僕の大切な義妹(ひまり)ちゃん。~貧乏神と呼ばれた女の子を助けたら、女神な義妹にクラスチェンジした~

 その後、高校についた僕とひまりちゃんは、横並びでの入学式をつつがなく終えると、これまた一緒に教室へと向かう。

 1年1組。
 僕とひまりちゃんは同じクラスだ。

「やった♪ クラスも一緒だし、席もアキトくんの隣の席だし♪」
「いつものことだろ」

 昔は兄妹は別のクラスになるのが常識だったそうだが、昨今は授業参観をまとめて1回で済ませるためなどなど、忙しい親の負担軽減の意味もあって同じクラスになることが多いらしい。

 おかげで兄妹になってからというもの、僕とひまりちゃんはずっと同じクラスだった。
 さらに名字が一緒という事もあって、僕とひまりちゃんの席は隣り合わせになることがほとんどだ。
 なので同じクラスで席も隣というのは、特に珍しいわけでもなんでもない。

「アキトくんの隣だと、勉強がはかどるんだよね。アキトくんって、実は学問の神様だったり?」

「本当に学問の神様だったなら、もっと勉強できるってーの。高校受験もひまりちゃんにお世話になりっぱなしだったしさ。ポイントをまとめてくれたり、コツを教えてくれたり。むしろ学問の神様はひまりちゃんだよ」

 少なくとも僕にとってひまりちゃんは、高校に合格させてくれた学問の神様で間違いない。

「ふふふー、アキトくんのためなら、学問の神様にもなれちゃうかも?」
「僕限定なのか?」

「さすがに見ず知らずの人のためには、そこまでの努力はできないかな」
「それはそうか」

 などと、どうでもいい会話をしていると、

「はーい、皆さん! 入学式お疲れさまでした! 席について静かにしてね。ホームルームを始めるわよ」

 若い女性の担任の先生――たしか鈴木先生だったかな? 入学式の最後に担任紹介でそう名乗っていた――がやってきて、すぐに高校生活最初のホームルームが始まった。

「――――というような感じかな。何か質問はあるかしら? ……ないみたいね。じゃあ次は自己紹介をしましょう。あいうえお順で、1人20秒くらいで簡単に挨拶をしてくれる?」

 鈴木先生が高校生活の何たるかを短く語り終えると、新クラス恒例の行事である自己紹介が始まる。

 クラスメイト達があいうえお順に自己紹介をしていく中、僕はこの時間を使って、これからの高校生活について改めて考えていた。

 僕は本当に平凡な人間だ。
 勉強も運動も秀でたものは何一つない。

 輝く宝石のようなひまりちゃんの隣にいることで、僕はここ数年それを嫌というほどに自覚させられてきた。
 ありていに言えば劣等感を感じてきた。

 夜空を彩る月も星も、ひとたび太陽が出てしまうとまったく見えなくなってしまうように、放つ光が強ければ強いほど、周囲の小さな光はかき消されて見えなくなってしまう。

 僕という小さな光は、ひまりちゃんの太陽のような圧倒的な光量の隣では、輝くことすら難しかった。

 僕は光で周囲を照らす存在じゃなく、ひまりちゃんに照らされて隠れてしまうその他大勢の1つだった。
 それを理解した僕は、いつしか光ろうとすることをやめてしまった。

 光り輝くひまりちゃんの隣で、光ろうとあがくことが怖くなった。

 だけど。
 それでも。

 劣等感を抱えたままで、僕はひまりちゃんの隣にいたくなかった。
 ひまりちゃんが見ている理想の僕に、僕は少しでも近づきたかったのだ。

 ひまりちゃんの兄として紹介された時に、ひまりちゃんが恥ずかしくないように、少しでもいい男になりたかった。

 なにより僕は、ひまりちゃんが昔の恩義とかそういうのを関係なしに、今の僕を好きになって欲しかった。

 そんな男としてのちっぽけなプライドは――小さな小さな光は。
 だけど大きな劣等感に押しつぶされそうになりながらも、僕の中で決して消えることはなかった。

 もちろん、昔の僕はもういない。
 今の僕はひまりちゃんを助けた頃の僕とは大違いだ。
 ひまりちゃんを助けた子供時代のような、身勝手な万能感はもはや僕には存在しない。

 それでも僕は僕にできる全力を尽くして、少しでもいい男になりたかった。
 ひまりちゃんの隣で、少しでも光り返したかった。

 そのために何ができるかを考えて――僕はこのクラスのために積極的に何か貢献をしようと思っていた。
 昔、ひまりちゃんを助けるなんて当たり前のことだと思っていたように、誰かの役に立つ人間になるんだ。

