「勝ちたいのか、死にたくないのか、選べ」
ヴァルツからルシアへ。
その究極の選択を突きつける。
「僕は──」
対するルシアは、まさに即答。
「僕は勝ちたい」
「……!」
一瞬の迷いすらなく答えてみせたのだ。
「フッ」
今のヴァルツの人格は本来のもの。
その傲慢さは普段どころの話ではない。
「悪くない答えだ」
そんなヴァルツが笑った。
彼もまたルシアを認めていたのかもしれない。
「ならば、言う通りにしろ」
「うん……!」
そうして、ヴァルツはルシアへ指示を与えた。
全ては魔王に勝つために。
「魂を全て【太陽】に捧げろ」
★
<ヴァルツ視点>
ずっと続く暗闇の中。
僕は本来のヴァルツと対話をしていた。
『お前はどうなりたい』
「僕は……」
でも、その答えは決まっている。
初めからずっと変わらないものだから。
「みんなを守るヒーローになりたい」
『……フッ。悪くない』
ヴァルツが笑った。
傲慢で、決して笑顔を見せないようなあのヴァルツが。
「ヴァルツ……」
その様子がなんとなく最期を思わせる。
だから僕は聞いた。
「君に聞きたいことがあるんだ」
『……なんだ』
何度も考えたことがある。
以前、人格を乗っ取られた時、どうしてまた僕に返したのだろうと。
あの時、君は『長くは持たない』と言っていた。
でも、実はあのまま返さないこともできたんじゃないかと思う。
だけど、その答えがようやく分かった。
同じ体だからか、嫌でも君の感情が伝わってくるんだ。
「君は寂しかったんじゃないか?」
『……!』
君はずっと孤独なままだった。
だからこそ、傲慢な口調ながら周りを気にかける僕に体を返してくれた。
君は本性をさらけ出せない。
それでも、周りに人がいることに温かさを感じたかったから。
『……』
原作最後の「俺は……!」というセリフ。
あれはプレイヤーであるルシアが、複数人でヴァルツと対峙した時じゃないと起きない。
「俺はお前らみたいになりたかった」。
あれはそう言いたかったんだと思う。
それでも、ヴァルツは最後まで肯定はしなかった。
『そんなわけねえだろ』
「そっか」
だけど伝わってくる。
おそらく本音を隠していることを。
最後まで傲慢な奴だよ、君は。
『直に俺は消える』
「……うん」
『見せてみろよ。お前の行き着く先を』
暗闇が次第に明るくなっていく。
そんな中、おぼろげに聞こえたような気がした。
それは、傲慢なヴァルツからは決して聞けないような優しい言葉。
『お前は間違いなくヒーローだ。俺も救われた一人だからな』
そうして、視界が白色に覆われた──。
★
「……ッ!」
目の前が一気にクリアになる。
ここは学院。
僕は戻ってきたんだ。
そして、前方には──魔王。
≪終わらせようぞ、この戦いを≫
「僕もそう思っていたよ」
口調が強制されない。
やはりそうか。
本来のヴァルツは消えたんだ。
最後に力を残して。
「君の力、使わせてもらうよ」
体の奥底に感じる魔力。
このとてつもなく深い【闇】。
明らかに今までのものとは違う。
僕はそれを右手に宿す。
「──【太陰】」
それと共に伝わってくる。
ヴァルツの最後の伝言だ。
『てめえの【闇】が覚醒しないのは、お前が“本質的な悪”ではないからだ。そんな役は俺に任せておけばいい』
ヴァルツは自らの魂を捧げて、【闇】を【太陰】に覚醒させた。
そして、もう一つ。
「ルシア」
すでにルシアの姿はない。
代わりに浮かぶのは【太陽】の巨大な塊。
彼もまた魂を捧げたんだ。
僕に【太陽】を授けるために。
「……ありがとう」
僕がヴァルツの精神世界に落ちている間の出来事。
それがヴァルツの記憶を通して伝わってくる。
ヴァルツは今のままでは『勝ち目がない』と踏んだ。
誰より優れた頭脳だ。
おそらくそれは正しかったのだろう。
だからこそ、ルシアの魂、そして自身の魂を犠牲にした。
【太陽】と【太陰】を僕に授けるために。
ヴァルツは【太陰】に覚醒させることはできた。
それでも、【太陽】を操ることはできない。
【光】と【闇】。
二つを操ってきたのは僕だ。
同時に扱うのは僕にしか出来ない。
だから二人は託してくれた。
【太陽】と【太陰】という特別な属性を。
「……っ」
泣いている暇など無い。
