<ヴァルツ視点>
シイナとも出会い、学園での日々が過ぎる。
そうして、それなりに月日が経った頃だった。
「今月末に期末試験を行います」
「「「……!!」」」
先生のその言葉に、教室がざわっとした。
かくいう僕もだ。
(あったなー、そんなイベント)
『学園パート』である学園内は、基本ヒロインの攻略や知人関係を広める場。
しかし、期末の試験はしっかりと存在する。
(ということは、あれが……!)
もちろん筆記試験なども、あるにはある。
ただ、その中で目玉となるのが、“直接対決”。
試験の時と同じような『一対一の対決』だ。
「ヴァルツ様、嬉しそうですね」
「そんなわけないだろう」
リーシャにこう答えるも、内心僕はワクワクしていた。
ここで再びルシアと戦うことになるからだ。
「……!」
「……フッ」
チラリとルシアに目を向けると、あちらも僕の方を見ていた。
やっぱり意識しているのだろう。
同じ【光】を持つ者として。
「面白い」(面白い)
久しぶりに、僕とヴァルツの口調が一致した。
★
<三人称視点>
その日の放課後。
学園内、とある修練場にて。
「うおおおおおお!」
少年が声を上げる。
原作主人公である──ルシアだ。
「そんなものか! 一年生ルシア!」
「まだです!」
ルシアは、学園一の鬼教師から指導を受けている。
教師の専門は『魔法』だ。
「ならば、もっと魔力を絞り出せ!」
「はい!」
先日、キュオネが暴れた件はヴァルツが収めた。
だが、ルシアは激しく後悔していたのだ。
「……ッ!」
犠牲こそ出なかったものの、サラをはじめとして多くの人に迷惑をかけた。
自分があの時点で【光】をコントロール出来ていれば、あんなことにならなかったのではないかと。
そんな思いから、今まで以上に修行を重ねる。
「限界の状態でコントロールしてみろ!」
「はいッ……!!」
【光】は特別な属性。
それを理解している先生も、より厳しく指導しているのだ。
そして、その様子を陰から眺める二人。
「ルシア……」
「ルシア君……」
幼馴染のコトリに、探偵に憧れるサラだ。
二人とも作中メインヒロインである。
ルシアの様子を見ながら、サラが口を開く。
「ルシア君、追い込み過ぎてないだろうか」
「……分かりません。でも、あの日からずっと聞かなくて」
「みたいだね」
これは誰がどう見ても無茶な訓練。
先生も心を鬼にして指導しているようだ。
だが、【光】をコントロールするというのは、それほどに大変なことなのだ。
「ぐうぅ……!」
(ヴァルツ君! 君は一体どれほどの……!)
ルシアは歯を食いしばる。
ヴァルツはこの【光】を制御し、もう一つの特別な属性【闇】さえも同時に、そして完璧に制御してみせる。
改めてその凄さを痛感させられていたのだ。
(でも! それでも僕は君に追いつきたい!)
そうして、ふと視線を向けたのは──コトリ。
彼女の姿に、今は亡き故郷を思い浮かべていた。
(もう何も奪われないために……!)
────
ルシアの故郷は、とある田舎の村。
この村にはコトリも住んでいた。
特に何かあるわけではない。
それでも、ルシア達は不自由なく暮らしていた。
田舎なりに人々が協力し合い、楽しく生活していたのだ。
──ある日までは。
『助けてくれ!』
『火がこんなところまで!』
『隣だ! とにかく隣の村へ!』
起きたのは、突然の事態。
突如として、村が火に覆われたのだ。
未だに原因は分かっていない。
だが、ルシアは目撃していた。
ある集団、おそらく実行犯であろう者たちを。
『これで魔王教団もさらに発展するぞ!』
魔王教団が何を指すかは分からない。
この村に秘密があったのかなども知らない。
それでも、ルシアは誓った。
──もう二度と奪われないほど、強くなると。
そうして、生き延びた幼馴染のコトリと共に、強さを求めてアルザリア王立学園に入学。
今に至るのだ。
────
「うおおおおおッ!」
「……! 一年生ルシア!」
声を上げたルシアに、先生が目を見開く。
その反応に、ルシアも自身の手を見つめた。
「コントロール……できてる?」
ほんの一瞬でだが、完璧に【光】を制御した。
試験の時のようにただ直感でやるのではなく、意識して使いこなしたのだ。
「……うわっ!」
だが、それはすぐにふっと消える。
まだ長時間保たせることはできないようだ。
「一年生ルシア、よくやった」
「先生……!」
それには鬼教師もフッと笑顔を見せる。
「あとは、その感覚をいかに長く持続できるかだ」
「はい!」
「まだ続けるか?」
「もちろんです!」
そこには、口調は違えど、修行をしていた傲慢公爵がと同じような目をしたルシアがいた。
(ヴァルツ君! 僕は、期末試験で君に勝つ!)