 まぁ今はもう高校生だし、そういうのはなかなか難しいのかもしれないけど、なろうと努力をしようと思う。

 まぁ、結果的になれなくてもいいんだ。
 でもきっと、僕のこの行動はひまりちゃんとの関係にも何かしらの影響を与えると思うから。

 僕の大切な義妹(ひまりちゃん)のために、高校進学をきっかけとして、僕は僕を変えようと思う。

 だからまずは──
「さーてと。自己紹介も終わったから、最後にクラス委員を決めましょうか。誰か立候補したい人はいるかな?」

 鈴木先生の言葉に、自己紹介でちょっと盛り上がっていた教室内がしーんと静まり返った。

「あははは……。クラス委員はクラスの雑用や生徒会のお手伝いといった面倒な役割がほとんどだけど、社会経験の練習にもなるし、内申点にも加算されるから、学校推薦やAO入試を狙ってるならやっておいて損はないわよ? 文化祭とかのイベント前以外は、言うほど忙しくもないし」

 鈴木先生が、これでもかと明け透けにクラス委員のメリットを強調する。
 しかし高校に入って早々、3年後の大学受験におけるメリットを話されても、入りたてホヤホヤの新入生の心には響くことはないだろう。

 しかもイベント前は忙しく、大多数が受けるであろう一般入試にはまったく関係ないと言っているに等しいわけで。

 鈴木先生の「美味しい話」を聞いてもクラスの誰も手を上げない中、

(大丈夫。昔はやれたじゃないか。クラス委員なんて、勉強も運動もカッコよさも関係ないんだ。だから立候補しても大丈夫。今の僕にだってやれる。ビビるな神崎暁斗。ひまりちゃんの隣で輝いていられるような、いい男になりたいんだろ――!)

 僕は一度、大きく深呼吸すると、意を決して手を上げた。

「はい、クラス委員に立候補します!」

 元気よく、ハキハキと。
 あの頃の、ひまりちゃんが憧れた僕のように!

「君は、えぇっとお兄ちゃんの方の神崎ね。うん、やる気があるみたいで何よりよ。さて、他に立候補はいるかしら? なければクラス委員は神崎兄にしてもらうことになるけれど?」

 鈴木先生の言葉に、しかしクラスの誰も反応はしない。
 みんなの心境としては、面倒くさいだけのクラス委員に立候補してくれてラッキーってなもんだろう。

「じゃあクラス委員は神崎兄で決定ね。1年間、よろしく頼むわよ」
「はい!」

 僕はこれまた元気良く返事を返した。
 ひまりちゃんのに相応しい、いい男になるための第一歩として、まずはクラス委員としてこれから一年、頑張ろう!

「じゃあ続いてクラス委員補佐を決めるわね。クラス委員が男子だから、こちらは女子にやってもらうことになるわ。念のために説明しておくと、これは男女の違いから生じる微妙な事案にスムーズに対応できるようとの配慮であって、それ以上の意味はないからね」

 最近では事あるごとに聞く耳タコの説明だが、これを省くといろいろ問題になるらしい。
 学校の先生も大変だ。

「じゃあ立候補はいるかしら」

「私やります! 立候補します!」

 すかさずひまりちゃんが手を上げた。
 その途端に男子たちがざわめき始める。

「えー、神崎さんが補佐やるなら、俺がクラス委員をやってもいいぜー」
「先生、俺、今からクラス委員に立候補してもいいっすか?」
「俺もなんかやる気出てきたかもっす!」

 好き放題言い始めた男子たちに、しかし先生はぴしゃりと言った。

「残念ながら、却下します。社会において正常なプロセスで決定したことは、原則的に覆りません」

「「「そんな~」」」
 その言葉に、盛り上がっていた男子たちががっくりと肩を落とした。

「話が逸れましたが、他にクラス委員補佐に立候補する人はいませんか? はい、いませんね。ではクラス委員補佐は神崎ひまりさんに決まりました」

「やった♪」
 クラス委員補佐に決まって、小さくガッツポーズをするひまりちゃん。

「じゃあ今日はこれでやることは全て終わりよ。神崎兄妹は、クラス委員の簡単な説明をするから、終わった後に少しだけ残ってもらえるかしら」

「分かりました」
「はいっ♪」

「ではまず初めての仕事として、神崎兄には終礼の号令をお願いするわね」

 先生とクラスメイト達の視線が僕に集まる。

 うぐっ。
 久しぶりに注目を浴びたことで緊張感を覚えるが、ああもう! こんなことでいちいちビビるなっての。

 ひまりちゃんの隣に立ちたいんだろ?
 だったらちょっと視線が集まったくらいで、ヒヨってられるかよ!

