あたし達が乗った電車は、遅れたりもせず無事高校の最寄駅に着いた。
だけど、この時間じゃ遅刻するかどうかはギリギリ。
「流石にバスはないか……」
「だね。ごめん……」
バス停の時刻表を見て、がっくりと肩を落としたままあたし達。
あたし達が通う事になった高千穂高校は駅から徒歩十五分。だけど、学校が丘の上にあるから、途中の長い階段を上らないといけないんだよね……。
「謝んなくっていいから。走るぞ!」
「う、うん!」
覚悟を決めたハル君の言葉に、思わずあたしも頷く。
そして、学校までの地獄のダッシュが始まった。
実はあたし、時刻表を見ながら、流石に諦めて遅刻した方がいいかなって思ってた。
でも、イケメン過ぎるハル君の真剣な顔を見て、釣られて返事しちゃったんだよね。
勿論、走りながら後悔したよ?
こんなの、ただ疲れるだけじゃんって。
あたしの自業自得。だからもう、諦めて遅刻してもよかったんじゃって。
特に、例の階段を駆け上がっている時がピーク。
もう足を止めたいって、何度も思った。
でも、隣で額に汗を掻きながら、諦めないと言わんばかりの顔で駆け上がる、制服姿のハル君を見てドキドキしちゃってたし。そんなご褒美をもっと見るんだーって気持ちだけで乗り切った。
って、なんか餌を貰えるからって頑張る犬みたいになってるけど、ハル君がいなかったら、絶対ここまでしない。
そして、彼と一緒にいられるのは、あたしにとって最高のご褒美。
頑張ってくれてる彼に応えたい。その一心で走り続けた結果。
何とかギリギリ遅刻せずに済んだあたし達は、一時限目の授業でもう既にぐったりしちゃって。初授業でうとうとして、いきなり先生に怒られる快挙を達成した。
◆ ◇ ◆
「でもさー。その身長だとやっぱ服選びって大変じゃない?」
「あ、うん。オーダーメイドになっちゃう事も多いし、結構」
「だよねー。ちなみに、やっぱバレーとかバスケとかやってた?」
「ううん。あんまりスポーツに興味なかったから」
「大きくなるのに、何か良い食べ物とかある?」
「わかんない。っていうか、狙って大きくなろうなんてしなかったし」
昼休み。
あたしは近くのクラスメイトに話しかけられて、色々と根掘り葉掘り聞かれながら、お母さんが作ってくれたお弁当を頬張っていた。
初対面の人は、大体みんなあたしの身長に食いついて、こんな感じで質問攻めしてくる。だから、会話自体は慣れっこ。
ただ、本当はあんまり身長について、あまり話したくはないんだよね。
でも、高校生になったからこそ、クラスメイトと気まずくなるのはあんまり良くないなぁって思って、あたしは憂鬱な気持ちを笑顔でごまかしながら、何とか会話を続けていた。
「でもいいなー。その身長、少し分けて欲しいんだけどー」
なんて小さい子に言われたけど、分けられるならほんと分けたいんだけどなぁ。
別にあたし、好きでここまで大きくなったわけじゃないし……。
ちなみにハル君の方も同じみたいで、男子生徒とお弁当を食べつつ、背が低い事について話題にされてる。
と言っても、彼は露骨にそういう話題にげんなりした顔をして、
「悪いけど、その話はやめてくれないか?」
なんて、はっきりと口にしてるけど。
周囲は「まあまあ」なんて言いながら笑ってるけど、ハル君もきっと内心相当イライラしてると思う。
まあ、当面はこんな感じの日々が続いて、好奇心が収まった後でも、一緒にいてくれる子が友達になる。
そこまでの我慢だよね……なんて思ってたけど。神様は、そんなあたしに更なる試練を与えてきた。
「お昼中、失礼しまーす!」
突然話しかけてきたのは、脇に立つ二人の女子生徒のひとり。紺色のショートカットの子。隣にいる金髪ポニーテールの女子も、にこにことしている。
金髪と紺色の違いはあるけど、すらっとしてて、スカートから見える足が引き締まってるのが共通点。そして、彼女達の視線は間違いなくあたしに向けられている。
何か運動をしてそうな雰囲気のある彼女達を見て、あたしはこの先の会話を想像し、ちょっと気分が重くなる。