ルシアもなんとなく予感していた。
期末試験では、再び剣を交えることになると。
それまでには、出来る限りのことをやるつもりだった。
「うおおおおおおッ!」
そして、幸か不幸か、ルシアの真価が試される時がくる。
さらに、それはまた、もう一人の主人公とも関わってくることとなるのだった。
★
数日後、放課後。
夕暮れ時を迎え、ヴァルツは帰るべく学園の玄関へと向かう。
「……」
その中で少し考え事をする。
(珍しくリーシャが寄ってこなかったな)
彼女にも事情があるのだろう。
それは分かっているが、一声もかけてこなかったのは初めてだ。
(教室にもいなかったみたいだし……)
とは思うものの、そこまで気には留めず。
自立したならそれも褒めるべきだろう。
──だが、事態はとっくに悪い方向へ進んでいた。
「……!」
突然、窓の方から鳥が入ってくる。
その辺をよく飛んでいる鳥だが、何かを咥えているようだ。
「僕宛てか?」
その鳥は、明らかにヴァルツへ咥えたものを差し出してくる。
ヴァルツは恐る恐る手に取った。
「これは……!」
咥えていたのは、急いでちぎったような紙。
その中に衝撃の事が書かれていたのだ。
『かがいじゅぎょう ひとじち 敵はまおう教団』
サッと書いたのか、字は汚い。
だが、かろうじてそう読むことができた。
「どういうことだ……」
突然のメッセージ。
何らかのイタズラの可能性も考えた。
だがそこで、ふと先日シイナと交わした会話を思い出す。
『今度課外授業あるんだ~』
『聞いていない』
『リーシャさんも一緒に!』
『だから聞いていない』
(その日は……今日! それに、普通なら帰ってきている時間だ!)
さらには、
「ホー!」
「!」
その鳥に付与されていた魔力に気づく。
(これは、シイナの【癒】属性か!)
一度、シイナからその属性を食らっているヴァルツは、感覚を覚えていた。
彼女の【癒】属性は動物へ使うことで、ダンジョン探索などで役に立つ。
この使い方はまさに原作のそれだ。
「……!」
そうなれば、いよいよ現実味を帯びて来る。
このメッセージが本当の“SOS”なのだと。
「魔王教団ッ……!」
ヴァルツの目が燃える。
怒りと後悔の目だ。
(これは、僕の責任だ!)
初めて会った時、彼らをこらしめるだけにしてしまった。
その場では何もしなかったことに後悔したのだ。
「案内できるか?」
「くるっぽー!」
その鳥に頼み、ヴァルツは三階にもかかわらず窓から飛び出す。
「──【光・身体強化】」
ただ真っ直ぐに彼女たちの場所へ向かうために。
(今助けに行く! みんな!)
また、同時刻。
校舎の裏あたりにて。
「コトリー? サラさーん?」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、二人を探すルシアがいた。
「おっかしいなあ」
ルシアは、課外授業があるというコトリとサラと待ち合わせをしていた。
しかし、二人の姿が見えないようだ。
ルシアも知る通り、とても約束をすっぽかす二人ではない。
──そんな時、
「……!」
キーンと、ルシアの内側の何かが反応する。
(なんだ!?)
何かは分からないが、一度体験したことがある現象だった。
思い出したのは試験の時。
ヴァルツの【光】にあてられ、自分の中の【光】が目を覚ました時だ。
これはすなわち──『共鳴』。
(【光】が何かを訴えてきている……?)
そして、光の導きか、ふと校舎を見上げる。
そこには──たった今、【光・身体強化】を発動させたヴァルツ。
「ヴァルツ君!?」
声を上げたが、届かない。
相変わらず怖い顔だが、いつになく焦っているように見えたのだ。
(まさか……!)
今の状況を考え、ルシアは最悪を考えた。
(コトリ! サラさん……!)