「起立、気を付け、礼!」
 僕は緊張感をグッと飲み込むと、ハキハキと号令した。

「「「「「ありがとうございました」」」」」
 もちろんクラス委員となった僕の号令がスルーされるなんてことはなく、クラス全員が立ち上がって礼をして、これで入学式の一連の学校行事は全て終了した。

 ということで僕はクラス委員に。
 ひまりちゃんはクラス委員補佐になった。
「ひまりちゃん、僕がクラス委員になったから立候補しただろ」

 貰ったプリントやらなんやらをカバンに詰めながら、僕は隣に座るひまりちゃんにちょっとだけ苦言を(てい)した。

「えへへ、そうだよー」
 しかしひまりちゃんはにへらーと、締まりのない笑いを返してくる。

「そういう不純な動機はよくないんだぞ?」
「だってアキトくんと一緒にやりたかったんだもーん。それに私、雑用とか結構得意だし。クラス委員とか向いてると思うんだよね」

「まぁ、ひまりちゃんは何でも器用にこなすもんな。向いているとは思うよ」
「でしょでしょ?」

 実際うちの食堂のお手伝い1つとっても、ひまりちゃんはハンパなく手際がいい。
 どれだけ手際がいいかというと、やることなすこと完璧すぎて、父さんから料理の一部を任せてもらえるほどだ。

 まだ高校生になったばかりなのに、ひまりちゃんは何をやらせてもすごかった。

「じゃあ先生のお話を聞きに行こっ♪」
「だな」

 ひまりちゃんと連れだって鈴木先生の元へ向かうと、そのまま職員室に連れていかれる。

 すぐ終わるって言ったのにガチな感じじゃん、とか内心ちょっと思ったんだけど、お話は10分もかからずに早々と終了した。
 教室にはまだ他の生徒も残っていたし、ただ静かに話したかっただけのようだ。

 しかも、

「2人とも立候補するなんて偉いわね。ほら、最近の子ってどちらかというと個人主義が強いから、クラス委員みたいな面倒な役割を決めるのは結構苦労するのよね。だから期待してるわよ。頑張ってね」

 とエールを送られた上に、ジュース代まで奢ってくれた。
 もちろん、ありがたく頂戴した。



 帰り道。

「鈴木先生、すごくいい先生っぽかったね。よかったー。美人だし、ジュースも驕ってもらえたし」

 貰ったジュース代で早速、校内自販機で買った紙パックのフルーツ牛乳をストローでチューチューしながら、ひまりちゃんがにへらーと幸せそうに笑う。

 うちの食堂の冷蔵庫にも置いてあるこのフルーツ牛乳が、ひまりちゃんは昔から大好物で、今でもこうやって事あるごとに愛飲している。

「教材とかも基本的には先生が自分で運ぶみたいだしな。あんまり仕事もなさそうで結構ラッキーかも」

 僕もパックの100%オレンジジュースをストローでチューチューする。
 うん、薄っすらと感じる酸味が美味しい。

「あ、それって実はめちゃくちゃ大変だったりするフラグ的な?」

「おいおいひまりちゃん。言霊(ことだま)って言うだろ? 本当になったらしんどいだけだから、そういうことを言うのはやめような」

「はーい♪ ねぇねぇアキトくん、ジュース交換しようよ? 私もオレンジジュース飲みたいなー」

 言ったそばからひまりちゃんは僕の持っていたオレンジジュースをヒョイっと手に取ると、ストローに口を付けてチューチューし始めた。

「ひまりちゃん。はしたないから、せめて返事を聞いてからにしような」

「だってアキトくんは絶対ノーって言わないしー。だから答えを待たなくても問題ないしー……ん~~! 甘ったるいフルーツ牛乳もいいけど、オレンジジュースも爽やかな酸味があって美味しいよねー♪」

「まったくもう、ひまりちゃんは」

 信頼の裏返しとも言えるひまりちゃんの態度に、思わず苦笑してしまう僕の手元に、ひまりちゃんはお返しとばかりに自分のフルーツ牛乳を手渡してくる。

「はい、アキトくんもどうぞ。美味しいよー」
「サンキュー……うん、美味しい。昔からまったく変わらない味だ」

「そうそう、それがいいとこなんだよね~。これを飲むたびに昔を思い出せちゃうから」
「――そっか」

 ひまりちゃんはきっと、昔の調子乗ってた頃の僕を思い出すのだろう。
 あの頃の僕は、ひまりちゃんの心の中で神格化されているっぽいから。

 そしてこれはいわゆる間接キスなのだが、それについては今さら騒ぐようなものでもない。
 ひまりちゃんは甘えたがりなので、事あるごとに「それ、一口欲しいな~」とおねだりしてくるのだ。

 僕たちは兄妹で。
 だから間接キスなんてそれこそ星の数ほどしてきた仲だった。

 そんな感じで、のどを潤しつつひまりちゃんと話しながら、高校からの帰り道をのんびりと歩いていると、僕たちは駅前に一人のクラスメイトがいるのを発見した。

 もちろんここは高校最寄りの駅なので、クラスメイトがいても不思議でもなんでもないんだけど、僕が言いたいのはそうではなくて――
「ねぇ、アキト君。あれって同じクラスの子だよね? えっと、たしか上白石雪希《かみしらいし・ゆき》さん」

