死に戻った私の幸せな人生



柚月が祖父母の元へ突撃し、孝臣と婚約して3年が経ち柚月は15歳になった。相変わらず東雲家で皆に守られながら生活しているし、孝臣との仲も良好だ。当然雄一との婚約話が持ち上がることも無い。

何と雄一は美月とここ最近親しいようだと、栞から聞かされて驚いた。

「美月お嬢様、柚月様が孝臣様と婚約してから躍起になって色んな男性に声かけてますからね」

その言い方だと美月が節操なしのように聞こえるが、あながち間違いでも無い。美月は孝臣に密かに憧れていたらしく、婚約した直後は何度か突っかかって来たことがある。孝臣をくれ、と耳を疑うことを言い出したのだ。

『無理よ』

『どうして!いつも私が欲しがったら譲ってくれたじゃない!』

『孝臣さんはものじゃ無いから譲ることは不可能よ。そもそも孝臣さんは私をご指名なの。美月では無理よ。お父様に泣きついてみれば?無駄だろうけど』

柚月は自分でもゾッとするほど冷たい声が出て、美月はビクリと華奢な肩を震わせると大きな瞳に涙を浮かべて泣き出した。美月の侍女がこちらを強く睨みつける。柚月が美月に言い返したことが気に食わないのだ。美月の侍女はどうしても柚月を見下しているから、仕方ない。

『お姉様に酷いことを言われたってお父様に言い付けるわ!』

泣きながら叫ぶ美月を冷ややかな声で一瞥すると『好きにすれば?』と吐き捨てる。

『私は間違ったことは言ってないわ。美月、お父様に泣きついたら何とかなるという考え方、改めた方が良いわよ』

柚月はそう良い残すとその場を去った。美月は予想通り父に泣きつき、孝臣が欲しいと訴えたそうだが聞き入れられなかった。当然であるが、父に願いを叶えてもらえなかった美月は父と父の味方をする義母を避けるようになったため、東雲家の雰囲気はギスギスし始めた。それから美月は孝臣以上の男をものにするために、パーティーやら学園やらで色んな男に声をかけるようになり、その言動がはしたないと周囲から白い目で見られるようになった。

それでも美月の庇護欲をそそる外見のおかげか、男には人気があるらしく、前の人生と同じく雄一が虜になったようだ。

(雄一は長男だから婿にはなれない。そういえばお父様は色んな親戚に連絡を入れてると聞いたわ。東雲を継いでくれる親戚を探しているのかしら)

美月の様子では婿を取るための婚約者探しは進まない。あれだけ可愛がっていたはずの美月を父も義母も持て余しているように見えた。前の人生では柚月が美月の我儘を引き受ける役目を負っていた。それを今回は放棄しているし父も柚月に強く言うことは出来ない。前は柚月が犠牲になることで家族として保っていただけで、その柚月が役目を果たさないだけで呆気なく形を保てなくなる脆い家族だったのだ。

柚月にはもう関係のない話だ。柚月はいずれこの家を出ていく。大学に進学したら孝臣とは一緒に住む話が出ているが、美月のとばっちりを喰わないように影山家に住む話も最近は出ている。孝臣はどうやら美月が嫌いらしく、前に突撃された際は不快感を露わにし、全身から冷気を発して威嚇していた。

『…君、人のものが欲しいだけで俺のことが好きなわけじゃないだろ』

『わ、私は本気です!お姉様みたいなきつい人より私の方が』

『あ?柚月を侮辱するなら許さないよ。柚月と半分血が繋がってるから今まで見逃してやったけど、これ以上関わるなら容赦しない…それにしても、自分の本当に欲しいものが分からないなんて、可哀想だね』

哀れみを込めた目で美月を一瞥すると、用はないとばかりに柚月を連れてその場を離れた。後ろを振り返ると呆然とした美月が立ち尽くしていた。そうか、美月は人のものだから欲しがるのか。では雄一のことも本当に好きだったのかどうか怪しいものだ。益々前の自分の人生は何だったのだと虚しい気持ちを抑えられないが孝臣のおかげで何とかやっていけている。

それから一層美月の男漁りが酷くなった気がするものの、どうすることも出来ない。美月自身が自分のことに気づかない限り。

柚月はというと孝臣との仲を順調に深めていっている。彼は口数が少ないと父親に言われていたがそんなことはなく、ストレートに好意を示してくれるのでこちらはタジタジだ。

そしてこの前、孝臣の英語の成績が飛び抜けて良いことから教師に短期留学の話を持ちかけている場面を目撃した。彼はその話を即座に断ってしまった。

「断って良かったんですか」

前の人生では短期どころか数年留学していたのに、今の孝臣は留学する気配すらない。すると孝臣は徐に柚月の肩を抱き寄せてくる。

(ぎゃ!)

「柚月と数ヶ月でも離れるなんて耐えられないからね」

孝臣は場所を問わず柚月への気持ちを決して隠さない。不思議なことに孝臣の婚約者という全ての女性から妬まれる立場のはずなのに難癖を付けられたことがあまり無いのだ。ある時柚月のことを釣り合ってないとか、みずぼらしいと直接言いに来た女子はノアが吹いた火に驚いて逃げた後、後日柚月に平謝りした上で怯えるようになった。

(孝臣さんが何かしたんだろうな)

彼はどうやら柚月に害を成す人間に容赦がないようだ。孝也に聞いたところ、幼い頃から何でもこなせた上に地位を狙って近づく人間が後を絶たず子供ながらとても冷めた性格だったよう。それが柚月と出会ってから人が変わったように、柚月と婚約するために邁進するようになったという。大したことはしてないのに、孝也に礼を言われて恐縮してしまった。

孝臣は毎日柚月を家まで迎えに行き、教室にも顔を出し昼は外せない用事がない限りは一緒に食べて、当然帰りも一緒である。あまりの溺愛っぷりに学園一の有名カップルになってしまった。柚月としては恥ずかしいやら何やらと複雑な気持ちだ。

柚月は孝臣に自分を気持ちを伝えていない。既にかなり好きなのだが勇気が出ないのである。態度でうっすらと孝臣にはバレている気がするが、柚月が自分の口で言うまで待っているのだろう。

(もう少し待ってください)

心の中で呟きながら柚月は孝臣の肩に自分の頭を乗せて、甘えて見せた。