<ルシア視点>
「ヴァルツ君……」
昨日のことがあってから、色々と考えてみた。
あの時、コトリとサラさんは途中で【毒】にやられて気を失っていた。
つまり、最後の会話を聞いていたのは僕だけからだ。
「どうして君の名前が……」
その中でたしかに聞いたんだ。
あの二人がヴァルツ君の名前を出したことを。
──そんな時、
「おい」
「!」
前方から声が聞こえて顔を上げる。
タイミングが良いのか悪いのか、ヴァルツ君だ。
「話がある」
「……!」
彼のその言葉でピンとくる。
やっぱり来た。
もしあの二人がヴァルツ君の手下なら、おそらく僕への口止めを考える。
そう思っていたんだ。
僕は慎重に、下から尋ねる。
「場所を変える?」
「必要ない」
「?」
だけど、そんな雰囲気はなく。
目付きが悪いのはいつものことだけど、何かしてくるわけではないような。
すぐに終わるってどういうことだろう。
なんて考えている内に──
「!?」
ヴァルツ君の顔が急に強張る。
「……! ……ッ!」
しかも、何かもがき苦しんでいるような表情だ。
後ろに隠れている右手も、なぜかプルプルしているようにも見える。
一体何をする気なんだ!?
「ヴァ、ヴァルツ君!?」
「……ッ!」
そうして一瞬顔を引きつらせた後、
「……チッ」
「!?」
急にふっと冷静になったヴァルツ君。
まるで何かを諦めたかのようだ。
「だ、大丈夫?」
「黙れ。俺の前から消えろ。目障りだ」
「……ええ」
と思えば、僕に退くよう言ってくる。
もう何がなんだか分からない。
「消えないなら俺が行く。どけ」
「うわっ!」
さらに、ヴァルツ君は僕に肩を当てながら歩いて行った。
「な、なんだったんだろう……」
『話がある』と言ったのはヴァルツ君なのに。
なんというか不思議な行動だった。
大貴族の感覚はやっぱり僕と違うのかな。
「あ」
そして気づく。
昨日のことも聞きそびれたことに。
★
<三人称視点>
誰もいないトイレにて。
ここは校内でも最も端に位置する。
その中で一人、
「なんで!?」
ヴァルツが控えめに壁を叩く。
失敗したからだ。
ルシアにペンダントを渡すことに。
「どういうプライド!?」
先程、ヴァルツはルシアに会った。
昨日の計画通りにペンダントを返そうとしたのだ。
だが、やはりというべきか、悪い予想が当たる。
ヴァルツの傲慢な意志力が「人に物をあげる」ことを許さなかった。
「手も痛いし……」
そんなやり取りの中で、右手に隠し持ったペンダントを差し出そうとした。
だが、意志力がそれを許さず、中と外のヴァルツの力が釣り合って均衡。
結果、ヴァルツは自ら手を攣ることに。
ふっと冷静になったのは、一旦諦めたからだ。
「我ながらアホすぎる……」
ペンダント一つにここまで苦労するとは。
つくづくこの傲慢な性格にため息を吐きたくなる。
「となると、次なる手は……」
そんな事を必死に考えるのもバカらしい。
だが、いずれの事を思えば、主人公であるルシアに返さないわけにもいかないようだ。
「いくつか方法はある」
たとえば、『ルシアの鞄にこっそり入れる』。
「いやいや!」
思い付いておいて、ヴァルツは自ら頭を振る。
「スマホを持ってない小中学生のラブレターじゃあるまいし!」
恥ずかしさもそうだが、さらに不審に思われて終わり。
そう考えたようだ。
「却下で。次」
そうして、考えること少し。
「これだ!」
閃いたヴァルツは早速実行に移した。
そうして、再び相まみえたヴァルツとルシア。
「おい」
「ヴァルツ君!」
「やはり邪魔だ。どけ」
声をかけつつ、またも道を開けさせる。
行動の不審さも極まり、ルシアからすればもはや怖いが、関係ない。
「あ!」
その最中でヴァルツはペンダントを落とす。
ルシアがそれに気づいて声を上げた。
「そ、それ……!」
「なんだ」
あえてはぐらかすヴァルツ。
だが、内心はガッツポーズである。
(よし、食いついた!!)