 ひまりちゃんが少し先を、こそっと指差しながら言った。

「だよな」

 さっきのホームルームで行われた自己紹介で、すごく珍しい名字だったのもあって、僕も名前を記憶していた。
 黒髪ぱっつんがものすごく似合う、日本人形みたいに物静かで美人な女の子だ。

「もしかしてナンパされてない? しかも困ってそうな感じかも」
「やっぱりそう見えるよな」

 上白石さんはチャラそうな男に手首を捕まれていた。

 制服を着ているので向こうも高校生だろうか。
 しかしブレザー制服をキッチリと身に着けている上白石さんとは対照的に、チャラ男はズボンはだぼだぼの腰パン、シャツは全出し、ネクタイはだるだる。
 品のない金のネックレス&金のピアス。

 ダラっと着崩してオラついているのがイケてると思っていそうな、いかにも軽薄な男だった。
 僕とは価値観が違いすぎるので、あまり友達にはなりたくないタイプかな。

「上白石さん、美人だもんね。上品っていうか、本物のお姫様みたい」
「日本人形みたいな静謐とした綺麗さがあるよな」

「髪もモデルさんみたいにサラサラだよね」
「濡れ羽色って言うのかな? つやつやで、キューティクル感がすごいよな」

「……」
「でも嫌がってるのは分かるだろうに、ほんと美人は大変だよなぁ」

 ひまりちゃんも可愛いかったので、これまでに男に言い寄られることも多かった。
 そういう時、決まってひまりちゃんは僕にべったりくっついてきて、お前なんかお呼びじゃないアピールをしてきた。

 僕としては、そういう過去のアレコレも含めて言ったつもりだったのだが、

「ふーん?」
「な、なんでそんな、露骨に不満そうな顔で見てくるんだよ?」

 ひまりちゃんはとても不満そうな顔で僕を見つめていた。

「別にー? アキトくんはああいう清楚でお上品なお姫様タイプが好みなんだなーって思っただけー」

「そ、そんなことは言ってないだろ? あくまで一般論であってだな」

「……ま、そういうことにしておいてあげるね。それよりアキトくん」
「分かってる。助けないわけにはいかないよな」

「できそう?」

「そうだな、友達のフリ作戦で行けそうかな? でも念には念を入れて、ひまりちゃんは離れたところで隠れて監視して、何かあったら迷わず駅員さんに通報してくれ」

「二段構えだね。合点承知、任せて!」

「じゃあ行ってくる」
「頑張ってね、アキトくん!」
「ああ!」

 僕はそれとなくひまりちゃんをチャラ男から遠ざけると、チャラ男に絡まれている上白石さんのところへと向かった。

「大丈夫。過去にひまりちゃんにアプローチしてくる男子たちを撃退してきたのと、何も変わらないだろ? そもそも駅前なんて目立つ場所じゃ、向こうだって騒動は起こしたくないはずなんだ」

 歩きながら、緊張する自分に言い聞かせるように僕はひとり言をつぶやく。

「何も起きはしないし、万が一なにかあってもひまりちゃんのサポートだってある。昔のイキってた頃の僕でなくとも、これはイージー過ぎるミッションさ。だから緊張するな僕。ビビらずにGOだ」
「雪希《ゆき》! 待たせちゃったみたいでゴメン! 先生の話が長引いちゃってさ!」

 調子に乗っていた頃の昔のイケイケな自分を思い出しながら、自信たっぷりに、爽やかな笑顔とともに右手を上げて、僕は上白石さんに元気よく声をかけた。

「上白石さん」ではなく名前で「雪希」と呼んだのは、僕たちが親密な関係であるとチャラ男に思い込ませるためだ。

 もちろん上白石さんと僕とは今日初めてクラスメイトとして認識しあっただけの関係性だけど、チャラ男を追い払うためなので今だけ限定で許して欲しい。

 僕の声に反応して、上白石さんはハッとしたように僕に視線を向けてくると、

「神崎君」
 見るからにホッとしたような顔を見せた。

 僕も名前を覚えてもらっていたことに、内心でホッとする。
 名前も知らないのに友達だと言い張るのは、さすがに無理があるからね。

 もちろん僕とチャラ男は、上白石さんとの親密度で言えばそう変わらない。
 ほぼ初対面。

 が、しかし。
 他校のチャラついたナンパ野郎よりは、面倒なクラス委員にわざわざ立候補した真面目そうなクラスメイトの方が、はるかに安心できるはずだ。

「マジほんとごめんな雪希。雪希の大切な時間を浪費させちゃってさ」
「え? あの、えっと……」

「うわっ! 声も出ないくらいにガチ怒ってる感じか!? ほんと悪かった! この通り! 許してほしい!」

 矢継ぎ早に言葉を続けた後、僕は間髪入れずに両手を合わせてごめんなさいのポーズをしながら、頭を下げた。

「あ、ううん。ぜんぜんそんな」

 僕の話に、最初こそキョトンとした顔を見せていた上白石さんだったが、

「マジ全力で埋め合わせするからさ。何でも言ってね」
「あ、そういう……はい、期待してますね」

 すぐに僕の意図に気付いてくれたみたいで、話を合わせてくれた。

 よし、上白石さんとの意思疎通はバッチリ。
 後は一気に畳み掛ける!

