昼間と同じように、背筋が粟立つ。
規則的にガタガタと鳴る戸が、かえって不気味だ。その間も、男は同じ言葉を繰り返している。
このままでは引き下がらないのではないか。
ひりつくような頭の中で、必死に考えを巡らせて、かろうじて、結論が出る。
(追い返すしか、ない)
役立たずとして本家を放逐された身だが、一度は引き取られたからには霊力なら多少はある。奉公人仲間が唯一教えてくれた九字切りも、使ったことはないが覚えてはいる。加えて塩でも撒けば、追い返すくらいはできるんじゃないか。
りんの心は決まった。
足音を立てないよう厨房に走り、塩の壺を掴んで、ゆっくり戸口に向かった。
「すんまへん。開けとくれやす」
そう繰り返し、戸を開けようと動かし続けている。
ガタガタいう音が徐々に激しくなる中、りんは抜き足差し足で近づき、そっと戸に手をかける。
「塩をかけて、九字を切る。塩をかけて、九字を切る。塩をかけたらすぐに九字……!」
ぶつぶつと小声で手順を繰り返し、いよいよ意を決して、戸を大きく引いた。
「や、やあぁぁーーーーっ!!」
持っていた塩壺を思いっきり目の前にぶちまける。ぶふっ、とむせる声が聞こえた。
今だ。
りんは教わった通りに指を動かす。
「り、臨、兵、闘、者、皆、仁、烈……」
縦に横に動かし、無我夢中で唱えた。すると……
「ち、ちょお待った! なんで退治されなあかんねん!」
「在、ぜ……え?」
その声には、聞き覚えがあった。かなり最近だ。
ぎゅっと瞑っていた目をこじ開けて、おそるおそる前を見る。
そこに立っていたのは、頭から塩を被って老人のような頭になった男性……千秋だった。
「な、な、なんで!?」
「こっちの台詞や、ドあほ!!」
その声は、路地を抜けた先……大阪すてんしょ前まで響くのに十分な叫び声だった。
規則的にガタガタと鳴る戸が、かえって不気味だ。その間も、男は同じ言葉を繰り返している。
このままでは引き下がらないのではないか。
ひりつくような頭の中で、必死に考えを巡らせて、かろうじて、結論が出る。
(追い返すしか、ない)
役立たずとして本家を放逐された身だが、一度は引き取られたからには霊力なら多少はある。奉公人仲間が唯一教えてくれた九字切りも、使ったことはないが覚えてはいる。加えて塩でも撒けば、追い返すくらいはできるんじゃないか。
りんの心は決まった。
足音を立てないよう厨房に走り、塩の壺を掴んで、ゆっくり戸口に向かった。
「すんまへん。開けとくれやす」
そう繰り返し、戸を開けようと動かし続けている。
ガタガタいう音が徐々に激しくなる中、りんは抜き足差し足で近づき、そっと戸に手をかける。
「塩をかけて、九字を切る。塩をかけて、九字を切る。塩をかけたらすぐに九字……!」
ぶつぶつと小声で手順を繰り返し、いよいよ意を決して、戸を大きく引いた。
「や、やあぁぁーーーーっ!!」
持っていた塩壺を思いっきり目の前にぶちまける。ぶふっ、とむせる声が聞こえた。
今だ。
りんは教わった通りに指を動かす。
「り、臨、兵、闘、者、皆、仁、烈……」
縦に横に動かし、無我夢中で唱えた。すると……
「ち、ちょお待った! なんで退治されなあかんねん!」
「在、ぜ……え?」
その声には、聞き覚えがあった。かなり最近だ。
ぎゅっと瞑っていた目をこじ開けて、おそるおそる前を見る。
そこに立っていたのは、頭から塩を被って老人のような頭になった男性……千秋だった。
「な、な、なんで!?」
「こっちの台詞や、ドあほ!!」
その声は、路地を抜けた先……大阪すてんしょ前まで響くのに十分な叫び声だった。