光り輝く王座。
かつては魔王に奪われ、忌み嫌われた座だ。
しかし、今は違う。
そこには、一人の傲慢な男が座る。
「……フン」
第五十四代アルザリア国王
──『ヴァルツ・ブランシュ』。
彼はいつものように偉そうに振る舞う。
そんなヴァルツに、付きの者が笑いかけた。
「ご機嫌がよろしいですね、ヴァルツ陛下」
「そんなことはない」
彼女は『メイリィ』。
ヴァルツの身の回りの世話を担当し、執事の中では唯一玉座を行き来できる存在である。
「それより、あいつらは呼んだのか」
「はい。ただいまいらっしゃるかと」
「それは良かっ……それでいい」
「ふふっ」
だが、会話の途中で少し詰まったヴァルツ。
何やら口調に違和感がある。
「私の前では本心でよろしいのですよ」
「……フン。考えておく」
そんな会話から少し。
彼女の言う通り、王座に入ってくる者がいる。
「お呼びでしょうか、ヴァルツ陛下」
「ああ」
「この王妃である私に」
「ひとこと余計だ」
彼女は王妃──『リーシャ・スフィア』。
ヴァルツが入学する少し前より交流があり、今は王妃(第一夫人)としての地位を築いている。
その綺麗な姿は評判が良く、評価が高い。
しかし、扉を閉じた途端ヴァルツに飛びつく。
「だって、ヴァルツ様から呼んで下さるなんて!」
「……絶対に外ではくっつくなよ」
彼女は、表舞台にはあまり姿を見せないことで有名だ。
それはヴァルツが止めているからと噂があるが、真相は定かではない。
「嬉しいです!」
「いい加減、邪魔だ」
学園時より変わらぬこの会話。
そんな二人に、もう一つ声が聞こえてくる。
「ヴァルツ陛下」
「ああ」
第二王女『シイナ・ステラ』だ。
ヴァルツと同じく、アルザリア王立学園出身。
それほど地位が高くない彼女にしては、異例の王室昇格となった。
それが当時はかなり話題になったという。
「ここには誰もいない。いつものようにしろ」
「……陛下」
ヴァルツのその言葉に、シイナはヘラっと笑みを浮かべた。
「そう言われちゃなあ、ヴァルツ君」
「フン。かえって気持ち悪いだろう」
そんなシイナに、リーシャは笑いかけた。
「生意気ですわね、第二王女」
「むっ!」
いつものだ。
ヴァルツは呆れながらも、二人を見守る。
「リーシャさんだって、イメージが崩れるからってヴァルツ君に表舞台を止められてるくせにー!」
「なんのことでしょう。私はヴァルツ様の隣にいるという大切な責務があるだけのことです」
「むむっ!」
二人は王室に入る際、王妃の座を争った。
料理対決から始まり、動物に好かれる対決、単純な魔法対決など。
それは多岐に渡る勝負だったという。
そうして、最後に勝利をもぎとったリーシャが王妃(第一夫人)となったのだ。
「わーぎゃー」
「わーぎゃー」
今でもその因縁は消えず。
音が漏れない玉座という環境において、二人はよく言い争うようだ。
そんな二人に、ヴァルツはようやく口を挟む。
「その辺にしておけ」
普段は仲の良い二人。
ヴァルツに一度止められれば、すぐに止む。
「ヴァルツ様が言うなら」
「しょうがないなあ」
「なら初めからするな」
尤もな言葉をこぼすヴァルツだが、そんな二人を微笑ましく思う。
(変わらないな)
そうして、さらにもう一人。
ノックの後に入ってくる者がいる。
「ヴァルツ陛下! この資料を見てください!」
「……お前は騒がしいな」
古代遺跡研究家──『サラ』だ。
彼女は自らの道を進んだ。
今は念願の職に就き、国からも支援を受ける業界でも名高い研究家である。
「だってすごい発見なんだよ!」
「それは今度聞くとしよう」
どうせ長くなる。
そう思ったヴァルツは、本題に入った。
「みな、座ってくれ」
「「「……!」」」
その雰囲気に、三人は顔を引き締める。
「お前たちを呼んだのには理由がある」
