「ひまりちゃんがいれば、女子は優勝できるかもだね」
「成績には関係ないって言っても、やっぱりやるからには勝ちたいもんねー」

 特に気負った様子もなく、そうサラリと言ってのけるひまりちゃんが、僕にはとても眩しく映る。

 バスケに限らず、僕が何度やっても上手くできないことを、ひまりちゃんはいつも、いとも簡単にやってのけてしまう。

 ひまりちゃんにはちっとも悪意はなくても、それは僕の心をずっとチクチクと刺し続けてきた。
 そして少し前までの僕はずっと、その痛みから逃げようとしてきた。

 もちろん今だって心の中には、上手くやれないことへの悔しさと、何でもできるひまりちゃんへの劣等感が渦を巻いている。

 でも。
 それでも。

 今の僕は、めげないでいようと思っていた。
 今までみたいに、逃げないでいようと思っていた。

 僕はひまりちゃんに相応しい男子になりたいんだから、いちいち立ち止まってはいられないんだ!

「どうしたらシュートが入るようになるかな?」

 僕は前向きな気持ちをしっかりと作ってから、ひまりちゃんに尋ねた。
 後ろ向きな気持ちのままじゃ、上手くなるものもならないだろうから。

「そーだねー。今みたいにシュートが短い時は、もう少し力を入れて打つといいと思うよ。逆にボードに当たって跳ね返る時は飛び過ぎてるから、少し力を緩めるの。それを繰り返していって、いい感じの力加減を覚えることかな」

 見事なシュートを決めてみせたひまりちゃんは、そう教えてくれるものの。

「理屈じゃそうなんだろうけど、その強弱の感覚が、どうしても掴めないんだよなぁ」

 僕としては、その力加減さえ分かれば苦労はしないといったところだ。

 そういったことが感覚的にパッとできてしまうひまりちゃんは、やっぱりバスケや運動のセンスがあるんだと思う。

 ま、言っても始まらない。

 僕はもう一度シュートを打った。
 ひまりちゃんの言う通りに、さっきよりも少し強めに力を加えてみる。

 しかし僕が放ったシュートは同じようにリングに当たって、大きく跳ね返ってしまった。
 この光景を見るのは、今日だけで何度目だろうか?

 あまりにシュートを外し過ぎて、もはやリングやボードに当たって跳ね返る角度がなんとなく分かってしまうほどだ。

 ひまりちゃんがスポスポと簡単にシュートを鎮めるのと比べたら、まさに雲泥の差。
 ひまりちゃんのアドバイスをもらっても、僕は遅々として成長することができないでいる。

 それでもひまりちゃんはいつもの素敵な笑顔を絶やさず、つきっきりで僕の面倒を見てくれた。
 だから僕もめげずに頑張ることを続ける。

「後はそうだねー。指先までしっかり意識することかな? ボールを離す瞬間の、指先の感覚を覚える感じ? ボールが離れるギリギリ最後まで指にかかってる感じっていうか」

 ひまりちゃんがシュートのコツを、身振り手振りを交えながら一生懸命に言語化してくれる。

 他でもない僕のために。
 それになんとか応えたかった。

 その後も僕は、ひまりちゃんの親身な指導のもと、シュートの練習を続けた。

 おかげで始めた頃よりは、少しはシュートも入るようにはなった――気がした。

 本当に少しだけだけど。
 一気に駆け抜けてしまうひまりちゃんの進みかたとは、比べ物にならないけれど。

 少しでもいいから前へ、前へ──