さて、と柚月は頬をパンと叩いて気合を入れる。目標を頭の中で整理し始めた。

(雄一との婚約は回避、家族とは前以上に距離を取って、もしもの時に頼れる味方を作る、東雲の家にも愛着なんてないから跡を継ぐのもお断りよ)

前の人生、美月が雄一の子を孕ったと両親が知った場合何とか醜聞を最低限にしようと奔走しただろう。その皺寄せは必ず柚月に来たはずだ。柚月には無関心な癖に都合の良い時だけ「姉」であることを強要した両親。恐らく思い会う2人を祝福して身を引いた柚月は美月の代わりに美月の婚約者と結婚して東雲を継ぐ、といったそういった筋書きになっていたと思う。想像しただけでゾッとする。何が恐ろしいかと言えば、前の柚月なら両親に頼られたら頷いていたかもしれないことだ。

柚月は愛情に飢えていた。両親からの愛が得られないと分かると雄一に依存したが素直に好意を表に出すことが出来ず、雄一から見たら愛想の無い可愛げのない婚約者だったのだろう。だから雄一は柚月を切り捨てた。両親に対しても未練はない。政略結婚だった母と当主だった祖父が立て続けに亡くなると、喪が開けてすぐに義母と再婚した父。元々愛し合っていたのに、家のために引き裂かれた悲劇の2人。両親にとって大事なのは美月だけで、柚月には無関心だった。かつては縋っていたが、今は何も思わない。

せっかく与えられたやり直しの人生は好きな様に生きていくのだ。