の華麗な論破芸をたっぷり味あわせてしんぜよう。

「お二人の付けてるアクセサリー、成金趣味でくっそダッサいですね」

「は? いきなりしゃしゃり出てきて舐めてんのか?」
「調子乗ってんじゃねぇぞゴルァ!」

 僕のたった一言で、2人は簡単にブチ切れた。
 本当にコントロールしやすい相手だ。

「――って言われたら、不愉快になりませんか?」

「なるに決まってんだろ」
「バカにしてんのか? 表出ろや、てめぇ!」

「やだなぁ。あくまで例えですよ、例え。僕はそんなこと、思ってても言いませんから」

「こんのクソガキ、ムカつく言い方しやがって。さっきから何が言いたいんだ!」
「とっとと要件を言えよ!」

 いいね、向こうから詳細な説明をするように求めてくれるだなんて、願ったり叶ったりだ。

 論破芸で一番面倒なのは、逆上して話を聞いてくれない相手なんだよな。
 論破しようにも議論に持っていけないから。

 その点、向こうから理由を説明する展開に持ってきてくれたのは、まさに鴨ネギ。
 こんなにも扱いやすい相手は、逆に珍しいくらいだよ。

 さてと、いろいろと思うところはあるけど、まずはサクッと論破するか。