まさに計画通りだ。
彼の考えたまま、ルシアが訴えかけてくる。
「それは僕に必要なものなんだ」
「……」
「返してくれないか?」
ペンダントは、ルシアも取り返そうとしていたようだ。
協力すると決めたサラのためでもあり。
過去の悲しい出来事を繰り返さぬよう、さらなる力を得るためでもある。
対してヴァルツは、
「好きにしろ」
「え?」
興味なさげに振り返った。
まるでそれが要らない物かのように。
「い、いいの?」
「二度も言わせるな。そんなものはいらん」
「そ、そうなんだ……」
その言葉には戸惑いながらも、ルシアは慎重にペンダントを拾う。
そして、とあることに気づく。
(まだ体温がある……)
先程までぎゅっと握りしめていたためだ。
横目でルシアの行動を見ていたヴァルツは一言。
「せいぜい大切にするがいい。平民らしくな」
「……!」
口調は悪いが、言葉に込められた確かな優しさを感じるルシア。
今の行動も相まって意思を読み取りかける。
(返しにきてくれた?)
まだ半信半疑の上、二人組との関係も謎。
それでも「返ってきた」ことには変わりない。
(大貴族って難しい……)
どこか疑心は残りつつも、今は素直に受け取るルシアであった。
そして、当のヴァルツは、
(やったー!!)
なんとかペンダントを返すことに成功。
ようやくあるべき場所に戻すことができ、内心では喜びをかみしめる。
(よかった、よかった)
これで一件落着。
しばらく心配はないだろう。
……と思っていた。
ヴァルツの頭からは抜け落ちてしまっていたのだ。
現時点でのシナリオが、本来よりとんでもなく早く進んでいるということを。
★
数日後。
学園内の広場にて。
「何はともあれ、取り返せて良かったね。ルシア君」
「はい、少し不思議でしたけど……」
サラとルシアが共にお昼ご飯を食べている。
話題はペンダントについてのようだ。
「それはそうと、あれから変化はないのかい?」
「そうですね、特にないです」
「そうかあ」
ありのままを話すルシア。
何も変化がないことに、サラは少し残念そうだ。
──と思った矢先、
「……!」
突如として、首から掛けていたペンダントが光り始める。
『勇者の祠』で授けられた時と同じような輝きだ。
「な、なんだ!?」
混乱するルシアに、再び謎の声。
≪汝の力を示すが良い≫
「……!」
その言葉で直感した。
この場合において、力とはおそらくひとつ。
──【光】属性のことだ。
「ルシア君!」
「はい、はい!」
それはサラも勘付いている。
ルシアは言葉のままに、ペンダントに【光】属性を込める。
だが、タイミングが悪かった。
ここにきて、物語が速く進行している弊害が出てしまったのだ。
「──!?」
ペンダントの光が 過剰なまでに強まっていく。
異変が起きているのは間違いない。
「なんだ、光が強く……!?」
ゲーム内でも存在するこのイベント。
しかし本来ならば、もっと後半に起きるはずだったのだ。
正確に言えば、ルシアが【光】をコントロールし始めた後。
「まずい! ルシア君!」
「……!」
今のルシアの魔力制御はまだ未熟のまま。
強すぎる【光】を完全に扱いきれず、ただ力のままに込めてしまった。
その結果、
「【光】があふれる……!?」
ペンダントが正常な反応を見せない。
言うならば『暴走状態』のようなもの。
「……!」
とっさにルシアの頭に過ったのは、ヴァルツの言葉。
『せいぜい大切にしやがれ』
(もしかしてヴァルツ君はこのことを!?)