「やっぱり、彼女はバレーに向いてそうね」
「こらー! 雫! 抜け駆けはダメだかんね!」
「うるさいわねー。バスケ部にこんな逸材は渡せないわよ」
「ダメダメ! 彼女には、ぜーったい! バスケ部に入ってもらうんだから!」
言い争う見知らぬ二人の生徒。
やっぱりそういう話かぁ……。
あまりに予想通りすぎる展開に、あたしは内心げんなりした。
これ、間違いなく部活の勧誘でしょ。
部活への勧誘は、新入生が浴びる洗練だって聞いた事はあった。
だけど、中学入学の時にはここまで身長もなかったから、こういう勧誘は未経験なんだよね。
今やこれだけ背も伸びちゃったしだから、多分こういう話が来るだろうなぁって思ってはいたけど。まさか高身長がもてやはされる二大巨頭、バスケ部とバレー部の人が同時に勧誘に来るなんて。
一緒にお昼を食べていたクラスメイトも、やっぱりねーみたいな顔をしている。
ちなみに、あたしは部活動に入る気はまったくない。
元々そこまで運動部に興味がなくって中学時代も帰宅部だったし、ハル君も同じく帰宅部だったのもある。
でも、入学式の少し前。
一緒の高校に行くって決まった後。ハル君に部活はどうするの? って聞いたら、彼も部活に入る気はないって言ってたのもあった。
あたしだけ部活に入ったら、一緒に登校したり下校したりできなくなっちゃうし。
ちゃんと断らないと……。
そんな心構えをしていると、先に口を開いたのは紺色の髪の先輩だった。
「私は、二年E組の西原雫。女子バレー部の部員なんだけど」
「あたしは女子バスケ部の東野雨音。雫と同じ二年だよ。よろしくね!」
「あ、えっと。はじめまして。小杉美桜です」
うわー。二年の先輩かー。あんまり変な事も言えないけど、断るの大変そう……。
そんな予想を現実にするかのように、二人が一気に本題を語り始めた。
「ね? 小杉さん。バレー部に興味ない?」
「ちょっと雫ー。それフライングだって。ね? ね? 是非バスケ部に入ってよ?」
「雨音! あなたもストレート過ぎでしょ!」
「いいじゃーん! どうせ美桜ちゃんはバスケ部に入るんだしー」
「まだ決まってないでしょ! 小杉さんなら、バレー部でも十分活躍できるわよ!」
一気にまくしたててくる二人の圧がやばい。
あたしは少し気後れしながらも、
「あ、あの。えっと、遠慮しておきます」
と、愛想笑いだけは維持しつつ、やんわりと断った。
瞬間、先輩達二人の顔色が変わる。間違いなく「嘘っ!?」って顔だ。
「え? 何で!? それだけの身長があるんだよ? 勿体ないじゃん!」
「そこは雨音の言うとおりね。バレー部なら間違いなく将来有望よ?」
「あの、あたし、そんなに運動好きでもないし──」
「大丈夫よ。バレーなら、ボールが来た所でえいっと飛んでくれれば問題ないから。ね?」
「ね? じゃないじゃん、雫。バレーだってレシーブとかするっしょ。美桜ちゃんがそんな事したらー、腕とか痛めちゃうし。その点バスケならー、ゴール下で守ってくれるだけで、全然イケるし楽だよ?」
「そっちにだってファウルとかあるでしょ! 体当たりとかされたら、余計危ないわよ!」
「うっさいなー。美桜ちゃんがいたら、わざわざ当たりに来ないってー。ね? だからー、バスケ部で一緒にアオハルしよ?」
「小杉さん。雨音の言う事なんて聞かないで。バレー部で一緒に汗を流さない?」
先輩たちの会話を聞きながら、自分の笑顔が引きつってきてるのがわかる。
あまりの押しの強さは勿論あったけど、こっちが温和にいっても絶対に譲らないって空気しか感じない。
あたしがこの身長だからこそ誘ってきただけ。知ってはいたけど、それが露骨にわかる会話は、やっぱりあたしからしたらムカッとする。
こっちの気持ちも知らないで……。そうイライラする自分と。
相手は先輩。どうやって断ればいいんだろうって、困っている自分。
正直どうすればいいのかわかんなくって、あたしが苦笑しながら言葉に詰まっていると。
「先輩達」
突然、二人に声を掛ける聞き覚えのある声が……って、ハル君!?
