「「「かんぱ~い!」」」

 僕の周りで、盛大に酒が交わされる。
 協会にいた冒険者たちだ。

 さらに、

「「「かんぱーい!」」」

 それに続いてルシア達もジュースを交わした。
 もちろんヴァルツがそんな事をできるはずもなく。

「……チッ」(か、かんぱい!)

 僕は心の中で乾杯をしておいた。
 悲しい。

「ったく」

 そんな中、僕は今に至る経緯を軽く思い出す。

 イリーガとの一件を解決し、無事に王都へ戻って来た。
 そんな時、イリーガからの被害を受けたという冒険者から感謝をされ、協会の酒場で祝われているというわけだ。

「噂通りですね! ヴァルツ・ブランシュ様」
「あん?」

 そして、その当の女性冒険者が隣にやってくる。
 僕たちを協会の酒場へ手招きした女性だ。

「その態度ですよ」
「黙れ」

 一目で分かる整った顔。
 また、それによく似合う短い茶髪は横で編まれており、動きやすそうだ。

 スタイルもいかにも冒険者っぽい。
 スラリとしているが、腕はガッチリしている。
 装備を外しているから、よりよく分かる。

 そんな彼女が、隣にドンと座ってくる。

「まずは名乗れ」(お名前はなんと?)
「私は『セリダ』。Bランク冒険者です」
「そうかよ」
「もー自分から聞いたくせに」

 セリダさんと言うらしい。
 推測は失礼かもしれないが、どう見ても二十代前半だ。
 若めの冒険者だね。

「専門は『弓』。遠距離攻撃が得意で~」
「聞いていない」
「えー、会話続ける気なしですか?」
「無しだ」
「つれないなあ」

 そんなことを言いつつ、グビッと酒を一口。
 意外と豪快だ。

「でも、本当に感謝しているんですよ」

 酒をテーブルに置いた彼女は、またぼそりと口を開く。

「……イリーガの件か」
「はい」

 何をされたのか、と聞くのは野暮だろう。 
 まだ続ける雰囲気を感じ取ったので、僕はそのまま耳を傾ける。

「地位だの名誉だの。それらは人を狂わせてしまうのでしょうか」
「……」

 ちょっと耳が痛い。
 まさに原作のヴァルツの事を言っている様で。

 でも、今は違う。
 僕はこの力を正義のために使いたい。

「知るか」
「ふふっ、そうですか」
「ああ」
「でも、あの人たちも変わりませんけどね」
「?」

 そうして、セリダさんが顔を上げる。
 向いた方向には──ダリヤさんとマギサさんだ。

「お」
「あら」

 二人は目が合うなり、すぐにこちらに向かってくる。

「どうもどうも、ヴァルツ様」
「なんでいやがる」
「とりあえず、あいつらは(ろう)に入れたんでね」
「……そうか」

 協会の地下は牢だそうだ。
 先ほどチラっと耳にした。
 
「今後は(おきて)に従って処罰を決めるんで。任せてください」
「聞いていない」(わかったよ)

 一件落着。
 これでイリーガの件は終えたと言えるだろう。

 そうして、二人も同じテーブルの席に腰を下ろす。

「店主さん! ビール一杯!」
「私も~」
「チッ。邪魔な奴らだ」

 僕から出るのはいつもの口調。
 だが、それがセリダには恐れ多かったらしい。

「や、やはりヴァルツ様は交流がおありなんですね……」
「あ?」(ん?)
「いえ、以前から噂されていたんですよ。ヴァルツ様と、ダリヤ様マギサ様には(つな)がりがあると」

 セリダは声を震わせながらに言う。

 でも、別にそれを隠しているつもりはない。
 僕は何も考えずに答えた。

「俺の手下だ」(僕の師匠です)
「て、手下ですか!?」
「ああ、手下だ」(違う、師匠です!)
「はわわわわ……」

 だが、口調により盛大に勘違いされる。
 さすがに師匠二人も口を挟んだ。

「おいおいヴァルツ様、そりゃねえよー」
「私がどれだけしごいてあげたことか」

「フン、知らんな」(大変お世話になってます)

 それでもやはり、ヴァルツ様。
 傲慢(ごうまん)な態度は認めようとしません。
 
 二人もやれやれといった様子だ。
 まあ、感謝しているのは分かってくれていると思うけど。

 そんな会話に、再びセリダがあわあわする。

「と、とにかく付き合いがあるのですね」
「ああ。それがどうしたのか」
「どうかしたって……」

 胸の前で両手を包んで声を上げた。

「お二人はレジェンドなんですよ! レジェンド!」
「……は?」

 まるでファンガールだ。
 目もキラキラして見える。

「おいおい~」
「それは褒めすぎよ~」

 そんな言葉に、師匠二人は完全にニヤニヤしている。
 分かりやすく調子に乗ってるな。

「いくらSランク(・・・・)だからってよ~」
「そうよ。Sランク(・・・・)とはいってもね~」

 Sランクをめちゃくちゃ強調して言ってる。
 二人も誇りには思っていたらしい。

「はい! みんなの憧れです!」
「……チッ」

 けど、改めて二人の偉大さを確認する。

 セリダもBランクらしいし、それなりの冒険者のはず。
 そんな彼女にここまで言われるって、やっぱりすごいんだな。

 良い師匠を持ったよ。
 二人にはもちろん、(じい)やさんにも感謝しなきゃ。

「じゃあセリダ、今日は飲むぜ~」
「こ、光栄です!」
「もちろん俺の奢りでな!」
「ありがとうございます!」

 あんなところは相変わらずだけど。
 こうして、会は進んで行った。




 しばらく経ち、この会も終盤に差し掛かった頃。

「おい」
「なんでしょう、ヴァルツ様」

 僕は再びセリダさんに話しかける。
 ここでも情報を集めるべく、最後に話を聞いて回っていた。

王都(ここ)は何も無かったか」
「ヴァルツ様がいらっしゃらない間にですか?」
「ああ」
「そうですね……」

 彼女は考える素振りを見せ、やがてハッとする。

「そういえば、マティス王が訪れになったそうです」
「……! この協会にか」
「はい。私はいなかったんですけど」

 その話には、ダリヤさんとマギサさんも口を挟んで来る。

「本当か!?」
「こんな場所に!?」

「は、はい。みたいです……」

 僕同様、二人も(きょう)(がく)している。

 それはそうだろう。
 言い方は良くないかもしれないが、冒険者はアングラのような職業。
 王様が訪れるような場所ではない。
 
 ダリヤさんが慌てて聞き返す。

「い、一体何をしにきたんだ!?」
「視察とおっしゃっていたらしいですが」
「視察……?」

 だが、その言葉に一層頭を悩ます。
 僕やマギサさんも同じくだ。

 そしてさらに、セリダが言い放った。

「あ、そうそう。それと関連してなんですけど」
「なんだ」

 ここで衝撃の話を聞く。

「マティス王、今度は学園にも(おもむ)かれるそうですよ」
「なんだと……!」

 再び僕の嫌な予感が、胸を(えぐ)った──。