そうして、あふれた光が爆発のような輝きを見せ、
「くううっ!」
「うわあっ!」
巨大な何かが姿を現した──。
「ヴァルツ君……」
昨日のことがあってから、色々と考えてみた。
あの時、コトリとサラさんは途中で【毒】にやられて気を失っていた。
つまり、最後の会話を聞いていたのは僕だけからだ。
「どうして君の名前が……」
その中でたしかに聞いたんだ。
あの二人がヴァルツ君の名前を出したことを。
──そんな時、
「おい」
「!」
前方から声が聞こえて顔を上げる。
タイミングが良いのか悪いのか、ヴァルツ君だ。
「話がある」
「……!」
彼のその言葉でピンとくる。
やっぱり来た。
もしあの二人がヴァルツ君の手下なら、おそらく僕への口止めを考える。
そう思っていたんだ。
僕は慎重に、下から尋ねる。
「場所を変える?」
「必要ない」
「?」
だけど、そんな雰囲気はなく。
目付きが悪いのはいつものことだけど、何かしてくるわけではないような。
すぐに終わるってどういうことだろう。
なんて考えている内に──
「!?」
ヴァルツ君の顔が急に強張る。
「……! ……ッ!」
しかも、何かもがき苦しんでいるような表情だ。
後ろに隠れている右手も、なぜかプルプルしているようにも見える。
一体何をする気なんだ!?
「ヴァ、ヴァルツ君!?」
「……ッ!」
そうして一瞬顔を引きつらせた後、
「……チッ」
「!?」
急にふっと冷静になったヴァルツ君。
まるで何かを諦めたかのようだ。
「だ、大丈夫?」
「黙れ。俺の前から消えろ。目障りだ」
「……ええ」
と思えば、僕に退くよう言ってくる。
もう何がなんだか分からない。
「消えないなら俺が行く。どけ」
「うわっ!」
さらに、ヴァルツ君は僕に肩を当てながら歩いて行った。
「な、なんだったんだろう……」
『話がある』と言ったのはヴァルツ君なのに。
なんというか不思議な行動だった。
大貴族の感覚はやっぱり僕と違うのかな。
「あ」
そして気づく。
昨日のことも聞きそびれたことに。
★
<三人称視点>
誰もいないトイレにて。
ここは校内でも最も端に位置する。
その中で一人、
「なんで!?」
ヴァルツが控えめに壁を叩く。
失敗したからだ。
ルシアにペンダントを渡すことに。
「どういうプライド!?」
先程、ヴァルツはルシアに会った。
昨日の計画通りにペンダントを返そうとしたのだ。
だが、やはりというべきか、悪い予想が当たる。
ヴァルツの傲慢な意志力が「人に物をあげる」ことを許さなかった。
「手も痛いし……」
そんなやり取りの中で、右手に隠し持ったペンダントを差し出そうとした。
だが、意志力がそれを許さず、中と外のヴァルツの力が釣り合って均衡。
結果、ヴァルツは自ら手を攣ることに。
ふっと冷静になったのは、一旦諦めたからだ。
「我ながらアホすぎる……」
ペンダント一つにここまで苦労するとは。
つくづくこの傲慢な性格にため息を吐きたくなる。
「となると、次なる手は……」
そんな事を必死に考えるのもバカらしい。
だが、いずれの事を思えば、主人公であるルシアに返さないわけにもいかないようだ。
「いくつか方法はある」
たとえば、『ルシアの鞄にこっそり入れる』。
「いやいや!」
思い付いておいて、ヴァルツは自ら頭を振る。
「スマホを持ってない小中学生のラブレターじゃあるまいし!」
恥ずかしさもそうだが、さらに不審に思われて終わり。
そう考えたようだ。
「却下で。次」
そうして、考えること少し。
「これだ!」
閃いたヴァルツは早速実行に移した。
そうして、再び相まみえたヴァルツとルシア。
「おい」
「ヴァルツ君!」
「やはり邪魔だ。どけ」
声をかけつつ、またも道を開けさせる。
行動の不審さも極まり、ルシアからすればもはや怖いが、関係ない。
「あ!」
その最中でヴァルツはペンダントを落とす。
ルシアがそれに気づいて声を上げた。
「そ、それ……!」
「なんだ」
あえてはぐらかすヴァルツ。
だが、内心はガッツポーズである。
(よし、食いついた!!)