二人の想いに報いるためにも。
≪な、なんだそれは……!≫
見たことがないであろう覚醒属性。
魔王は焦った様子を見せる
≪巫山戯るな!≫
「……!」
魔王が魔力を溜める。
これまでで一番の大きさだ。
≪見せてやろう≫
「望むところだ……!」
ここで勝負が決まる。
≪【破滅の闇】≫
魔王が最後の魔法を放った。
それは学院全てを覆うような巨大な【闇】。
今までの比ではない。
「……ふぅ」
対して僕は、【太陽】と【太陰】を融合した。
「お前の敗因を教えてやる」
全ての属性の始まりとされる【光】と【闇】。
その覚醒属性である【太陽】と【太陰】。
双極であるはずの二つの属性が交わり、爆発的な力を生む。
「想いの力だ」
ヴァルツ、ルシア。
僕の周りにいてくれた人たち。
そして、王都の人々。
全ての魔力が今、僕の体に乗っている。
「──【天地創造】」
これまでの集大成。
全ての想いが乗った魔法だ。
≪ぐうおおおおおおおおお≫
「はあああああああああ!」
二つの魔法が宙でぶつかる。
僕の後ろは学院、そして王都がある。
僕が負けることがあれば、王都は消えてなくなるだろう。
──それでも、負けるはずがない。
「うおおおおおおおおおお!」
≪……!≫
ほんの少し、僕の魔法が押した。
それを機に一気に決着はつく。
「終わりだあああああ!!」
≪バカな……!≫
まばゆい光を放つ【太陽】。
深淵の闇に染まる【太陰】。
その二つが入り混じった【天地創造】。
唯一無二の色をした魔法が、魔王もろとも突き抜ける。
それはやがて王都の空を貫いた。
「……!」
魔王が発動させた各地の魔法陣が消え失せる。
それと同時に、僕も魔力を使い切って【二律背反】が消えた。
「空が……」
そして、空が晴れる。
さっきまでの暗い世界はどこかへ行き、代わりにまぶしい陽が差し込んだ。
「勝ったんだな、僕は」
安堵から、その場にへたり込む。
だけど、それと同じぐらい喪失感は残った。
「ヴァルツ、ルシア……」
失ったものは大きい。
それでも、前を向いて歩かなければならない。
彼らが託してくれた未来のために。
僕には守ったものもあるのだから。
ヴァルツからルシアへ。
その究極の選択を突きつける。
「僕は──」
対するルシアは、まさに即答。
「僕は勝ちたい」
「……!」
一瞬の迷いすらなく答えてみせたのだ。
「フッ」
今のヴァルツの人格は本来のもの。
その傲慢さは普段どころの話ではない。
「悪くない答えだ」
そんなヴァルツが笑った。
彼もまたルシアを認めていたのかもしれない。
「ならば、言う通りにしろ」
「うん……!」
そうして、ヴァルツはルシアへ指示を与えた。
全ては魔王に勝つために。
「魂を全て【太陽】に捧げろ」
★
<ヴァルツ視点>
ずっと続く暗闇の中。
僕は本来のヴァルツと対話をしていた。
『お前はどうなりたい』
「僕は……」
でも、その答えは決まっている。
初めからずっと変わらないものだから。
「みんなを守るヒーローになりたい」
『……フッ。悪くない』
ヴァルツが笑った。
傲慢で、決して笑顔を見せないようなあのヴァルツが。
「ヴァルツ……」
その様子がなんとなく最期を思わせる。
だから僕は聞いた。
「君に聞きたいことがあるんだ」
『……なんだ』
何度も考えたことがある。
以前、人格を乗っ取られた時、どうしてまた僕に返したのだろうと。
あの時、君は『長くは持たない』と言っていた。
でも、実はあのまま返さないこともできたんじゃないかと思う。
だけど、その答えがようやく分かった。
同じ体だからか、嫌でも君の感情が伝わってくるんだ。
「君は寂しかったんじゃないか?」
『……!』
君はずっと孤独なままだった。
だからこそ、傲慢な口調ながら周りを気にかける僕に体を返してくれた。
君は本性をさらけ出せない。
それでも、周りに人がいることに温かさを感じたかったから。
『……』
原作最後の「俺は……!」というセリフ。
あれはプレイヤーであるルシアが、複数人でヴァルツと対峙した時じゃないと起きない。
「俺はお前らみたいになりたかった」。
あれはそう言いたかったんだと思う。
それでも、ヴァルツは最後まで肯定はしなかった。
『そんなわけねえだろ』
「そっか」
だけど伝わってくる。