そう。気づいたら、あたしの隣に真顔の彼が立っていたの。
だけど、この時間じゃ遅刻するかどうかはギリギリ。
「流石にバスはないか……」
「だね。ごめん……」
バス停の時刻表を見て、がっくりと肩を落としたままあたし達。
あたし達が通う事になった高千穂高校は駅から徒歩十五分。だけど、学校が丘の上にあるから、途中の長い階段を上らないといけないんだよね……。
「謝んなくっていいから。走るぞ!」
「う、うん!」
覚悟を決めたハル君の言葉に、思わずあたしも頷く。
そして、学校までの地獄のダッシュが始まった。
実はあたし、時刻表を見ながら、流石に諦めて遅刻した方がいいかなって思ってた。
でも、イケメン過ぎるハル君の真剣な顔を見て、釣られて返事しちゃったんだよね。
勿論、走りながら後悔したよ?
こんなの、ただ疲れるだけじゃんって。
あたしの自業自得。だからもう、諦めて遅刻してもよかったんじゃって。
特に、例の階段を駆け上がっている時がピーク。
もう足を止めたいって、何度も思った。
でも、隣で額に汗を掻きながら、諦めないと言わんばかりの顔で駆け上がる、制服姿のハル君を見てドキドキしちゃってたし。そんなご褒美をもっと見るんだーって気持ちだけで乗り切った。
って、なんか餌を貰えるからって頑張る犬みたいになってるけど、ハル君がいなかったら、絶対ここまでしない。
そして、彼と一緒にいられるのは、あたしにとって最高のご褒美。
頑張ってくれてる彼に応えたい。その一心で走り続けた結果。
何とかギリギリ遅刻せずに済んだあたし達は、一時限目の授業でもう既にぐったりしちゃって。初授業でうとうとして、いきなり先生に怒られる快挙を達成した。
◆ ◇ ◆
「でもさー。その身長だとやっぱ服選びって大変じゃない?」
「あ、うん。オーダーメイドになっちゃう事も多いし、結構」
「だよねー。ちなみに、やっぱバレーとかバスケとかやってた?」
「ううん。あんまりスポーツに興味なかったから」
「大きくなるのに、何か良い食べ物とかある?」
「わかんない。っていうか、狙って大きくなろうなんてしなかったし」
昼休み。
あたしは近くのクラスメイトに話しかけられて、色々と根掘り葉掘り聞かれながら、お母さんが作ってくれたお弁当を頬張っていた。
初対面の人は、大体みんなあたしの身長に食いついて、こんな感じで質問攻めしてくる。だから、会話自体は慣れっこ。
ただ、本当はあんまり身長について、あまり話したくはないんだよね。
でも、高校生になったからこそ、クラスメイトと気まずくなるのはあんまり良くないなぁって思って、あたしは憂鬱な気持ちを笑顔でごまかしながら、何とか会話を続けていた。
「でもいいなー。その身長、少し分けて欲しいんだけどー」
なんて小さい子に言われたけど、分けられるならほんと分けたいんだけどなぁ。
別にあたし、好きでここまで大きくなったわけじゃないし……。
ちなみにハル君の方も同じみたいで、男子生徒とお弁当を食べつつ、背が低い事について話題にされてる。
と言っても、彼は露骨にそういう話題にげんなりした顔をして、
「悪いけど、その話はやめてくれないか?」
なんて、はっきりと口にしてるけど。
周囲は「まあまあ」なんて言いながら笑ってるけど、ハル君もきっと内心相当イライラしてると思う。
まあ、当面はこんな感じの日々が続いて、好奇心が収まった後でも、一緒にいてくれる子が友達になる。
そこまでの我慢だよね……なんて思ってたけど。神様は、そんなあたしに更なる試練を与えてきた。
「お昼中、失礼しまーす!」
突然話しかけてきたのは、脇に立つ二人の女子生徒のひとり。紺色のショートカットの子。隣にいる金髪ポニーテールの女子も、にこにことしている。
金髪と紺色の違いはあるけど、すらっとしてて、スカートから見える足が引き締まってるのが共通点。そして、彼女達の視線は間違いなくあたしに向けられている。
何か運動をしてそうな雰囲気のある彼女達を見て、あたしはこの先の会話を想像し、ちょっと気分が重くなる。
「やっぱり、彼女はバレーに向いてそうね」