まさに計画通りだ。
彼の考えたまま、ルシアが訴えかけてくる。
「それは僕に必要なものなんだ」
「……」
「返してくれないか?」
ペンダントは、ルシアも取り返そうとしていたようだ。
協力すると決めたサラのためでもあり。
過去の悲しい出来事を繰り返さぬよう、さらなる力を得るためでもある。
対してヴァルツは、
「好きにしろ」
「え?」
興味なさげに振り返った。
まるでそれが要らない物かのように。
「い、いいの?」
「二度も言わせるな。そんなものはいらん」
「そ、そうなんだ……」
その言葉には戸惑いながらも、ルシアは慎重にペンダントを拾う。
そして、とあることに気づく。
(まだ体温がある……)
先程までぎゅっと握りしめていたためだ。
横目でルシアの行動を見ていたヴァルツは一言。
「せいぜい大切にするがいい。平民らしくな」
「……!」
口調は悪いが、言葉に込められた確かな優しさを感じるルシア。
今の行動も相まって意思を読み取りかける。
(返しにきてくれた?)
まだ半信半疑の上、二人組との関係も謎。
それでも「返ってきた」ことには変わりない。
(大貴族って難しい……)
どこか疑心は残りつつも、今は素直に受け取るルシアであった。
そして、当のヴァルツは、
(やったー!!)
なんとかペンダントを返すことに成功。
ようやくあるべき場所に戻すことができ、内心では喜びをかみしめる。
(よかった、よかった)
これで一件落着。
しばらく心配はないだろう。
……と思っていた。
ヴァルツの頭からは抜け落ちてしまっていたのだ。
現時点でのシナリオが、本来よりとんでもなく早く進んでいるということを。
★
数日後。
学園内の広場にて。
「何はともあれ、取り返せて良かったね。ルシア君」
「はい、少し不思議でしたけど……」
サラとルシアが共にお昼ご飯を食べている。
話題はペンダントについてのようだ。
「それはそうと、あれから変化はないのかい?」
「そうですね、特にないです」
「そうかあ」
ありのままを話すルシア。
何も変化がないことに、サラは少し残念そうだ。
──と思った矢先、
「……!」
突如として、首から掛けていたペンダントが光り始める。
『勇者の祠』で授けられた時と同じような輝きだ。
「な、なんだ!?」
混乱するルシアに、再び謎の声。
≪汝の力を示すが良い≫
「……!」
その言葉で直感した。
この場合において、力とはおそらくひとつ。
──【光】属性のことだ。
「ルシア君!」
「はい、はい!」
それはサラも勘付いている。
ルシアは言葉のままに、ペンダントに【光】属性を込める。
だが、タイミングが悪かった。
ここにきて、物語が速く進行している弊害が出てしまったのだ。
「──!?」
ペンダントの光が 過剰なまでに強まっていく。
異変が起きているのは間違いない。
「なんだ、光が強く……!?」
ゲーム内でも存在するこのイベント。
しかし本来ならば、もっと後半に起きるはずだったのだ。
正確に言えば、ルシアが【光】をコントロールし始めた後。
「まずい! ルシア君!」
「……!」
今のルシアの魔力制御はまだ未熟のまま。
強すぎる【光】を完全に扱いきれず、ただ力のままに込めてしまった。
その結果、
「【光】があふれる……!?」
ペンダントが正常な反応を見せない。
言うならば『暴走状態』のようなもの。
「……!」
とっさにルシアの頭に過ったのは、ヴァルツの言葉。
『せいぜい大切にしやがれ』
(もしかしてヴァルツ君はこのことを!?)
そうして、あふれた光が爆発のような輝きを見せ、
「くううっ!」
「うわあっ!」
巨大な何かが姿を現した──。