「ヴァルツ様、それは一体……」
「ああ。だがその前に一つ」
リーシャの問いにうなずいたヴァルツ。
真剣な眼差しで答えた。
「教会から呼んでいる者がいる」
「「「……!」」」
固有名称を出さなくても分かる。
それが──彼女を指すのだと。
「まずは彼女を待つ」
「ヴァルツ・ブランシュ陛下」
「来たか」
あれから少し。
最後の一人が姿を見せた。
ルシアの幼馴染──『コトリ』だ。
彼女は魔王との戦いにおいて、ルシアを失った。
当時はかなり追い詰められたが、やがてルシアの意志を継いで前を向く事を決意。
その結果なったのは、教会の聖女だ。
悲しい思いをする者が一人でも少なくなるよう、日々祈りを捧げている。
「まだそれを持っていたのか」
「はい」
ヴァルツが目を向けたのは、ブレスレット。
ルシアが彼女にあげたものだそうだ。
「私はこれと共に生きていきます」
「……フン」
だが、ヴァルツは視線を外した。
「くだらんな」
「……!」
それには反抗する者がいる。
「そんな言い方……!」
立ち上がり首元を掴んだのはサラ。
不敬だというのは分かっている。
それでも、当時のコトリの悲しみをよく知る彼女には、どうしても許せなかった。
「離せ」
「でも君は……!」
だが、ヴァルツは態度を変えない。
「そんなもの不要だと言っているんだ」
「え? それってどういう……?」
ヴァルツはサラの手を振り払う。
「黙って付いて来い」
「「「……」」」
顔を見合わせた五人はヴァルツへ付いていく。
「ここだ」
「「「……!」」」
ヴァルツが開けたのは、地下へ繋がる隠し階段。
それはサラやコトリはもちろん、王室であるリーシャやシイナ、メイリィも知らない場所であった。
「ヴァルツ様。ここはなんなのですか?」
「黙って付いて来いと言ったはずだ」
ヴァルツは無言のまま歩き出す。
五人もただ付いて行くしかない。
そして、長く続く階段の中。
ヴァルツはこれまでの事を思い出していた。
「……」
あの日、ヴァルツは魔王に勝った。
最後に放った【天地創造】により、存在ごと葬り去ったのだ。
それからは多忙の日々。
事情を知る者には祝福された。
だが、厄介だったのは、ヴァルツの行動を咎めようとした者たちだ。
魔王に対する対策のために魔力を奪い取った。
しかし、それを良しとしない者が少なからず存在した。
全ての王都民が魔王を目撃したわけではない。
中にはただ苦しんだ者も大勢いるだろう。
その騒ぎを抑えるのには大変苦労した。
それでも、ヴァルツは全てを乗り越えて王位にいる。
その時に尽力してくれたのは、今までヴァルツが救ってきた者たちだ。
(改めてありがとう。みんな)
その想いは場所を超えて伝播した。
ヴァルツが生まれ育った場所。
『爺や』は細い目で感極まっている。
「ご立派になられましたな、ヴァルツ様」
また、執事たちも。
「「「いつでもお待ちしております」」」
とある森にぽつんと建つ家。
「帰ったぞ」
「あら、早かったのね」
玄関から入ってきたのはダリヤ。
それをマギサが迎え入れた。
「それにしても、冒険者を引退してまで狩猟って」
「体を動かしてぇんだよ」
二人も変わらぬ生活を送っているようだ。
「さっき、ヴァルツ様の声が聞こえたよ」
「奇遇ね。私もよ」
「今度また会いに行くか」
「ええ」
王都のとある場所。
ふと筆を止めた父ウィンド。
「お前を誇らしく思うよ、ヴァルツ」
「……フッ」
そうして回想を経て、ヴァルツ達はいよいよ最下層に辿り着く。
そこにあったものに、リーシャとシイナが声を漏らす。
「ヴァルツ様、これは……」
「すごいね」
あったのは、大きな結晶のようなもの。
見た事すらない代物だ。
だが、その傍に置いてあった物には見覚えがあった。
サラとコトリが口元を抑える。
「あれって!」
「うそ……!」
結晶の近くにあったのは、一本の剣。
