席順は、僕を真ん中に挟んで右にひまりちゃん、左に雪希が座った。
 しかも2人とも、僕に肩が触れるくらいに密着してだ。

 カラオケルームの狭い室内で、女神とプリンセス(ひまりちゃんと雪希のことね)にサンドイッチされて、僕は少し緊張してしまう。

 いや、ひまりちゃんと隣り合って座るのにはもうすっかり慣れているから、緊張しているのは雪希に対してだな。
 そして雪希がこんなにもくっついて座ることに、僕は見当がついていた。

 雪希はカラオケ初心者だ。

 ひまりちゃんが僕にくっつくように座ったのを見て、カラオケではこういう風にしないといけない思ったに違いない。

 僕もそうだけど、初心者って模倣から入るから。

 でも雪希がそれを嫌がってる様子もないし、指摘して変な空気になるのも嫌だったので、僕はあるがままを受け入れることにした。

 なーに。
 ひまりちゃんがもう1人いると考えれば、なんてことはない――ような気がしないでもない――こともない。

 うん、雪希をひまりちゃんと思うのは、やっぱりちょっと無理がある。
 雪希は雪希、ひまりちゃんはひまりちゃんだ。
 つまりやっぱり雪希に対しては恥ずかしさを感じてしまう僕だった。

 それでも僕は緊張をなるべく見せないようにしながら、

「この機械で、歌手とか曲名とか歌詞で検索して、歌いたい曲を決めたら送信を押すだけ。ね、簡単でしょ?」

「はい、これならすぐにできそうです」

 初カラの雪希に、電子端末での曲の入れ方を教えてあげたり、

「ここのドリンクバーはスイッチを押してる間だけ出るタイプだから、コップを注ぎ口に置いて、欲しいドリンクのボタンを押して、好みの量になったら指を離してね」

 いったん部屋の外に出て、ドリンクバーの使い方を教えてあげたりする。

「わかりました。ですがかなり種類があるんですね。少し迷ってしまいます。ちなみになんですが、暁斗くんのお勧めはありますか?」

「僕とひまりちゃんはいつも、初手はメロンソーダなんだ。ジャンクな味と炭酸ののどこしがないと、カラオケに来た気がしないっていうか」

「でしたら私もそれにします」
「雪希ってこういうジャンクなの、好きなんだ?」

「あ、えっと、そういうわけではないんですが。せっかくなので、一緒のを飲んでみたいな、と思いまして」

「ひまりちゃんと一緒のを飲みたいだなんて、すっかり仲良くなったみたいだね」

 雪希は中学の時に友達がいなかったという話を聞いていたので、僕は少しだけ安心した。
 なんとなく、2人はいい友達になれるんじゃないかと思う。
 根拠はないけど。

「ひまりさんじゃなくて、暁斗くんと同じものが飲みたかったんです」

 と、雪希が何事か口走ったが、小声だったのもあって、カラオケの店内特有の喧騒にかき消されてしまい、僕はそれを聞きそびれてしまう。

「ごめん、周りがうるさくて聞こえなかったんだ。もう一回言ってもらっていい?」

「な、なんでもありませんので! 独り言ですから!」

 雪希が今度はやけに大きな声で言った。
 顔が赤い。
 どうやら独り言を言ってしまったことを恥ずかしがっているようだ。
 だったらこれ以上の追求はしちゃいけないな。

「じゃ、部屋に戻ろうか。ここだけの話、ひまりちゃんは僕と離れるとすぐに拗ねちゃうからさ」

「ふふっ、なんとなく想像できちゃいます」
 雪希が上品に口元を抑えながらクスクスと笑った。