◇
「ただいま~!」
僕がひまりちゃんの手を引きながら、お店の入り口から帰宅すると、
「こらアキト! 店の入り口じゃなくて、裏の勝手口から入れっていつも言ってるだろ!」
父さんの怒った声が聞こえてきた。
大声でかなりうるさいはずだが、この時間、店にいるのは常連のお客さんばかりなので、みんな「いつものやりとりだなぁ」みたいな顔で、特に気にせずご飯を食べている。
「ごめんなさーい!」
僕も大きな声で返事をした。
「ったく、お前はいつも返事だけは達者なんだからよ。――って、あれ? その子はアキトのお友達かい? こんにちはお嬢ちゃん」
父さんは僕の隣にいるひまりちゃんに気付いた途端に、よそ行きの声になった。
僕が初めて女の子を家に連れてきたからか。
それともひまりちゃんの痩せた身体を見たからかは分からないが。
ともかく父さんは少し驚いたような顔をしていた。
「この子は同じクラスの神谷ひまりちゃん。それでね父さん、僕たちお腹が減っててさ。2人分のご飯用意して欲しいんだけど、ダメかな?」
「おう、そういう事なら待っとけ。すぐにチャーハンを作ってやるからよ」
「あの、でも。私、お金もってなくて」
「べらんめぇ! 子供から、それも息子のクラスメイトから金を取ったりなんかしないっての。いいからそこのカウンター席に座って、雑誌でも読んで待ってな。ちょっぱやで作ってやるからよ」
「は、はい……」
父さんの威勢のいい言葉と豪快な笑顔に、奥手なひまりちゃんはたじたじな様子でうなずいた。
「アキト、とりあえず茶でも持ってってやれ」
「はーい! ひまりちゃん、ちょっと待っててね」
お茶を持っていってからしばらくすると、大盛りのチャーハンがカウンター席にドンと威勢よく置かれた。
「はいよ、ひまりちゃん。それとアキト。エビチャーハンの特製マシマシ盛りだ」
「うわっ、うまそう! めっちゃエビ入ってるじゃん! すっげー!」
大好きなエビがたくさん入った特盛チャーハンを前に喜ぶ僕と、
「ありがとうございます。でも、ううっ、こんなにたくさん、食べられないかもです……」
山盛りのチャーハンを前に肩を縮こませて、おっかなびっくり、おどおどしているひまりちゃん。
「大丈夫! 残ったら僕が食べるから、ひまりちゃんはおなか一杯になったら教えてね!」
「ふわっ! アキトくん、そんなにたくさん食べれるんだ。すごいね」
「ふふん、まぁね。だから心配いらないから、いっぱい食べてね」
当時の僕は「我こそが神に選ばれし人間」だと思っていたので、褒められても謙遜したりはしない。
「えっと、あの、それでは、いただきます」
ひまりちゃんは丁寧に両手を合わせると、スプーンでチャーハンを一すくいし、小さなお口に差し込んだ。
「どう、美味しいでしょ?」
僕は自分で作ったわけでもないのに、ひまりちゃんに自慢げに語りかける。
「美味しいです! すごく美味しいです!」
そう言うと、ひまりちゃんはかきこむようにチャーハンを食べ始めた。
僕はそれを見て安心すると、
「僕も食ーべようっと」
腹ペコのお腹にエビマシマシチャーハンをガツガツと放り込み始めた。
すぐに僕とひまりちゃんは2人揃ってペロリと平らげてしまった。
「「ごちそうさまでした」」
2人そろって両手を合わせてごちそうさまをする。
僕は男の子だからたくさん食べて当然だ。
でもひまりちゃんは女の子だし、やせっぽちだから全部食べられるかな、と実は少し心配していたんだけど、すごくお腹が減っていたのか、ひまりちゃんは見事にエビチャーハンを完食してみせたのだ。
「全部食べるなんてやるじゃん、ひまりちゃん。合格点を上げるよ」
「美味しくて、つい……はぅぅ、恥ずかしいよぉ……」
当時の僕は「我こそが人の上に立って導いていく存在」だと信じ込んでいたので、こんな風にナチュラルに上から目線で他人を評価したりもしていた。
思い出すだけでも本当に恥ずかしい。
