<ヴァルツ視点>

「あん?」

 今日も学園の日程が終わり、大通りを歩く。
 そんな中、校門を少し出た場所から、何やら異様な雰囲気を感じた。

「……」(誰だろう)

 校門近くに複数人の男達がいるんだ。
 それも(そろ)って屈強な体つきの者ばかり。
 ダリヤさんやマギサさんと同じ『冒険者』といったところか?

 さらに、

「あれか?」
「多分な」

 男達は何やらヒソヒソと話している。
 
 学園への不法侵入は連行対象なので、中へは入ってこない。
 でも、明らかに学園内に用がある様子。

 ……というか、僕の方をみながら話してる?

「フン」(よし)

 もしそうなら、確かめなくては。
 僕は男達に向かって真っすぐに歩き出す。

「……」

「「「……」」」

 わざと男達の近くを通ったが、何もしてこず。
 ただじっくりと僕を見ているような気はした。

「……チッ」

 なんだったんだろう、一体。
 そんなことを思いながらも、この日は帰路についた。




 次の日、放課後。

「は?」

 今日も学園から帰るべく歩いていると、またも男達が校門近くにいる。
 というか、数が増えてないか?

「「「……」」」

 しかも、こちらをじっくりと見ている様子。

 なんだなんだ?
 僕が何か悪いことをしたっていうのか?

「チッ」

 だけど、このまま帰らないわけにもいかないので、気にせず校門から出て行く。
 ……が、今回は昨日とは違った。

「!」

 男達の内、何人か付いて来たのだ。
 進行方向は明らかに僕の方向。

「……フン」

 こうなればさすがに分かる。

「愚かな奴らだ」

 彼らは僕に用があるらしい。




 学園から歩き、しばらく。

「……」

 場所は商店街の裏道に入った所。
 
 この辺りには誰もいない。
 そろそろ回りくどいことをするのもやめよう。

「おい」
「「「……ッ!」」」

 僕はふいに後ろを振り返った。
 すると当然、付いて来ていた男達と目が合う。

「俺に用か?」
「「「……」」」

 相変わらずコソコソと話す連中。
 だけどその内、意を決したのか、一人の者が前に出る。

「お前がヴァルツ・ブランシュか?」
「生意気な口だな」
「……ヴァルツ・ブランシュ様でしょうか」

 口の利き方には気を付けてもらいたい。

 だって……この子(ヴァルツ)は何をするか分からないからね!
 一応、あなたたちの為を思って言ってます!

「そうだが」
「やはりでしたか」

 で、話を戻すと、彼らは僕の顔と名前が一致してなかった。
 ならば、おそらく貴族階級ではない。
 良くも悪くもヴァルツの名前は広まっているからな。

「では、これで」
「は?」

 しかし、それだけを確認してから男達は去ろうとする。
 それはさすがに納得がいかない。

「質問に答えろ。用があるんじゃないのか」
「名前を確認したかった」
「……?」

 だが、男達の用はやはりそれだけのようで。

「顔が分かれば、後は()を待つのみ」
「……」

 結局、それだけを言い残して男達は去って行く。

「なんだあいつら」

 不思議な人たちだった。
 何か僕を疑っているような感じはあるものの、悪い人達とも思えない感じだ。

「……チッ」

 だけどこの理由を、僕はすぐに知ることになる。







<三人称視点>

 暗い部屋にろうそくだけが灯された中、話をする二人がいる。

「どう思う? マギサ」
「……ない(・・)でしょ、ひゃくパー」

 ヴァルツの師匠──ダリヤとマギサである。

 二人が手にしているのは、とある依頼書。
 この依頼はAランク以上(・・・・・・)の冒険者のみ、秘密裏に受け取ることができたようだ。

 ダリヤとマギサはSランク冒険者のため、入手したようである。

「だよな」
「ええ」

 二人は実際に受注したわけではない。
 だが、そんな怪しい依頼に目を通さないわけにもいかないため、話を進めているようだ。

 二人は改めて依頼書に目を通す。

『最近、不審な人物を見かけることが増えた。彼らは夜になると姿を現し、まるで魂を奪われたような、異常な様子で王都を徘徊《はいかい》する。』

 最近の()(おん)な事件について書かれているようだ。

『依頼の内容は、“真相の解明”。報酬は~』

 それを調べよとの依頼である。
 そして、依頼書には事前調査の情報も載っていた。

『そんな彼らから【闇】の属性が確認された』

 その事実から依頼書はこう締めくくられる。

『怪しい人物は、現アルザリア王立学園生であり、(こう)(しゃく)ブランシュ家長男──ヴァルツ・ブランシュであると考えられる』

 【闇】が確認されたのであれば、こう言われるのも仕方がない。

 しかし、ダリヤは──

「……ッ」

 グシャっと依頼書を潰した。

「バカバカしい」
「同感ね」

 マギサも含め、怒っているのだ。

 たしかにヴァルツの態度は()められたものではない。
 それでも二人は知っていた。
 ヴァルツは人を無下に扱うような者ではないと。

「マギサ」
「……ええ」

 二人はすっと立ち上がる。
 長年の付き合いである彼らには、お互いの言いたいことが手に取るように分かった。

「「真実を暴く」」