決して高級ではない。
それでも努力の汗と涙が感じられる、使い古された剣だ。
「……」
ヴァルツは王になった。
王都を守った者として。
だがあの日。
ヴァルツは過去に遺してきたものがあった。
一つはヴァルツの本来の人格。
それは、口調を強制されないこの体になっても、傲慢に振る舞うことで意志を継いで行くと決めた。
彼の功績を忘れないため。
人々に傲慢なヴァルツを忘れてもらわないため。
たとえ傲慢な態度であろうと、ヒーローになれることを今のヴァルツは知っているから。
「……フッ」
そして、もう一つ。
大切な親友だ。
ヒーローにはなれた。
だが、ヒーロー全てを守って初めて言うのではないかと考えた。
ならば失ったものを取り戻せばいい。
あの日失ったものを、今目覚めさせることで現実にする。
「遅くなったな」
魔王との戦い以降、ヴァルツはとある研究をしてきた。
それは魔法の可能性。
また【月】と【太陽】の可能性について。
その力の先に、自分は何ができるのかと。
そして辿り着いたのだ。
その両属性の特性に。
「フッ」
ヒントは今までのヴァルツの魔法にあった。
【闇】を使った【闇の吸収】。
【光】を使った【光の放出】。
それらからヴァルツは導いた。
【太陽】の特性は【放出】。
【太陰】の特性は【吸収】。
そして、両属性を理解したヴァルツは手を差し伸ばす。
「──【放出】」
ヴァルツは結晶へ向けて【太陽】を捧げる。
すると光が溢れだし、やがて一つの形を成した。
「……よう」
それと共に手に取ったのは、傍にあった剣。
これはルシアの剣だ。
光が集まったところに、ヴァルツはその剣を放った。
「「「……ッ!」」」
光から現れたのは、それをキャッチする手。
ニヤリと笑みを浮かべたヴァルツは口にする。
「続きをやるぞ」
「うん……!」
その声は、いつか聞いた時のルシアのもの。
「あの日の続きを」
完
かつては魔王に奪われ、忌み嫌われた座だ。
しかし、今は違う。
そこには、一人の傲慢な男が座る。
「……フン」
第五十四代アルザリア国王
──『ヴァルツ・ブランシュ』。
彼はいつものように偉そうに振る舞う。
そんなヴァルツに、付きの者が笑いかけた。
「ご機嫌がよろしいですね、ヴァルツ陛下」
「そんなことはない」
彼女は『メイリィ』。
ヴァルツの身の回りの世話を担当し、執事の中では唯一玉座を行き来できる存在である。
「それより、あいつらは呼んだのか」
「はい。ただいまいらっしゃるかと」
「それは良かっ……それでいい」
「ふふっ」
だが、会話の途中で少し詰まったヴァルツ。
何やら口調に違和感がある。
「私の前では本心でよろしいのですよ」
「……フン。考えておく」
そんな会話から少し。
彼女の言う通り、王座に入ってくる者がいる。
「お呼びでしょうか、ヴァルツ陛下」
「ああ」
「この王妃である私に」
「ひとこと余計だ」
彼女は王妃──『リーシャ・スフィア』。
ヴァルツが入学する少し前より交流があり、今は王妃(第一夫人)としての地位を築いている。
その綺麗な姿は評判が良く、評価が高い。
しかし、扉を閉じた途端ヴァルツに飛びつく。
「だって、ヴァルツ様から呼んで下さるなんて!」
「……絶対に外ではくっつくなよ」
彼女は、表舞台にはあまり姿を見せないことで有名だ。
それはヴァルツが止めているからと噂があるが、真相は定かではない。
「嬉しいです!」
「いい加減、邪魔だ」
学園時より変わらぬこの会話。
そんな二人に、もう一つ声が聞こえてくる。
「ヴァルツ陛下」
「ああ」
第二王女『シイナ・ステラ』だ。
ヴァルツと同じく、アルザリア王立学園出身。
それほど地位が高くない彼女にしては、異例の王室昇格となった。
それが当時はかなり話題になったという。
「ここには誰もいない。いつものようにしろ」
