<ヴァルツ視点>

 修行開始から早三か月。

「今日も張り切っていこ~!」
「は?」

 朝の修行の時間になり、剣を持って庭に踊り出た。
 だけど、そこにいたのはマギサさんだ。

「何してんだてめえ。じじいはどこいった」
「今日は剣はお休みっ。魔法の次のステップに進むためにね」
「あ?」

 マギサさんは、嬉しそうに人差し指を立てて説明を始める。

 なんだか僕をいじめるのが楽しくなってない?
 そんな思いはよそに、彼女は話を進めた。

「なんと今日は、属性魔法に移ります!」
「……!」
「ほら驚いたでしょ」
「……なわけねえだろ」
 
 口からはこう出ていくけど、内心すごく驚いている。

 属性魔法はこの世界の(だい)醐味(ごみ)
 人それぞれに固有のもの(・・・・・・)が存在するんだ。

 僕の解釈に付け足すよう、マギサさんが口にした。

「ご存じ、魔力は自分に合うよう変換することで属性になります」
「ああ」
「そう、私なら【毒】!」
「……!」

 マギサさんの手から、紫のドロドロの物が出て来る。
 手に込めていた魔力を属性に変換したんだ。

「自分で言うのもだけど強力よ? ほれっ!」
「……ほう」(うわっ!)

 マギサさんが、ドロドロとした物を地面に落とす。
 その瞬間、当たった部分だけ草が枯れた。
 これが【毒】属性の効果ってわけだ。

「属性はまさに多種多様。人の数だけ存在するわ。【炎】と【火】みたいに、似たものもたくさんあるけどね!」
「ああ」
「それと~……」

 マギアさんが少し言葉をためる。
 いかにも重要そうな事を言う顔だ。

「これはあまり伝わっていない(・・・・・・・・・・)話だけど、属性は人の本質を表すと言われている説も存在するの」
「……!」

 すごいな、この情報を知っているのか。
 というのも、これはゲーム本編の後半(・・)で出て来る情報だ。

 本来なら、属性はランダムに生まれ持つと言われる。
 それがこの世界の常識だ。

 だけど、本当は違う。
 マギサさんが言ったように「属性は人の本質を表す」。
 これは主人公たちがイベントで明らかにする。

「面白い話よねえ」
「……」

 その説明でさらに情報を思い出す。
 この世界で言い伝えられる“逸話”のことだ。

 属性はほぼ無数に存在するけど、中でも特別(・・)な二属性がある。

 人々に“希望”をもたらす【光】。
 人々に“絶望”をもたらす【闇】。

 この二つを発現させたのは、過去に一人ずつのみ。
 勇者の【光】。
 魔王の【闇】。

 今から何百年も前のこと。
 争い合った両者のみが持っていたとされ、以来、伝説となった属性だ。
 学園が始まるまでは(・・・・・・・・・)

「……」

 そして、ヴァルツ()は悪役でありラスボス。
 後に判明することだけど、実は魔王の(けい)()を持っている。

 ゆえに、発現させるのは──【闇】。

「やってみな、ヴァルツ」
「……ああ」

 マギサさんに言われ、目を閉じる。

 魔力を属性に変換するコツは学んだ。
 あとは魔力を込め、心の奥底にあるイメージを──放つ!

「……!」

 魔力が色を持った感覚があり、目を開く。

 ──その瞬間、

「嘘でしょう!?」

 マギサさんがひっくり返るほどに驚く。
 だけど、一番驚いているのは紛れもない僕だ。

 だって、だってこの属性は……!

「【光】……?」

 それはヴァルツが持つはずもない、輝かしい色を放っていたのだから──。