「こらー! 雫! 抜け駆けはダメだかんね!」
「うるさいわねー。バスケ部にこんな逸材は渡せないわよ」
「ダメダメ! 彼女には、ぜーったい! バスケ部に入ってもらうんだから!」
言い争う見知らぬ二人の生徒。
やっぱりそういう話かぁ……。
あまりに予想通りすぎる展開に、あたしは内心げんなりした。
これ、間違いなく部活の勧誘でしょ。
部活への勧誘は、新入生が浴びる洗練だって聞いた事はあった。
だけど、中学入学の時にはここまで身長もなかったから、こういう勧誘は未経験なんだよね。
今やこれだけ背も伸びちゃったしだから、多分こういう話が来るだろうなぁって思ってはいたけど。まさか高身長がもてやはされる二大巨頭、バスケ部とバレー部の人が同時に勧誘に来るなんて。
一緒にお昼を食べていたクラスメイトも、やっぱりねーみたいな顔をしている。
ちなみに、あたしは部活動に入る気はまったくない。
元々そこまで運動部に興味がなくって中学時代も帰宅部だったし、ハル君も同じく帰宅部だったのもある。
でも、入学式の少し前。
一緒の高校に行くって決まった後。ハル君に部活はどうするの? って聞いたら、彼も部活に入る気はないって言ってたのもあった。
あたしだけ部活に入ったら、一緒に登校したり下校したりできなくなっちゃうし。
ちゃんと断らないと……。
そんな心構えをしていると、先に口を開いたのは紺色の髪の先輩だった。
「私は、二年E組の西原雫。女子バレー部の部員なんだけど」
「あたしは女子バスケ部の東野雨音。雫と同じ二年だよ。よろしくね!」
「あ、えっと。はじめまして。小杉美桜です」
うわー。二年の先輩かー。あんまり変な事も言えないけど、断るの大変そう……。
そんな予想を現実にするかのように、二人が一気に本題を語り始めた。
「ね? 小杉さん。バレー部に興味ない?」
「ちょっと雫ー。それフライングだって。ね? ね? 是非バスケ部に入ってよ?」
「雨音! あなたもストレート過ぎでしょ!」
「いいじゃーん! どうせ美桜ちゃんはバスケ部に入るんだしー」
「まだ決まってないでしょ! 小杉さんなら、バレー部でも十分活躍できるわよ!」
一気にまくしたててくる二人の圧がやばい。
あたしは少し気後れしながらも、
「あ、あの。えっと、遠慮しておきます」
と、愛想笑いだけは維持しつつ、やんわりと断った。
瞬間、先輩達二人の顔色が変わる。間違いなく「嘘っ!?」って顔だ。
「え? 何で!? それだけの身長があるんだよ? 勿体ないじゃん!」
「そこは雨音の言うとおりね。バレー部なら間違いなく将来有望よ?」
「あの、あたし、そんなに運動好きでもないし──」
「大丈夫よ。バレーなら、ボールが来た所でえいっと飛んでくれれば問題ないから。ね?」
「ね? じゃないじゃん、雫。バレーだってレシーブとかするっしょ。美桜ちゃんがそんな事したらー、腕とか痛めちゃうし。その点バスケならー、ゴール下で守ってくれるだけで、全然イケるし楽だよ?」
「そっちにだってファウルとかあるでしょ! 体当たりとかされたら、余計危ないわよ!」
「うっさいなー。美桜ちゃんがいたら、わざわざ当たりに来ないってー。ね? だからー、バスケ部で一緒にアオハルしよ?」
「小杉さん。雨音の言う事なんて聞かないで。バレー部で一緒に汗を流さない?」
先輩たちの会話を聞きながら、自分の笑顔が引きつってきてるのがわかる。
あまりの押しの強さは勿論あったけど、こっちが温和にいっても絶対に譲らないって空気しか感じない。
あたしがこの身長だからこそ誘ってきただけ。知ってはいたけど、それが露骨にわかる会話は、やっぱりあたしからしたらムカッとする。
こっちの気持ちも知らないで……。そうイライラする自分と。
相手は先輩。どうやって断ればいいんだろうって、困っている自分。
正直どうすればいいのかわかんなくって、あたしが苦笑しながら言葉に詰まっていると。
「先輩達」
突然、二人に声を掛ける聞き覚えのある声が……って、ハル君!?
そう。気づいたら、あたしの隣に真顔の彼が立っていたの。