「ところでその人は誰? 見たことないけど、雪希の友達?」
「いいえ、ぜんぜん知らない人です」

「知らない人? ふーん。あんた、雪希に何か用なのか?」
 言いながら、僕は上白石さんからチャラ男へと視線を移した。

「あ、いや。なんでもないってーか……」

 親密度が桁違いな(ように見える)僕の登場により、チャラ男は己の敗北を悟ったようだった。
 なんともバツが悪そうに視線を逸らしたチャラ男は、上白石さんの手を掴んでいた手を離すと、逃げるように無言で去って行った。

 OK!
 ミッション、コンプリート!

 緊張が解けて大きく息を吐くとともに、心の中でガッツポーズをした僕に、

「神崎君、助けていただき、ありがとうございました」
 上白石さんが腰をしっかりと折ってお辞儀をしながら、感謝の言葉を伝えてきた。

「あはは。たまたま見かけて放っておけなかっただけだから、気にしないで」

 そんな上白石さんに、僕は軽い言葉で返す。

「そんな、すごく助かりました! わざわざ演技までしてくれて」
「下手な演技でごめんね。上白石さんがすぐに話を合わせてくれて、僕も助かったよ」

「ふふっ、意図はすぐに分かりましたから」

「それと馴れ馴れしく名前で呼んじゃったのも、ごめん」
 これはやはり謝っておくべきだろう。

「いえ、私はそういうの気にしませんから」
「そ、そう? 上白石さんが気にしてないなら、よかったかな」

「あの、雪希で――」
「え?」

「せっかくなのでこれからも雪希って呼んでくれませんか?」
「ええっと」

「これも何かの縁だと思うんです。それに上白石って長くてちょっと呼びにくくありません?」

「それはちょっとあるかも。まぁそういうことなら、そうさせてもらおうかな」
「はい♪」

 上白石(6文字)と雪希(2文字)だもんな。
 後者の方が呼びやすいのは間違いない。
 だからそこに特別な意味はないと思う。

 やけに嬉しそうだなって思わなくもなかったけど、まさか僕に一目惚れしたとかではないだろう。

 なんて話をしていると、

「アキトくん、グッジョブ♪ 上白石さんは災難だったね~」

 監視員の業務を終えたひまりちゃんが、満面の笑みを浮かべながら、とことことやってきた。
「あ、神崎さん」
「ひまりでいいよー。名字だとアキトくんとどっちか分かりにくいでしょ?」

 ひまりちゃんがにへらーと笑う。

「でしたらわたしも雪希でいいですよ」
「オッケー。よろしくね、雪希ちゃん♪」
「ひまりさん、よろしくお願いします」

 2人の美少女が笑顔で会釈を交わし合った。
 いいね。
 僕も頑張って助けた甲斐があったというものだ。

「2人は一緒だったんですね」

「そうだよー」
「ひまりちゃんとは帰る家も一緒だからね」

「2人はその……兄妹なんですよね?」

「うん、そうだよ」

 僕の答えを聞いて、なぜか雪希がホッとしたように胸に手を置いた。
 あれかな。
 高校生らしからぬ(ただ)れた関係ではないと分かって、安心したのかな?
 見た目通りの真面目な性格なんだろうと、僕は察しを付けた。

「義理の兄妹だけどね。アキトくんのお父さんとわたしのお母さんが再婚して、だから血は繋がってないんだー」

 ひまりちゃんがさらっと義理であることを付け加えた。
 もちろん、隠すことでもないので、いいんだけど。

 クラスにはいないけど、高校には同じ中学出身の生徒もいるし、誕生日が3か月しか離れてないとかで、どうせすぐにばれるだろうから。

「え? そうなんですか?」
 すると雪希が今度はひどく驚いた顔を見せた。

 なんか思ってたよりも結構、表情豊かなんだな。
 自己紹介も物静かな感じだったし、ちょっと意外かも。

「そうそう。だから結婚とかもできちゃうんだよねー。だから実質、婚前同棲的な?」

「け、結婚……婚前同棲……」

 さらにガックリとしたような顔を見せる雪希。
 おおっと。
 もしかして僕とひまりちゃんが不純な関係だと思われているのでは?