「……陛下」
ヴァルツのその言葉に、シイナはヘラっと笑みを浮かべた。
「そう言われちゃなあ、ヴァルツ君」
「フン。かえって気持ち悪いだろう」
そんなシイナに、リーシャは笑いかけた。
「生意気ですわね、第二王女」
「むっ!」
いつものだ。
ヴァルツは呆れながらも、二人を見守る。
「リーシャさんだって、イメージが崩れるからってヴァルツ君に表舞台を止められてるくせにー!」
「なんのことでしょう。私はヴァルツ様の隣にいるという大切な責務があるだけのことです」
「むむっ!」
二人は王室に入る際、王妃の座を争った。
料理対決から始まり、動物に好かれる対決、単純な魔法対決など。
それは多岐に渡る勝負だったという。
そうして、最後に勝利をもぎとったリーシャが王妃(第一夫人)となったのだ。
「わーぎゃー」
「わーぎゃー」
今でもその因縁は消えず。
音が漏れない玉座という環境において、二人はよく言い争うようだ。
そんな二人に、ヴァルツはようやく口を挟む。
「その辺にしておけ」
普段は仲の良い二人。
ヴァルツに一度止められれば、すぐに止む。
「ヴァルツ様が言うなら」
「しょうがないなあ」
「なら初めからするな」
尤もな言葉をこぼすヴァルツだが、そんな二人を微笑ましく思う。
(変わらないな)
そうして、さらにもう一人。
ノックの後に入ってくる者がいる。
「ヴァルツ陛下! この資料を見てください!」
「……お前は騒がしいな」
古代遺跡研究家──『サラ』だ。
彼女は自らの道を進んだ。
今は念願の職に就き、国からも支援を受ける業界でも名高い研究家である。
「だってすごい発見なんだよ!」
「それは今度聞くとしよう」
どうせ長くなる。
そう思ったヴァルツは、本題に入った。
「みな、座ってくれ」
「「「……!」」」
その雰囲気に、三人は顔を引き締める。
「お前たちを呼んだのには理由がある」
「ヴァルツ様、それは一体……」
「ああ。だがその前に一つ」
リーシャの問いにうなずいたヴァルツ。
真剣な眼差しで答えた。
「教会から呼んでいる者がいる」
「「「……!」」」
固有名称を出さなくても分かる。
それが──彼女を指すのだと。
「まずは彼女を待つ」
「ヴァルツ・ブランシュ陛下」
「来たか」
あれから少し。
最後の一人が姿を見せた。
ルシアの幼馴染──『コトリ』だ。
彼女は魔王との戦いにおいて、ルシアを失った。
当時はかなり追い詰められたが、やがてルシアの意志を継いで前を向く事を決意。
その結果なったのは、教会の聖女だ。
悲しい思いをする者が一人でも少なくなるよう、日々祈りを捧げている。
「まだそれを持っていたのか」
「はい」
ヴァルツが目を向けたのは、ブレスレット。
ルシアが彼女にあげたものだそうだ。
「私はこれと共に生きていきます」
「……フン」
だが、ヴァルツは視線を外した。
「くだらんな」
「……!」
それには反抗する者がいる。
「そんな言い方……!」
立ち上がり首元を掴んだのはサラ。
不敬だというのは分かっている。
それでも、当時のコトリの悲しみをよく知る彼女には、どうしても許せなかった。
「離せ」
「でも君は……!」
だが、ヴァルツは態度を変えない。
「そんなもの不要だと言っているんだ」
「え? それってどういう……?」
ヴァルツはサラの手を振り払う。
「黙って付いて来い」
「「「……」」」
顔を見合わせた五人はヴァルツへ付いていく。
「ここだ」
「「「……!」」」
ヴァルツが開けたのは、地下へ繋がる隠し階段。
それはサラやコトリはもちろん、王室であるリーシャやシイナ、メイリィも知らない場所であった。
「ヴァルツ様。ここはなんなのですか?」
「黙って付いて来いと言ったはずだ」
ヴァルツは無言のまま歩き出す。
五人もただ付いて行くしかない。
そして、長く続く階段の中。