「ただいま~!」
僕がひまりちゃんの手を引きながら、お店の入り口から帰宅すると、
「こらアキト! 店の入り口じゃなくて、裏の勝手口から入れっていつも言ってるだろ!」
父さんの怒った声が聞こえてきた。
大声でかなりうるさいはずだが、この時間、店にいるのは常連のお客さんばかりなので、みんな「いつものやりとりだなぁ」みたいな顔で、特に気にせずご飯を食べている。
「ごめんなさーい!」
僕も大きな声で返事をした。
「ったく、お前はいつも返事だけは達者なんだからよ。――って、あれ? その子はアキトのお友達かい? こんにちはお嬢ちゃん」
父さんは僕の隣にいるひまりちゃんに気付いた途端に、よそ行きの声になった。
僕が初めて女の子を家に連れてきたからか。
それともひまりちゃんの痩せた身体を見たからかは分からないが。
ともかく父さんは少し驚いたような顔をしていた。
「この子は同じクラスの神谷ひまりちゃん。それでね父さん、僕たちお腹が減っててさ。2人分のご飯用意して欲しいんだけど、ダメかな?」
「おう、そういう事なら待っとけ。すぐにチャーハンを作ってやるからよ」
「あの、でも。私、お金もってなくて」
「べらんめぇ! 子供から、それも息子のクラスメイトから金を取ったりなんかしないっての。いいからそこのカウンター席に座って、雑誌でも読んで待ってな。ちょっぱやで作ってやるからよ」
「は、はい……」
父さんの威勢のいい言葉と豪快な笑顔に、奥手なひまりちゃんはたじたじな様子でうなずいた。
「アキト、とりあえず茶でも持ってってやれ」
「はーい! ひまりちゃん、ちょっと待っててね」
お茶を持っていってからしばらくすると、大盛りのチャーハンがカウンター席にドンと威勢よく置かれた。
「はいよ、ひまりちゃん。それとアキト。エビチャーハンの特製マシマシ盛りだ」
「うわっ、うまそう! めっちゃエビ入ってるじゃん! すっげー!」
大好きなエビがたくさん入った特盛チャーハンを前に喜ぶ僕と、
「ありがとうございます。でも、ううっ、こんなにたくさん、食べられないかもです……」
山盛りのチャーハンを前に肩を縮こませて、おっかなびっくり、おどおどしているひまりちゃん。
「大丈夫! 残ったら僕が食べるから、ひまりちゃんはおなか一杯になったら教えてね!」
「ふわっ! アキトくん、そんなにたくさん食べれるんだ。すごいね」
「ふふん、まぁね。だから心配いらないから、いっぱい食べてね」
当時の僕は「我こそが神に選ばれし人間」だと思っていたので、褒められても謙遜したりはしない。
「えっと、あの、それでは、いただきます」
ひまりちゃんは丁寧に両手を合わせると、スプーンでチャーハンを一すくいし、小さなお口に差し込んだ。
「どう、美味しいでしょ?」
僕は自分で作ったわけでもないのに、ひまりちゃんに自慢げに語りかける。
「美味しいです! すごく美味しいです!」
そう言うと、ひまりちゃんはかきこむようにチャーハンを食べ始めた。
僕はそれを見て安心すると、
「僕も食ーべようっと」
腹ペコのお腹にエビマシマシチャーハンをガツガツと放り込み始めた。
すぐに僕とひまりちゃんは2人揃ってペロリと平らげてしまった。
「「ごちそうさまでした」」
2人そろって両手を合わせてごちそうさまをする。
僕は男の子だからたくさん食べて当然だ。
でもひまりちゃんは女の子だし、やせっぽちだから全部食べられるかな、と実は少し心配していたんだけど、すごくお腹が減っていたのか、ひまりちゃんは見事にエビチャーハンを完食してみせたのだ。
「全部食べるなんてやるじゃん、ひまりちゃん。合格点を上げるよ」
「美味しくて、つい……はぅぅ、恥ずかしいよぉ……」
当時の僕は「我こそが人の上に立って導いていく存在」だと信じ込んでいたので、こんな風にナチュラルに上から目線で他人を評価したりもしていた。
思い出すだけでも本当に恥ずかしい。