<ヴァルツ視点>

 シイナとも出会い、学園での日々が過ぎる。
 そうして、それなりに月日が経った頃だった。

「今月末に期末試験を行います」

「「「……!!」」」

 先生のその言葉に、教室がざわっとした。
 かくいう僕もだ。

(あったなー、そんなイベント)

 『学園パート』である学園内は、基本ヒロインの攻略や知人関係を広める場。
 しかし、期末の試験はしっかりと存在する。

(ということは、あれが……!)

 もちろん筆記試験なども、あるにはある。
 ただ、その中で目玉となるのが、“直接対決”。
 試験の時と同じような『一対一の対決』だ。

「ヴァルツ様、嬉しそうですね」
「そんなわけないだろう」

 リーシャにこう答えるも、内心僕はワクワクしていた。
 ここで再びルシアと戦うことになるからだ。

「……!」
「……フッ」

 チラリとルシアに目を向けると、あちらも僕の方を見ていた。
 やっぱり意識しているのだろう。
 同じ【光】を持つ者として。

「面白い」(面白い)

 久しぶりに、僕とヴァルツの口調が一致した。







<三人称視点>

 その日の放課後。
 学園内、とある修練場にて。

「うおおおおおお!」

 少年が声を上げる。
 原作主人公である──ルシアだ。

「そんなものか! 一年生ルシア!」
「まだです!」

 ルシアは、学園一の鬼教師から指導を受けている。
 教師の専門は『魔法』だ。

「ならば、もっと魔力を絞り出せ!」
「はい!」

 先日、キュオネが暴れた件はヴァルツが収めた。
 だが、ルシアは激しく後悔していたのだ。

「……ッ!」

 犠牲こそ出なかったものの、サラをはじめとして多くの人に迷惑をかけた。
 自分があの時点で【光】をコントロール出来ていれば、あんなことにならなかったのではないかと。

 そんな思いから、今まで以上に修行を重ねる。

「限界の状態でコントロールしてみろ!」
「はいッ……!!」

 【光】は特別な属性。
 それを理解している先生も、より厳しく指導しているのだ。

 そして、その様子を陰から眺める二人。

「ルシア……」
「ルシア君……」

 幼馴染のコトリに、探偵に憧れるサラだ。
 二人とも作中メインヒロインである。

 ルシアの様子を見ながら、サラが口を開く。

「ルシア君、追い込み過ぎてないだろうか」
「……分かりません。でも、あの日からずっと聞かなくて」
「みたいだね」
 
 これは誰がどう見ても無茶な訓練。
 先生も心を鬼にして指導しているようだ。

 だが、【光】をコントロールするというのは、それほどに大変なことなのだ。

「ぐうぅ……!」

(ヴァルツ君! 君は一体どれほどの……!)

 ルシアは歯を食いしばる。
 ヴァルツはこの【光】を制御し、もう一つの特別な属性【闇】さえも同時に、そして完璧に制御してみせる。

 改めてその凄さを痛感させられていたのだ。

(でも! それでも僕は君に追いつきたい!)

 そうして、ふと視線を向けたのは──コトリ。
 彼女の姿に、今は亡き(・・・・)故郷を思い浮かべていた。

(もう何も奪われないために……!)


────

 ルシアの故郷は、とある田舎の村。
 この村にはコトリも住んでいた。

 特に何かあるわけではない。
 それでも、ルシア達は不自由なく暮らしていた。
 田舎なりに人々が協力し合い、楽しく生活していたのだ。

 ──ある日までは。

『助けてくれ!』
『火がこんなところまで!』
『隣だ! とにかく隣の村へ!』

 起きたのは、突然の事態。
 突如として、村が火に(おお)われたのだ。

 未だに原因は分かっていない。

 だが、ルシアは目撃していた。
 ある集団、おそらく実行犯であろう者たちを。

『これで魔王教団もさらに発展するぞ!』

 魔王教団(それ)が何を指すかは分からない。
 この村に秘密があったのかなども知らない。

 それでも、ルシアは(ちか)った。

──もう二度と奪われないほど、強くなると。

 そうして、生き延びた幼馴染のコトリと共に、強さを求めてアルザリア王立学園に入学。
 今に至るのだ。

────

「うおおおおおッ!」
「……! 一年生ルシア!」

 声を上げたルシアに、先生が目を見開く。
 その反応に、ルシアも自身の手を見つめた。

「コントロール……できてる?」

 ほんの一瞬でだが、完璧に【光】を制御した。
 試験の時のようにただ直感でやるのではなく、意識して使いこなしたのだ。

「……うわっ!」
 
 だが、それはすぐにふっと消える。
 まだ長時間()たせることはできないようだ。

「一年生ルシア、よくやった」
「先生……!」

 それには鬼教師もフッと笑顔を見せる。
 
「あとは、その感覚をいかに長く持続できるかだ」
「はい!」
「まだ続けるか?」
「もちろんです!」

 そこには、口調は違えど、修行をしていた傲慢(ごうまん)(こう)(しゃく)がと同じような目をしたルシアがいた。

(ヴァルツ君! 僕は、期末試験で君に勝つ!)

