<ヴァルツ視点>

「いずれ魔王となられる者よ」

 集団の一人、老人がニヤリと語りかけてくる。

「さらなる力が欲しくはないか?」
「……!」

 黒紫に染まった、不気味な装束(しょうぞく)
 この特有の不審な雰囲気。

 こいつら、『魔王教団』か……!

 ──魔王教団。
 この世界における暗部組織のようなものだ。
 彼らの掲げる信念は「魔王の復活」。

 かつて勇者と血を争いあった魔王。
 勇者とは相打ちに終わったけど、今もなお裏社会では崇拝(すうはい)の対象だ。

 そしてこいつらは、物語後半(・・)でヴァルツに接触してくる。
 でも、一つ気になることがある。

 僕の所に来るのが早すぎないか……?

「……!」

 そして勘付く。

 本来ならば、ヴァルツが【闇】を発現されるのはもっと後半。
 学園で属性魔法を学んだ時に初めて灯すんだ。

 でも僕は、それを試験で披露してしまった。

 【闇】は魔王の系譜(けいふ)である証拠。
 彼らがその噂を聞き逃すはずがない。

「……」

 同時に、僕の中でさらなる仮説が立つ。
 
 ルシアの【光】発現。
 教団のヴァルツへの接触。

 ──もしかして、僕が努力をしたことによって、本来よりとんでもなく早く話が進んでいる?
 
「ヴァルツ様……」
「!」

 そんな時、リーシャが不安げに腕にしがみついてくる。

 そうだった。
 色々と考える前に、まずは目の前のことを解決しなければ。

「どうされましたか、ヴァルツ・ブランシュ様」
「一つ聞く」
「なんでございましょう」
「お前たちは、魔王教団か?」

 まずは手探りからだ。

「なんと! 我らをご存じだったとは! 一体どこで情報を──」
「黙れ。お前に質問権はない」
「こ、これは失礼いたしました」
 
 やはり間違っていないかった。
 さらに魔王を(うやま)うからこそ、同じ属性を持つ僕にも下から接してくる。

「俺に何の用だ」
「我らは、あなた様の力になりたく思います」
「具体的に話せ」
「かしこまりました」

 それから、老人が話を始める。

 なんでも、王都には『魔王の(ほこら)』なるものがあるらしい。
 そこにいけばさらなる力を得られるんだとか。

「ほう」

 このゲームをプレイした時、『勇者の祠』なら行った覚えはある。
 でもまさか、同じようなものが魔王サイドにも存在したとは。
 原作のヴァルツはここに行っていたのかな。

「いかがでしょうか」
「魅力的な話じゃないか」
「おお! では……!」
「ああ」

 だけど、僕には関係ない(・・・・)話だ。

「──断る」
「なっ……!」

 僕は真正面から断った。

「どうした。何か文句でもあるのか」

 僕は悪事に手を染めるつもりはない。
 魔王の復活も望まない。

 父や母、メイリィに爺や。
 二人の師匠に……そして、リーシャ。
 その他大勢のこの世界の人たちも含めて。

 僕はこの力を守るため(・・・・)に使うと決めたんだ。
 正義のヒーローのように!