 変な勘違いをされるとマズいかもと思った僕は、少し説明をする。

「ちなみにできるだけであって、義理の兄妹って、ほとんど結婚に繋がらないみたいだよ。結婚してる義理の兄妹も、最初から結婚する前提で養子に入る、みたいなのがほとんどらしいし」

 昔調べたことがあったんだけど、実際はそういう感じらしい。

「あ、そうなんですね」
 雪希の顔がまたまたホッとしたような顔になった。

 どうやら僕とひまりちゃんが(ただ)れた関係にあると勘違いしているのでは、という僕の推測は当たっていたようだ。

「ほとんどってことは、繋がることもあるってことだよね」
「まぁ、そうなんだけど」

「ならばよし!」
「ひまりちゃんは本当にポジティブだなぁ」

 今日会ったばかりのクラスメイトの前で、いつになく露骨な好意を見せてくるひまりちゃんに、僕は小さく苦笑した。

「素敵なお兄さんがいて幸せですね」
 そんな僕らのやり取りを見て、雪希も楽しそうに笑う。

「でしょでしょ? もう、アキトくんってば、昔から本当にカッコいいんだから」

「ひまりちゃん。世間一般ではそこは『そんなことはない』って謙遜するところだよ。今のは社交辞令ってやつだ」

「なんで自慢のお兄ちゃんを謙遜しないといけないの? ねー、雪希ちゃん」
「ふふっ、そうですよね。それに社交辞令じゃなくて、さっきの暁斗くんは本当に素敵でしたから」

 女優顔負けの透きとおるような笑顔を向けてくる雪希に、僕は思わずドキッとしてしまう。
 改めて見ると、雪希は本当に美人だった。
 シャンプーのCMに出てくる女優さんのような、さらさらでキューティクルな長く美しい黒髪。

 端正に整った顔立ち。

 ひまりちゃんが太陽の下で元気に咲くパンジーの花のように愛くるしい可愛さだとしたら、雪希は月明かりに照らされた百合の花のような高貴な美しさを持っていた。

「だってー、アキトくん。頑張った甲斐あったね~♪」
「はいはい……。ごめんな、雪希。ひまりちゃんはちょっとブラコン気味なんだ」

「えー、妹がお兄ちゃんを好きで何が悪いの?」
「物には限度ってものがあるんだよ。お金だって借り過ぎるとそれ以上は貸してくれなくなるだろ?」

「お金と違って兄妹愛には限度額なんてないしー」
「あるよ。世間体とか一般常識って言う形でね」

 僕とひまりちゃんの間で、論破合戦を始まった。
(幼い頃にイキっていた僕の影響で、ひまりちゃんはすごく論破合戦が得意なのだ。それこそ僕よりも)

「それってつまり、誰かに迷惑をかけないためのルールだよね?」
「ここには雪希がいる。雪希だって度が過ぎたブラコンを見せられたら、反応に困るだろ?」

「つまり雪希ちゃんが困ってなければいいんだよね? ね、雪希ちゃん。困ってないよね?」
「困ってるよな、雪希?」

「ふふっ、本当に仲が良いんですね。羨ましいです」

 僕とひまりちゃんの双方から問われた雪希が、ハイともイイエとも言わずににこやかに笑った。
 あえてズレた回答をすることで、議論自体をうやむやすにして終わらせる高等技術だ。
 さては、できるなお主?

「さーてと。道端であんまり引き止めちゃ悪いよな。そろそろ行こうかひまりちゃん」

 いつの間にか、結構ガッツリと話し込んでしまっていた。
 無益な論破合戦をしていても生産性がないし、話が途切れたこのタイミングは解散のいい頃合いでもあるだろう。

「あ、ほんとだ。ごめんね、雪希ちゃん。長々と話し込んじゃって」
「そんな、ぜんぜん。私もお話ができて楽しかったです。あの、良かったら――」

「なに?」

「良かったら友達になりませんか? その、実は私、中学の時に少し浮いていて、あまり友達がいなくって。新しい高校で友達ができるかなって、心配だったんです」

 雪希がおずおずと切り出した。

 雪希は受け答えもいたって普通だし、こんな綺麗な子なのに友達がいないなんてことあるんだな、なんて僕が不思議に思っていると、

「え、もう友達でしょ? ねぇアキトくん」
 ひまりちゃんがにへらーと、いつものゆるーい笑顔で言った。

「だよな。名前で呼び合ってるんだし、もう友達だよ」
 それについては僕も異論はない。

「ぁ――」

「もう仲良しなのに、わざわざ友達になろうなんて聞いてくるなんて、へんな雪希ちゃん。ってわけでライン交換しよっ♪」

「あ、えっと」

「ほらほらスマホ出してー」
「は、はいっ」

 ひまりちゃんに急かされて、雪希がいそいそとスマホを取り出す。
 僕もスマホを取り出して、3人でちゃっちゃとライン交換を済ませた。

 早速、目の前の雪希にスタンプを贈ると、雪希がわたわたとスマホを操作して、少ししてからスタンプが返ってくる。
 可愛らしい子犬が「よろしくお願いします」と礼をしているスタンプだった。