自分が無駄に動くだけなら全く構わない。
それよりも、もしここにいない二人に何かあったのだとしたら。
「──【光・身体強化】」
ルシアは迷わず属性魔法を発動させる。
少しコントロールを覚え始めたとはいえ、まだ力は発展途上。
暴走の危険性はまだまだある。
「それでも、やるしかない……!」
ルシアはその場を蹴り出した。
前方を行くヴァルツを追いかけるように──。
シイナとも出会い、学園での日々が過ぎる。
そうして、それなりに月日が経った頃だった。
「今月末に期末試験を行います」
「「「……!!」」」
先生のその言葉に、教室がざわっとした。
かくいう僕もだ。
(あったなー、そんなイベント)
『学園パート』である学園内は、基本ヒロインの攻略や知人関係を広める場。
しかし、期末の試験はしっかりと存在する。
(ということは、あれが……!)
もちろん筆記試験なども、あるにはある。
ただ、その中で目玉となるのが、“直接対決”。
試験の時と同じような『一対一の対決』だ。
「ヴァルツ様、嬉しそうですね」
「そんなわけないだろう」
リーシャにこう答えるも、内心僕はワクワクしていた。
ここで再びルシアと戦うことになるからだ。
「……!」
「……フッ」
チラリとルシアに目を向けると、あちらも僕の方を見ていた。
やっぱり意識しているのだろう。
同じ【光】を持つ者として。
「面白い」(面白い)
久しぶりに、僕とヴァルツの口調が一致した。
★
<三人称視点>
その日の放課後。
学園内、とある修練場にて。
「うおおおおおお!」
少年が声を上げる。
原作主人公である──ルシアだ。
「そんなものか! 一年生ルシア!」
「まだです!」
ルシアは、学園一の鬼教師から指導を受けている。
教師の専門は『魔法』だ。
「ならば、もっと魔力を絞り出せ!」
「はい!」
先日、キュオネが暴れた件はヴァルツが収めた。
だが、ルシアは激しく後悔していたのだ。
「……ッ!」
犠牲こそ出なかったものの、サラをはじめとして多くの人に迷惑をかけた。
自分があの時点で【光】をコントロール出来ていれば、あんなことにならなかったのではないかと。
そんな思いから、今まで以上に修行を重ねる。
「限界の状態でコントロールしてみろ!」
「はいッ……!!」
【光】は特別な属性。
それを理解している先生も、より厳しく指導しているのだ。
そして、その様子を陰から眺める二人。
「ルシア……」
「ルシア君……」
幼馴染のコトリに、探偵に憧れるサラだ。
二人とも作中メインヒロインである。
ルシアの様子を見ながら、サラが口を開く。
「ルシア君、追い込み過ぎてないだろうか」
「……分かりません。でも、あの日からずっと聞かなくて」
「みたいだね」
これは誰がどう見ても無茶な訓練。
先生も心を鬼にして指導しているようだ。
だが、【光】をコントロールするというのは、それほどに大変なことなのだ。
「ぐうぅ……!」
(ヴァルツ君! 君は一体どれほどの……!)
ルシアは歯を食いしばる。
ヴァルツはこの【光】を制御し、もう一つの特別な属性【闇】さえも同時に、そして完璧に制御してみせる。
改めてその凄さを痛感させられていたのだ。
(でも! それでも僕は君に追いつきたい!)
そうして、ふと視線を向けたのは──コトリ。
彼女の姿に、今は亡き故郷を思い浮かべていた。
(もう何も奪われないために……!)
────
ルシアの故郷は、とある田舎の村。
この村にはコトリも住んでいた。
特に何かあるわけではない。
それでも、ルシア達は不自由なく暮らしていた。
田舎なりに人々が協力し合い、楽しく生活していたのだ。
──ある日までは。
『助けてくれ!』
『火がこんなところまで!』
『隣だ! とにかく隣の村へ!』
起きたのは、突然の事態。
突如として、村が火に覆われたのだ。
未だに原因は分かっていない。
だが、ルシアは目撃していた。
ある集団、おそらく実行犯であろう者たちを。
『これで魔王教団もさらに発展するぞ!』
魔王教団が何を指すかは分からない。
この村に秘密があったのかなども知らない。
それでも、ルシアは誓った。
──もう二度と奪われないほど、強くなると。
そうして、生き延びた幼馴染のコトリと共に、強さを求めてアルザリア王立学園に入学。
今に至るのだ。
────
「うおおおおおッ!」
「……! 一年生ルシア!」
声を上げたルシアに、先生が目を見開く。
その反応に、ルシアも自身の手を見つめた。
「コントロール……できてる?」
ほんの一瞬でだが、完璧に【光】を制御した。
試験の時のようにただ直感でやるのではなく、意識して使いこなしたのだ。
「……うわっ!」
だが、それはすぐにふっと消える。
まだ長時間保たせることはできないようだ。
「一年生ルシア、よくやった」
「先生……!」
それには鬼教師もフッと笑顔を見せる。
「あとは、その感覚をいかに長く持続できるかだ」
「はい!」
「まだ続けるか?」
「もちろんです!」
そこには、口調は違えど、修行をしていた傲慢公爵がと同じような目をしたルシアがいた。
(ヴァルツ君! 僕は、期末試験で君に勝つ!)
