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 意識を取り戻すと、私は固く冷たい場所で眠っていたのだと気づく。
 体を起こし辺りを見渡すと、ここはコンクリートで囲まれている小さな部屋だと分かる。扉が一つあるがこちらから開けられそうな感じはない。中から一人で出られるような場所ではないから、私はどこも拘束されていないのだろう。

「どうして……」

 いきなりこのようなことになり、頭の整理がつかない。

「それに、さっきの夢って……」

 起きるといつも思い出せない夢。それを今は鮮明に覚えている。これまでに見た忘れられた夢も、ぼんやりと思い出される。
 夢に出てきた瑠莉と朔都。偶然とは思えない名前と、知らないはずなのに知っているような既視感。あれは間違いなく私に起きた出来事だと思う。そうとしか思えなくなってしまった夢が、今の私を更に混乱させる。

「あら、目が覚めましたか」
「あなたは……」

 見覚えのある姿に目を見開く。親切にしてくれた、お手洗いへ案内してくれた女性ではないか。彼女は嘲るようにこちらを見つめる。

「随分お人好しな方なのですね」
「どうしてこんなことするのですか?」
「どうしても何も、気に入らないのですよ」
「なんで……」

 私と彼女は今日が初対面のはずだ。気に障るほどの関係を持っていないだろう。

「なんの力も持たないただの人間が、なぜ朔都様の隣にいるのです」

 朔都と婚約してから今まで、周りには私を歓迎する人しかいなかった。だから勘違いしてしまっていた。元より彼は特別な存在で、その隣に立つ者も特別でなくてはならなかったのだ。

「朔都様のことを思うなら身を引いてください。消えてください」

 これがもっと前だったら悩んだかもしれない。しかし、今の私に答えは一つしかない。

「嫌です」

 私はすでに、引き返せないほど彼に惹かれている。きっかけなど分からないほど、彼は私にいろんなものをくれた。あの夢が何かなんて関係ない、私は彼の隣にいたい。

「本当に身の程知らずな女ですね」

 私に近づき顔面に伸ばされる手。反射的に目を瞑るがその後の衝撃はない。

「……朔都様っ」

 目を開けると彼女の手を掴んでいる朔都の姿がある。今まで見たことない彼の冷たい表情に息を吞む。

「私、朔都様のために――」

 熱を感じる瞳で話す彼女に目もくれず、目の前に来た彼は私を抱きかかえた。

「怪我はないか?」
「どこも怪我ないよ」

 いつもの彼に戻ったと感じると、一気に体から力が抜ける。抱えられたまま、その体を彼に預ける。

「朔都様、目を覚ましてください。その女に惑わされてはなりません」

 部屋を出ようとする彼の前に彼女が立ちはだかる。

「どけろ」
「どけません!」
「どけろ!」

 大きな音を立てて彼女の体が吹き飛ぶ。その一連の流れで、朔都は彼女に指一本触れていなかった。

「これ以上戯けたこと言うな。この件に関わった者は全て処分を下す。お前の家もなくなると思え」

 そう残すと彼はこれ以上言葉を発することはなかった。部屋の外に待機していた者たちが後始末はやったのだろう。