「じゃあ、また明日学校でね。ばいばーい」
「また明日」
「はい、また明日、学校で」

 別れの言葉を交わすと、雪希が駅に歩いていくのを2人で見送る(僕とひまりちゃんは徒歩通学だ)。

 駅の構内に入って見えなくなる前に、雪希はこちらを振り返ると、にっこり笑いながら右手を振ってくる。
 僕とひまりちゃんも笑顔で右手を振って返した。

 こうしてナンパ男を撃退するミッションは、雪希と友達になって幕を閉じた。
 雪希と別れた僕たちは、再び帰り道を歩き始める。

「雪希ちゃんには災難だったけど、アキトくんの格好いいところが見れたのは、良かったかなー」
「友達の振りをしただけだし、別にカッコよくもなんともないでしょ」

 色眼鏡を何重にもかけたひまりちゃんに、僕はいつものように苦笑を返す。

「またまた謙遜しちゃってー。雪希ちゃんも、アキトくんに助けられてキュンって来てたみたいだし」
「何をバカなこと言ってるのさ。ひまりちゃんじゃあるまいし」

「むむっ! アキトくん、今のはどういう意味かなー?」
「言葉どおりの意味だけど? 胸に手を当てて考えてみなよ?」

 するとひまりちゃんがなぜか僕の手を取って、自分の胸へと押し当てた。
 むにゅりと、女の子にしか存在しない柔らかい感触が、僕の手のひらに返ってくる。

「どうどう?」
「ちょ、ひまりちゃん!?」

 突然のハレンチ行動に、慌てて手を引いた僕を見て、

「あはは、アキトくん照れてるし~♪」
 ひまりちゃんがケラケラと楽しそうに笑う。

「あのね、ひまりちゃんももう高校生なんだから、そういうのはやめないとだよ」

「もっともらしいことを、顔を真っ赤にして早口で言われても説得力ないでーす」
「むぐっ……」

 などと他愛もない(?)兄妹の会話をしながら、僕とひまりちゃんは家路を歩いて行ったのだった。


◇ ひまりタイム ◇

 その日、つまりは高校の入学式の日の夜。
 お風呂に入ってパジャマに着替えたわたしは、部屋の窓からお月さまを眺めながら、今日という日を振り返っていた。

「今日のアキトくんは、最近のアキトくんとはちょっと様子が違ってたよね。なんだか昔に戻ったみたいだったし」

 誰もやらないクラス委員に立候補したし、ナンパされていた雪希ちゃんを助けにも行った。
 小さい頃と違って、中学生の頃のアキトくんはあまり積極性を見せなかったのに、今日はまるで小学校の頃に――わたしを助けてくれた頃に戻ったみたいだった。

「最近のアキトくんもそれはそれでアンニュイな感じがして素敵だったけど、今日のアキトくんは別格だったなぁ。キラキラって感じで格好良かったぁ……むふふ……」

 今日のアキトくんを思い出すだけで、わたしの胸はうるさいくらいに高鳴っていく。

「でも、格好よすぎるのも問題だよね」

 アキトくんが助けた女の子――雪希ちゃん。
 ナンパから助けたことで友達になった、さらさらの黒髪が本当に綺麗な、お姫様のような女の子。
 だけど――。

「間違いなく、あれは恋する乙女の目だったよね。うん、アキトくん検定10段のわたしには分かるんだから」

 アキトくんのわずかな動作にも逐一反応して、すごく嬉しそうな顔をしていたから、すぐに分かってしまった。

「うーむ。これはちょっと、手ごわそうかも……」

 自分で言うのもなんだけど、わたしは結構可愛いと思う。
 中学の時は「女神ひまり」なんて、男子から呼ばれることもあった。

 だけど雪希ちゃんは別格だった。
 まるで物語のお姫様が、現実の世界へと飛び出してきたみたいだ。

 美少女レベルが他を圧倒していた。

 なのに全然偉そうなところもなくて、自分の美しさをひけらかすでもない。
 あれで友達がいなかったなんて、いったい何の冗談だろう?

