<三人称視点>
 
 一日目を経て、ヴァルツ達の本格的な学園生活が始まった。

 校風はかなり自由のようだ。

 授業は、たくさん用意された中から、各自で必要と思ったものだけを選択する。
 『必修科目』なども存在するが、それほど多くはない。

 試験に合格した者は、それほど信頼を持たれているということなのだろう。

 また、戦闘施設や研究室も許可を取れば自由に出入りできる。
 まさに自己研鑽(けんさん)に最適な環境が揃っていると言える。




 そして、朝イチの授業。

「……フッ」

 ヴァルツは授業一番後ろの席を陣取る。
 いつものように腕を組み、偉そうな態度だ。

 ヴァルツレベルならば、受けなくても良いであろうこの授業。
 だが、実は誰よりも授業を真剣に聞いていた。

(楽しい……!)

 原作では、授業はそれほど細かく触れられない。
 そのため世界観を楽しめるだけで心が(おど)ったのだ。

 しかし、外面が傲慢(ごうまん)な男による弊害(へいがい)はあった。

(動け、この体……!)

 体が真面目に授業を聞く態度を取れない。
 腕を組んでいるのもそのためだ。

 それもそのはず、教室にはたくさんの生徒がいる。
 人前も人前なのだ。

(なんだそれ! 傲慢というより、もはやひねくれ(・・・・)者じゃないか!)

 心の中ではそう思わざるを得ないが、動かないものはしょうがない。
 ならばと、この体で出来ることを最大限に活用した。

「あ?」
「「「ひっ……!」」」

 ジロジロと見てくる周りの生徒を、ガンを飛ばして威圧。
 周りは一斉に視線を逸らした。

 ──その隙に、

(【光・身体強化】!)

 強化系最上位属性である【光】を手先(・・)に集約。
 
(うおおおおおおッ!)

 ヴァルツは目にも止まらぬ速さでノートを取る。
 家に帰って復習するためである。

「……フッ」

 そして、また腕を組む。

(なんで授業を受けるだけで一苦労なんだ……)

 そんな苦労をしながらも、ヴァルツは授業を楽しむ。

 だが、ヴァルツの隣に座るリーシャ。
 彼女は一部始終をバッチリと目に収めていたのだ。

(可愛らしいです、ヴァルツ様)

「なんだ? 女」
「いえ、なんでも。……ふふっ」

 そんなこんなで、始まった学園生活を満喫するヴァルツ達であった。


 
★  



<ヴァルツ視点>

 学園から帰り、今の家である屋敷。
 寮などもそれなりに存在するけど、多くの貴族は学生街に家を借りたり、わざわざ建てたりする。

 僕のその内の一人だ。

「……」

 そして、僕は色々と考えていた。
 
 学園のこと、教団のこと、変わっているシナリオのこと。
 どれだけ考えても足りないほどに、考えるべきことはある。

 だけど、その間に来客があった。
 別にそこまではいい。
 
 問題は……その来客だ。

「へっへっへ」
「うふふ」

 僕の対面の席に座り、ニコニコしている二人組。
 いかにも褒めてほしそうな顔をしながら、こちらを見てくる。

「……」

 何からツッコもうか。
 まずは……うん、そうだな。

「なぜ、てめえらが王都(ここ)にいやがる」

 まずはそれからだ。

「ひどいじゃねえか、ヴァルツ様」
「そうよお。そんな言い方しなくても」

 来客の正体は──ダリヤさんとマギサさん。
 二人とは、故郷で感動のお別れをしたって言うのに。

「質問に答えろ」
「おっと、そうだったな」

 そうして、ようやくダリヤさんが答える。

「俺たちは(やと)われたのさ」
「誰にだ」
「すまねえ、そりゃヴァルツ様でも言えねえわな」
「……」

 まあ、それは仕方ないか。

 彼らは、依頼主からお金をもらう冒険者。
 依頼主の守秘義務は絶対だ。

「ならば、何をしにきたのか。もう一度言え」

 先ほど、目的は軽く聞いている。 
 でも、あまりに唐突で混乱してしまったんだ。

「これだよ、ヴァルツ様」

 ダリヤが袋から出したのは、一つのペンダント。

 白銀の表面に、周りにかすかに光を帯びている。
 いかにも普通のペンダントではない。

 ……というか、絶対に見たことある。

「『勇者の祠』で手に入れた。ペンダントだ」

 僕は思わず上を見上げた。

「……」(……ふぅ)

 なにやってんの、この人たち!?

 それって主人公の持ち物だよね!?
 しかも大切な授かり物!!

「詳しく説明しろ」(もっと詳しく!!)

 内心すごく動揺しているけど、ヴァルツの口は至って冷静。
 こんな時だけは傲慢口調も役に立つな。

(ほこら)に行ったら、ヴァルツ様と同じ【光】を持つ奴がいてな」
「ああ」

 間違いなくルシアだな。

「そいつが、謎の声でこれを授かっていたんだよ」
「ああ」
「でも、これが似合うのはヴァルツ様だろうって」

 はい、間違ってます。
 僕は【光】を宿したけど、悪役なんです。

「それで、取り返してやってわけよ」
「は?」

 考えが盗賊すぎるだろ。
 もしくは脳筋。

「それが依頼主の要望なんでねえ」
「……」

 いや、依頼主の要望なら仕方ないのか……。

 それと確信した。
 ここまでお世話焼きな依頼主は、爺やさんか父さんだ。
 どうせ「ヴァルツを最大限サポートしろ」とかそういう依頼だろう。

「チッ」

 ならば一旦、整理してみよう。

 依頼主は、僕のさらなる発展を願って依頼。
 二人は、傭兵として依頼主の通りに。
 ルシアは、原作通りに進んだだけだ。

 って、待てよ。

「おい」
「なんでしょう」
「その授かった奴の前で、俺の名前を出したか?」
「え、あ、いやあ……ははは」

 ダリヤさんは明らかに目を泳がせる。

「覚えてないっすね」
「あんた思いっきり出してたわよ」
「おい」

 と思ったら、マギサさんがジト目で突っ込んだ。

「……」(……ふぅ)

 僕は再び上を見上げる。

 二人はルシアにとっては知らない人物。
 そんな人物が、僕の名前を出しながらペンダントを奪っていった。
 となれば、ルシアは僕を疑うのが普通だ。

 あれ。
 もしかしてこれ、僕だけが悪者(・・・・・・)になってないか?

「ヴァルツ様、何か変なことしちまったか?」
「!」

 悩んでいたからか、ダリヤさんが控えめに聞いてくる。

 ここはどうするべきか。

 まず、このペンダントはルシアに返しておいた方が良い。
 勇者の祠イベントは、おそらく彼じゃないと進めることができないからだ。
 僕が持っていても何の価値もないだろう。

 ならば、そうだな。

「構わん」
「ヴァルツ様……!」
「むしろよくやった」

 とりあえず、こう言っておく他ない。

 その上で、これは僕が直々にルシアに返す。
 今のルシアと二人を、これ以上鉢合わせるのは危険そうだし。

「部屋は余分にあるだろう。勝手に使え」
「助かるぜ!」
「ええ!」

 なんとか話はまとまった。

 でも、一つだけ不安は残る。
 この傲慢なヴァルツに、人に物をあげるとか出来るのかな。

「……」

 いや、それでも!
 僕はルシアにペンダントを返す!
 絶対に!

 こうして、僕は謎の決意を固めるのであった。