ヴァルツはこれまでの事を思い出していた。
「……」
あの日、ヴァルツは魔王に勝った。
最後に放った【天地創造】により、存在ごと葬り去ったのだ。
それからは多忙の日々。
事情を知る者には祝福された。
だが、厄介だったのは、ヴァルツの行動を咎めようとした者たちだ。
魔王に対する対策のために魔力を奪い取った。
しかし、それを良しとしない者が少なからず存在した。
全ての王都民が魔王を目撃したわけではない。
中にはただ苦しんだ者も大勢いるだろう。
その騒ぎを抑えるのには大変苦労した。
それでも、ヴァルツは全てを乗り越えて王位にいる。
その時に尽力してくれたのは、今までヴァルツが救ってきた者たちだ。
(改めてありがとう。みんな)
その想いは場所を超えて伝播した。
ヴァルツが生まれ育った場所。
『爺や』は細い目で感極まっている。
「ご立派になられましたな、ヴァルツ様」
また、執事たちも。
「「「いつでもお待ちしております」」」
とある森にぽつんと建つ家。
「帰ったぞ」
「あら、早かったのね」
玄関から入ってきたのはダリヤ。
それをマギサが迎え入れた。
「それにしても、冒険者を引退してまで狩猟って」
「体を動かしてぇんだよ」
二人も変わらぬ生活を送っているようだ。
「さっき、ヴァルツ様の声が聞こえたよ」
「奇遇ね。私もよ」
「今度また会いに行くか」
「ええ」
王都のとある場所。
ふと筆を止めた父ウィンド。
「お前を誇らしく思うよ、ヴァルツ」
「……フッ」
そうして回想を経て、ヴァルツ達はいよいよ最下層に辿り着く。
そこにあったものに、リーシャとシイナが声を漏らす。
「ヴァルツ様、これは……」
「すごいね」
あったのは、大きな結晶のようなもの。
見た事すらない代物だ。
だが、その傍に置いてあった物には見覚えがあった。
サラとコトリが口元を抑える。
「あれって!」
「うそ……!」
結晶の近くにあったのは、一本の剣。
決して高級ではない。
それでも努力の汗と涙が感じられる、使い古された剣だ。
「……」
ヴァルツは王になった。
王都を守った者として。
だがあの日。
ヴァルツは過去に遺してきたものがあった。
一つはヴァルツの本来の人格。
それは、口調を強制されないこの体になっても、傲慢に振る舞うことで意志を継いで行くと決めた。
彼の功績を忘れないため。
人々に傲慢なヴァルツを忘れてもらわないため。
たとえ傲慢な態度であろうと、ヒーローになれることを今のヴァルツは知っているから。
「……フッ」
そして、もう一つ。
大切な親友だ。
ヒーローにはなれた。
だが、ヒーロー全てを守って初めて言うのではないかと考えた。
ならば失ったものを取り戻せばいい。
あの日失ったものを、今目覚めさせることで現実にする。
「遅くなったな」
魔王との戦い以降、ヴァルツはとある研究をしてきた。
それは魔法の可能性。
また【月】と【太陽】の可能性について。
その力の先に、自分は何ができるのかと。
そして辿り着いたのだ。
その両属性の特性に。
「フッ」
ヒントは今までのヴァルツの魔法にあった。
【闇】を使った【闇の吸収】。
【光】を使った【光の放出】。
それらからヴァルツは導いた。
【太陽】の特性は【放出】。
【太陰】の特性は【吸収】。
そして、両属性を理解したヴァルツは手を差し伸ばす。
「──【放出】」
ヴァルツは結晶へ向けて【太陽】を捧げる。
すると光が溢れだし、やがて一つの形を成した。
「……よう」
それと共に手に取ったのは、傍にあった剣。
これはルシアの剣だ。
光が集まったところに、ヴァルツはその剣を放った。
「「「……ッ!」」」
光から現れたのは、それをキャッチする手。
ニヤリと笑みを浮かべたヴァルツは口にする。
「続きをやるぞ」
「うん……!」
その声は、いつか聞いた時のルシアのもの。
「あの日の続きを」
完