「なぜですか! あなたは力を求めると──」
「お前に質問権はない。そう言ったはずだが?」
「……ぐっ!」

 老人は歯を食いしばる。
 それに、こいつらのやり口は知っているんだ。

()(しろ)にはならん」
「……!」

 こいつらが望むのは、あくまで「魔王の復活」。
 最終的には僕じゃないんだ。

 【闇】属性を使って、魔王を復活させる。
 そのために、やがて僕を生贄(いけにえ)にしようとする。

「図星か?」
「お、おのれ……!」

 原作のヴァルツはそれに気づき、力のみを手にしたけどね。
 ともかく、こいつらとは今後付き合わない。

 ──それに、

「そんなものに頼らずとも、俺は自ら力をつける」

 僕は努力を惜しまない。
 ヒーローになるためなら。

「ぐ、ぐぐっ……」

 対して老人は、悔しそうに声を荒げた。

「なにを傲慢(ごうまん)なことを!」
「……フッ」

 その言葉には、図らずとも同意してしまう。

「ああ、そうだ。俺は傲慢(こう)(しゃく)ヴァルツ・ブランシュ様だ」
「……! これは!」
「俺に口答えした罰だ」

 僕は彼らに【闇】属性魔法を付与。
 身体機能を弱体化し、動けなくする魔法だ。

「お前らのような低能は、そこで頭を冷やしておけ」
「おのれえええ……!」

 まあ、一時間もすれば解けるだろう。
 後は言葉を付け加えておくだけ。

「次はないぞ」

 そうして僕は、リーシャを連れてその場を去った──。







<三人称視点>

 その頃、主人公ルシア一行。
 彼らは学園前で会った少女に連れられ、『勇者の(ほこら)』を訪れていた。

「す、すごいよルシア君……!」

 声を上げたのは──『サラ』。

 彼女も立派なメインヒロインのひとりである。
 探偵への憧れから、一人称は『ボク』だ。

 探偵のような格好をした彼女も、学園の先輩。
 普段は主に遺跡研究をしていて、歴史関連に興味がある。

「ボクの見込んだ通りだ!!」

 サラがルシアに接触したのは、【光】を持つ新入生が現れたと聞いたから。
 なぜヴァルツではないかは……おそらく人望の差(・・・・)だろう。

 そして、目の前の事象に戻る。

「サラ、これは一体なんなの?」
「ふっふ〜ん。これはだね……」

 ルシアに尋ねられ、サラは得意げに説明する。

 一行の前にあるのは、とある大きな(せき)()
 綺麗な泉の中央に置かれ、勇者に関する“何か”が収められているとされる。

「でもね〜」

 だが、勇者が没して数百年。
 この石碑からは一切の情報が得られず、近年では「ハリボテ」、「偽の遺跡」とまで言われていた。

 それでも、サラは諦めず研究し続けた。

 そして、ようやく導いた答えは──【光】。
 【光】を持つ誰かが訪れれば、事は起きると推測していたのだ。

 そんな中、【光】を持つルシアが現れたことで、本当に石碑が光りだしたのだ。

「こんな反応、見たことがないよ!」
「そうなんだ」
「君は本当に【光】の持ち主だったんだね……!」

 ルシアに関心するサラ。

「むぅぅ」

 それをまたも後ろから眺めるコトリであった。

 ──そうして、

(なんじ)、【光】を持つ者であるか≫

「「「……!」」」

 どこからともなく声が聞こえてくる。

「答えて答えて!」
「は、はいっ!」

 サラの小声に促されてルシアは返事をした。

≪良い。ならば、それを証明してみよ≫

「証明?」

≪汝にこれを授ける≫

「……!」

 天からゆっくりと小さな物が落ちてくる。
 光り輝くペンダントのようだ。
 
 ルシアは水をすくい上げるような手で、ペンダントを受け取った。

「これをどうすれば?」

≪自ら導いてみよ≫

「え?」

(しか)るべき時、また訪れるが良い≫

「ちょっと!」

 そうして、謎の声は聞こえなくなった。
 一連のやり取りにサラは大興奮だ。

「すごい! この祠はやっぱり本物だったんだ!」
「そ、そうなんですかね」
「うん! 君の力もさ!」

 だが、具体的な行動は指示はなく、ただルシアにペンダントが授けられたのみ。
 ルシアは困惑した様子。

「うーん……」

 本来ならば、ここからたくさんの冒険を通して少しずつヒントを得ていく、そんな物語である。

 ──しかし、すでに運命は変わっていた。

「本当に【光】持ちがもう一人いたとはなあ」
「驚きよねえ」

「……!?」

 突然、物陰から聞こえてくる二人の声。
 おじさんに、おば……お姉さんの声だ。

「ま、うちの愛弟子は【闇】も宿したけどな」
「ちょっと。魔法を鍛えたのは私よ。自慢の息子みたいに言わないでくれる?」

 現れたのは、とある剣士ととある魔法使い。

「いいだろうがよ、マギサ(・・・)。剣を教えたのは俺だ」
「分かってないわねえ、ダリヤ(・・・)は」

 彼らの名前のようだが、ルシアは初対面。

「だ、誰ですか!」

「ガキには関係ねえよ」
「ごめんねえ。私たちも雇われた身だから」

「……ッ!」

 見るからに戦闘態勢の二人。

「くっ! 二人は離れて!」

 ルシアは剣を片手に、コトリとサラを引き離そうとする。

「ダメだよルシア! あの人達!」
「明らかに強そうだね。探偵のボクには分かる」

 だが、コトリとサラも武器を取った。

「良いねえ、学園生たち」
「若い子は好きよ」

 謎の二人組も本格的に構えを取る。

「【身体強化】」
「【|毒の装甲《ポイズン・アーマー】」

 そうして、ルシア達と謎の二人組がぶつかった。




 少しの戦闘後。

「ぐっ……」

 【光】を宿したルシアだが、その力は発展途上。

「こいつはもらっていくぜ」

 ルシアは敗れたのだ。
 その上、授かったペンダントを取られる。

 今の彼は知りもしないが、二人は王国元トップの剣と魔法使いだ。

「とにかく依頼は完了だな」
「そうね」

 意識がもうろうとする中、ルシアの耳には二人の会話が届いていた。

 その中で、とある人物が出てくる。

ヴァルツ様(・・・・・)、喜んでくれるかねえ」
「どうかしら。あの子、強情だし」
「ははっ、間違いねえ」

(ヴァ、ヴァルツ君……!?)

 その名前に、ルシアは驚きを隠せない。

(どういうことだ。どうしてヴァルツ君が!)

 傲慢でありながらも良い人だと思っていた。
 実際に助けられてもいる。

 だが、この会話で彼のことが分からなくなる。

「救援は呼んでおいたからね、坊や」
「ぐっ……」

 そうして、ルシアは意識を手放した──。