3試合をこなして体力的に苦しいのもあり、もう少ししたら試合が始まるというのに、チームのムードは完全にお通夜モードだった。

 一番モチベの高かった初戦と比べたら雲泥の差だ。

 と、意気消沈な僕らの所へ、ひまりちゃんがトコトコとやってきた。

「アキトくん、お疲れ様ー。惜しかったね~! 最後のシュートが決まってれば、一発逆転だったのにー!」

 ひまりちゃんは朗らかに言うと、いつものゆるーい笑顔でにぱーと笑う。
 隣では雪希も優しく微笑んでいた。

 ちなみに1組女子チームは、ひまりちゃんの縦横無尽の大活躍で3戦全勝と乗りに乗っている。
 最終戦も特に問題がなければ勝ってくれることだろう。

「結局、外れちゃったんだけどね」

「でもでも、うちのクラスの得点の半分くらいは、アキトくんだったでしょ? 特訓の成果はバッチリ出てたよね♪」

「それはまぁ、そうだったんだけど」

 だからこそ、最後に僕にボールが回ってきたんだと思う。
 決めてくれってみんなの視線が集まる中で外したのは、なんとも辛いものがあった。

 あそこで決めたかったし、やっぱり勝ちたかったというのが本音だ。

「特訓なんてしていたんですね?」
 そこで、話を聞いていた雪希が驚いたように目を見開いた。

「まぁ、一応。できることはしておこうかなって思ってさ。シュート練習とドリブルでボールを運ぶ練習くらいで、そんな大したことはしてないんだけど」

「いいえ、たくさん得点を重ねていたのにも納得できました。私はそんな発想にすら至らなかったので、本当にすごいと思います」

 雪希がキラキラした目で僕を見つめてくる。

「あはは、ありがと。あとは最後のシュートが決まってくれれば、本当に言うことがなかったんだけどね」

「最後のは時間もなかったし、仕方ないってば。女子の間でもすごく話題になってたよ? アキトくんバスケ上手いねーって。カッコいいねーって」

「へ、へぇ?」

「モテモテだね、アキトくん。嬉しい?」
「なんか妙に声のトーンが低いんだけど……」

 あと真顔になるのもやめて?
 別に僕はそんな、女の子にチヤホヤされたって話を聞かされたからって、喜んでなんかいないだろ?

 ひまりちゃんは冷たい顔も綺麗だけど、さっきみたいに笑っていた方が絶対に可愛いよ?

「そう? 気のせいでしょ?」
「う、うん。そうだね」

「ま、元気出しなよアキトくん。まだもう1試合、残ってるんだしー」
「もちろんやるからには最後まで全力を尽くすよ」

 わざわざ特訓に付き合ってくれたひまりちゃんのためにも、なんとか1勝をもぎ取りたい。

 気が付くと僕は、さっきまでの沈んだ気持ちが嘘のように、とても前向きな気持ちになっていた。
 ひまりちゃんの笑顔とトークが、泥沼に沈みかけていた僕の気持ちを、天高く引き上げてくれたのだ。

「それとみんなもお疲れさま。さっきは惜しかったよね~! あと1試合だけど、頑張って1勝を目指そうね♪ 女子もみんなで応援してるから!」

 僕と話し終えたひまりちゃんが、今度は男子チームの面々に話しかける。
 
「お、おうよ!」
「終わり良ければすべて良しってな!」
「そうさ、負けたままで終われるかよ!」
「が、頑張るぞい!」

 女神も裸足で逃げ出すひまりスマイルも炸裂し、全敗してしょげていた1組男子チームは完全にモチベーションを取り戻し、立ち直った!

 誰が言ったか女神ひまり。
 まさに女神の降臨だ。

 本当にすごいね、ひまりちゃんは。
 とても眩しくて、とても心強い。

 笑顔で話しているだけで、こんなにも気力がみなぎってくるんだから――!

「じゃあギリギリまで体力回復に努めて、最終戦でなんとか1勝を目指そう!」

「「「おー!」」」