「あれかな? 美人過ぎて、周りから一方的にやっかみを受けちゃった系かな?」

 かく言うわたしにも、そういう経験があった。
 もちろん、わたしにはアキトくんって素敵なお兄ちゃんがいたから、全然へっちゃらぴーだったんだけど。

 それはそれとして。

「雪希ちゃんは観察を続ける必要があるよね。強力な恋のライバルになりそうだし。しかもアキトくんもまんざらでもないみたいだったし!」

 あれだけの美少女に好意を寄せられたら、難攻不落のアキトくんもころっと落ちるのでは?
 正直、不安でいっぱいだ。

「でも負けないもん。友達でも、それとこれとは話が別だし。アキトくんは渡さないんだから。というわけで、まずは妹の立場を存分に生かさないとね」

◇ ひまりタイム END ◇
 入学式の日の夜。

「明日から早速、授業だ。教科書、ノート、筆記用具。うん、準備はバッチリ」

 明日の準備をしっかりと確認した僕が、少し早いけど明日に備えてもう寝ようかと思っていると、

 コンコン。

「アキトくーん、入るよ~」
 ノックとほぼ同時に部屋のドアが開いて、パジャマ姿のひまりちゃんが入ってきた。

 お気に入りのジェラピケの春秋用もこもこパジャマを着たひまりちゃんは、女神のように可愛らしい。

 このパジャマは、ひまりちゃんがテレビで見て可愛いと言っていたのを聞いて、お店のお手伝いを頑張ってお小遣いを貯めて、誕生日プレゼントで買ってあげたんだけど。
 これだけ気に入ってくれたら、僕も頑張った甲斐があったと言うものだった。

 あと、毎日のようにパジャマ姿のひまりちゃんを見られるのは、お兄ちゃんの特権だよなぁ。

「こんな時間にどうしたんだ? もうそろそろ寝る時間だろ? ちゃんと明日の準備はしてる?」

「もち、ちゃんとしてるよー。お月様が綺麗だから、アキトくんと一緒に見ようと思ったの――って、もう雨戸を閉めちゃってるじゃん」

 ひまりちゃんはそう言うと、部屋の電気を消してから、ベッド脇の窓の雨戸をガラガラっと開けた。
 真っ暗になった部屋に、優しい月明かりが差し込んでくる。

 ベッドに上って窓ガラス越しに空を見上げると、雲一つない夜空に、満月ではなかったけど、大きなお月様が悠然と浮かんでいた。

「ほんとだ。綺麗なお月様が浮かんでる」
「でしょでしょ?」

 ベッドから月を見上げる僕に、ひまりちゃんが身体を寄せてくると、キュッとひっついてきた。

「どうしたんだ?」
「新生活が始まって、いろいろ緊張とかもして疲れたから、甘えたい気分なのー」

「まったく。大きくなっても、ひまりちゃんは甘えん坊だなぁ」
「アキトくんにはつい、甘えたくなっちゃうんだよね。えへへ」

 ひまりちゃんは今でも僕を頼ってくれる。
 その期待は裏切りたくない。

「そっか」

 そっけなく答えた僕に、にへらーと笑ったひまりちゃんがさらにギュッとくっついてきて、そこで会話がプツリと途切れる。

 月明かりの差し込む薄暗い部屋で、もこもこパジャマごしにひまりちゃんの体温をじんわりと感じる。
 きっとひまりちゃんも僕の体温を感じているだろう。

 しばらく兄妹で肩を寄せ合って月を見上げていると、
「今日は一緒に寝たいな? だめ?」
 ひまりちゃんが耳元でささやくように呟いた。

 くすぐったくて、僕は思わず肩をビクリと震わせる。

「もう高校生になったんだから、一人で寝ないと」
「今日だけだから、ね? だめかな?」

「今日だけって、ひまりちゃんはいつもそう言うよね?」
「えへへー、そうだっけ?」

「そしていつも笑って誤魔化すんだ。ま、今日だけな?」
「やった♪」

 本当ならここはビシっと厳しく指導しなければならないのだろうけど、甘えてくるひまりちゃんは本当に可愛くて。
 だから僕はいつもこうやって、ひまりちゃんを甘やかしてしまうのだった。

 ひまりちゃんが自分の部屋に枕を取りに行っているあいだに、再び雨戸を閉める。
 ひまりちゃんが戻ってきて、真っ暗になった部屋で、僕たちは1つのベッドで肩を並べて横になった。

 すぐにひまりちゃんが僕の左腕を抱きかかえてくる。
 これも昔からずっと繰り返されてきたことなので、今さらそれについては言及はしない。

 ただ、ひまりちゃんの女の子な部分が年々、柔らかさと大きさを増していくことだけは、僕の心の平穏という観点で問題ではあったけれど。

「アキトくん、今日はすごくカッコよかったよ。おかげで雪希ちゃんとも仲良くなれたし」

「高校に入ってすぐに友達ができたのは良かったよな」
 僕は前半部分はスルーして、後半部分にだけ答える。

「優しそうな人だし、高校生活も楽しくなりそう♪ 改めて高校でもよろしくね、アキトくん」

「こちらこそよろしくね、ひまりちゃん」

 それからベッドの中で他愛もない話を少しだけしてから、僕たちは眠りについた。

 こうして少しだけ頑張った高校生活初日は、ひまりちゃんのぬくもりを感じながら、静かに幕を閉じたのだった。