 ルシアもなんとなく予感していた。
 期末試験では、再び剣を交えることになると。
 それまでには、出来る限りのことをやるつもりだった。

「うおおおおおおッ!」
 
 そして、幸か不幸か、ルシアの真価が試される時がくる。
 さらに、それはまた、もう一人の主人公(ヴァルツ)とも関わってくることとなるのだった。







 数日後、放課後。
 夕暮れ時を迎え、ヴァルツは帰るべく学園の玄関へと向かう。

「……」

 その中で少し考え事をする。

(珍しくリーシャが寄ってこなかったな)

 彼女にも事情があるのだろう。
 それは分かっているが、一声もかけてこなかったのは初めてだ。
 
(教室にもいなかったみたいだし……)

 とは思うものの、そこまで気には()めず。
 自立したならそれも()めるべきだろう。
 
──だが、事態はとっくに悪い方向へ進んでいた。

「……!」

 突然、窓の方から鳥が入ってくる。
 その辺をよく飛んでいる鳥だが、何かを(くわ)えているようだ。

「僕()てか?」

 その鳥は、明らかにヴァルツへ咥えたものを差し出してくる。
 ヴァルツは恐る恐る手に取った。

「これは……!」
 
 咥えていたのは、急いでちぎったような紙。
 その中に衝撃の事が書かれていたのだ。

『かがいじゅぎょう ひとじち 敵はまおう教団』

 サッと書いたのか、字は汚い。
 だが、かろうじてそう読むことができた。

「どういうことだ……」

 突然のメッセージ。
 何らかのイタズラの可能性も考えた。

 だがそこで、ふと先日シイナと交わした会話を思い出す。

『今度課外授業あるんだ~』
『聞いていない』
『リーシャさんも一緒に!』
『だから聞いていない』

(その日は……今日! それに、普通なら帰ってきている時間だ!)

 さらには、

「ホー!」
「!」

 その鳥に付与されていた魔力に気づく。
 
(これは、シイナの【癒】属性か!)

 一度、シイナからその属性を食らっているヴァルツは、感覚を覚えていた。

 彼女の【癒】属性は動物へ使うことで、ダンジョン探索などで役に立つ。
 この使い方はまさに原作のそれだ。

「……!」
 
 そうなれば、いよいよ現実味を帯びて来る。
 このメッセージが本当の“SOS”なのだと。

「魔王教団ッ……!」

 ヴァルツの目が燃える。
 怒りと後悔(・・)の目だ。

(これは、僕の責任だ!)

 初めて会った時、彼らをこらしめるだけにしてしまった。
 その場では何もしなかったことに後悔したのだ。

「案内できるか?」
「くるっぽー!」

 その鳥に頼み、ヴァルツは三階にもかかわらず窓から飛び出す。

「──【光・身体強化】」

 ただ真っ直ぐに彼女たちの場所へ向かうために。

(今助けに行く! みんな!)




 また、同時刻。
 校舎の裏あたりにて。

「コトリー? サラさーん?」

 きょろきょろと辺りを見渡しながら、二人を探すルシアがいた。

「おっかしいなあ」

 ルシアは、課外授業があるというコトリとサラと待ち合わせをしていた。
 しかし、二人の姿が見えないようだ。

 ルシアも知る通り、とても約束をすっぽかす二人ではない。

 ──そんな時、

「……!」

 キーンと、ルシアの内側の何かが反応する。
 
(なんだ!?)

 何かは分からないが、一度体験したことがある現象だった。

 思い出したのは試験の時。
 ヴァルツの【光】にあてられ、自分の中の【光】が目を覚ました時だ。

 これはすなわち──『共鳴』。

(【光】が何かを(うった)えてきている……?)

 そして、光の導きか、ふと校舎を見上げる。
 そこには──たった今、【光・身体強化】を発動させたヴァルツ。

「ヴァルツ君!?」

 声を上げたが、届かない。
 相変わらず怖い顔だが、いつになく焦っているように見えたのだ。

(まさか……!)

 今の状況を考え、ルシアは最悪(・・)を考えた。

(コトリ! サラさん……!)

 自分が無駄に動くだけなら全く構わない。
 それよりも、もしここにいない二人に何かあったのだとしたら。

「──【光・身体強化】」

 ルシアは迷わず属性魔法を発動させる。
 少しコントロールを覚え始めたとはいえ、まだ力は発展途上。
 暴走の危険性はまだまだある。

「それでも、やるしかない……!」

 ルシアはその場を()り出した。
 前方を行くヴァルツを追いかけるように──。