おそらく本音を隠していることを。
最後まで傲慢な奴だよ、君は。
『直に俺は消える』
「……うん」
『見せてみろよ。お前の行き着く先を』
暗闇が次第に明るくなっていく。
そんな中、おぼろげに聞こえたような気がした。
それは、傲慢なヴァルツからは決して聞けないような優しい言葉。
『お前は間違いなくヒーローだ。俺も救われた一人だからな』
そうして、視界が白色に覆われた──。
★
「……ッ!」
目の前が一気にクリアになる。
ここは学院。
僕は戻ってきたんだ。
そして、前方には──魔王。
≪終わらせようぞ、この戦いを≫
「僕もそう思っていたよ」
口調が強制されない。
やはりそうか。
本来のヴァルツは消えたんだ。
最後に力を残して。
「君の力、使わせてもらうよ」
体の奥底に感じる魔力。
このとてつもなく深い【闇】。
明らかに今までのものとは違う。
僕はそれを右手に宿す。
「──【太陰】」
それと共に伝わってくる。
ヴァルツの最後の伝言だ。
『てめえの【闇】が覚醒しないのは、お前が“本質的な悪”ではないからだ。そんな役は俺に任せておけばいい』
ヴァルツは自らの魂を捧げて、【闇】を【太陰】に覚醒させた。
そして、もう一つ。
「ルシア」
すでにルシアの姿はない。
代わりに浮かぶのは【太陽】の巨大な塊。
彼もまた魂を捧げたんだ。
僕に【太陽】を授けるために。
「……ありがとう」
僕がヴァルツの精神世界に落ちている間の出来事。
それがヴァルツの記憶を通して伝わってくる。
ヴァルツは今のままでは『勝ち目がない』と踏んだ。
誰より優れた頭脳だ。
おそらくそれは正しかったのだろう。
だからこそ、ルシアの魂、そして自身の魂を犠牲にした。
【太陽】と【太陰】を僕に授けるために。
ヴァルツは【太陰】に覚醒させることはできた。
それでも、【太陽】を操ることはできない。
【光】と【闇】。
二つを操ってきたのは僕だ。
同時に扱うのは僕にしか出来ない。
だから二人は託してくれた。
【太陽】と【太陰】という特別な属性を。
「……っ」
泣いている暇など無い。
二人の想いに報いるためにも。
≪な、なんだそれは……!≫
見たことがないであろう覚醒属性。
魔王は焦った様子を見せる
≪巫山戯るな!≫
「……!」
魔王が魔力を溜める。
これまでで一番の大きさだ。
≪見せてやろう≫
「望むところだ……!」
ここで勝負が決まる。
≪【破滅の闇】≫
魔王が最後の魔法を放った。
それは学院全てを覆うような巨大な【闇】。
今までの比ではない。
「……ふぅ」
対して僕は、【太陽】と【太陰】を融合した。
「お前の敗因を教えてやる」
全ての属性の始まりとされる【光】と【闇】。
その覚醒属性である【太陽】と【太陰】。
双極であるはずの二つの属性が交わり、爆発的な力を生む。
「想いの力だ」
ヴァルツ、ルシア。
僕の周りにいてくれた人たち。
そして、王都の人々。
全ての魔力が今、僕の体に乗っている。
「──【天地創造】」
これまでの集大成。
全ての想いが乗った魔法だ。
≪ぐうおおおおおおおおお≫
「はあああああああああ!」
二つの魔法が宙でぶつかる。
僕の後ろは学院、そして王都がある。
僕が負けることがあれば、王都は消えてなくなるだろう。
──それでも、負けるはずがない。
「うおおおおおおおおおお!」
≪……!≫
ほんの少し、僕の魔法が押した。
それを機に一気に決着はつく。
「終わりだあああああ!!」
≪バカな……!≫
まばゆい光を放つ【太陽】。
深淵の闇に染まる【太陰】。
その二つが入り混じった【天地創造】。
唯一無二の色をした魔法が、魔王もろとも突き抜ける。
それはやがて王都の空を貫いた。
「……!」
魔王が発動させた各地の魔法陣が消え失せる。
それと同時に、僕も魔力を使い切って【二律背反】が消えた。
「空が……」
そして、空が晴れる。
さっきまでの暗い世界はどこかへ行き、代わりにまぶしい陽が差し込んだ。
「勝ったんだな、僕は」
安堵から、その場にへたり込む。
だけど、それと同じぐらい喪失感は残った。
「ヴァルツ、ルシア……」
失ったものは大きい。
それでも、前を向いて歩かなければならない。
彼らが託してくれた未来のために。
僕には守ったものもあるのだから。