ルシアもなんとなく予感していた。
期末試験では、再び剣を交えることになると。
それまでには、出来る限りのことをやるつもりだった。
「うおおおおおおッ!」
そして、幸か不幸か、ルシアの真価が試される時がくる。
さらに、それはまた、もう一人の主人公とも関わってくることとなるのだった。
★
数日後、放課後。
夕暮れ時を迎え、ヴァルツは帰るべく学園の玄関へと向かう。
「……」
その中で少し考え事をする。
(珍しくリーシャが寄ってこなかったな)
彼女にも事情があるのだろう。
それは分かっているが、一声もかけてこなかったのは初めてだ。
(教室にもいなかったみたいだし……)
とは思うものの、そこまで気には留めず。
自立したならそれも褒めるべきだろう。
──だが、事態はとっくに悪い方向へ進んでいた。
「……!」
突然、窓の方から鳥が入ってくる。
その辺をよく飛んでいる鳥だが、何かを咥えているようだ。
「僕宛てか?」
その鳥は、明らかにヴァルツへ咥えたものを差し出してくる。
ヴァルツは恐る恐る手に取った。
「これは……!」
咥えていたのは、急いでちぎったような紙。
その中に衝撃の事が書かれていたのだ。
『かがいじゅぎょう ひとじち 敵はまおう教団』
サッと書いたのか、字は汚い。
だが、かろうじてそう読むことができた。
「どういうことだ……」
突然のメッセージ。
何らかのイタズラの可能性も考えた。
だがそこで、ふと先日シイナと交わした会話を思い出す。
『今度課外授業あるんだ~』
『聞いていない』
『リーシャさんも一緒に!』
『だから聞いていない』
(その日は……今日! それに、普通なら帰ってきている時間だ!)
さらには、
「ホー!」
「!」
その鳥に付与されていた魔力に気づく。
(これは、シイナの【癒】属性か!)
一度、シイナからその属性を食らっているヴァルツは、感覚を覚えていた。
彼女の【癒】属性は動物へ使うことで、ダンジョン探索などで役に立つ。
この使い方はまさに原作のそれだ。
「……!」
そうなれば、いよいよ現実味を帯びて来る。
このメッセージが本当の“SOS”なのだと。
「魔王教団ッ……!」
ヴァルツの目が燃える。
怒りと後悔の目だ。
(これは、僕の責任だ!)
初めて会った時、彼らをこらしめるだけにしてしまった。
その場では何もしなかったことに後悔したのだ。
「案内できるか?」
「くるっぽー!」
その鳥に頼み、ヴァルツは三階にもかかわらず窓から飛び出す。
「──【光・身体強化】」
ただ真っ直ぐに彼女たちの場所へ向かうために。
(今助けに行く! みんな!)
また、同時刻。
校舎の裏あたりにて。
「コトリー? サラさーん?」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、二人を探すルシアがいた。
「おっかしいなあ」
ルシアは、課外授業があるというコトリとサラと待ち合わせをしていた。
しかし、二人の姿が見えないようだ。
ルシアも知る通り、とても約束をすっぽかす二人ではない。
──そんな時、
「……!」
キーンと、ルシアの内側の何かが反応する。
(なんだ!?)
何かは分からないが、一度体験したことがある現象だった。
思い出したのは試験の時。
ヴァルツの【光】にあてられ、自分の中の【光】が目を覚ました時だ。
これはすなわち──『共鳴』。
(【光】が何かを訴えてきている……?)
そして、光の導きか、ふと校舎を見上げる。
そこには──たった今、【光・身体強化】を発動させたヴァルツ。
「ヴァルツ君!?」
声を上げたが、届かない。
相変わらず怖い顔だが、いつになく焦っているように見えたのだ。
(まさか……!)
今の状況を考え、ルシアは最悪を考えた。
(コトリ! サラさん……!)
自分が無駄に動くだけなら全く構わない。
それよりも、もしここにいない二人に何かあったのだとしたら。
「──【光・身体強化】」
ルシアは迷わず属性魔法を発動させる。
少しコントロールを覚え始めたとはいえ、まだ力は発展途上。
暴走の危険性はまだまだある。
「それでも、やるしかない……!」
ルシアはその場を蹴り出した。
前方を行くヴァルツを追いかけるように──。