「良かった良かった。ショートケーキ食べてくれて」
公園のベンチに並んで座る。手に持っているのはプラスチックのお皿の上に乗っている苺のショートケーキ。
誰かと一緒に食べるのじは美味しいから、一緒に食べようと誘ってきたのだ。
ノアさんは奇術師らしく、「今週の春祭りでマジックを披露するからおいで」と宣伝された。
(食べ物に釣られた、、、、)
これじゃ誘拐されても文句は言えない。
でも、ノアさんとは何だか初めて会った気がしないような、、、、。
何処だろう?忘れちゃいけないような、、、、。
「陽茉莉ちゃん?どうしたんだい?」
「あ、何でもない、、、、」
タメ口で良いと言われたのでタメ口で話す。ノアさんは笑っていた。
「ノアさん、私達、何処かで会った?」
どうにも、初対面とは思えないのだ。
「いーよいーよ、今は思い出さなくて」
念を押すように頭を撫でる。表情こそ笑顔だけれど、寂しそうな声だった。
優しさを包み込んだ声を聞いているうちに、何だか懐かしくなって、でも何でなのか分からなくて、気が付けば涙が零れていた。
「陽茉莉ちゃん!?どうしたの?何処か痛い?」
前触れもなく泣き出した私を見てノアさんが焦り声を上げる。「ケーキ、嫌だった?」
小さく首を振る。
「じゃあ何で、、、、」
子供みたいに燕尾服をギュッと握り締める。無意識だった。初対面の人のはずなのに、、、、。
「ノアさんは、、、、友達っていますか?」
「友達?、、、、いるよ。たった一人だけ、僕のことを大切にしてくれた子がね」一瞬きょとんとしたが、微笑んでそう言った。
「羨ましいです、、、、」
「羨ましい、、、、?」
小さく頷く。
一度口を開けば零れ出る言葉達。
「私、小さい時から周りに見えない何かが見えてて、それで変な子ってレッテル貼られて、、、、友達いなくて、今年高校生になるんだけど友達出来るか不安で、、、、」
その言葉達を拾うようにノアさんは黙って聞いている。全て良い終わると、ふんわりと微笑んだ。
「じゃあ、僕が陽茉莉ちゃんの初めての友達だね」
可笑しいと笑わないの?
変だって思わないの?
みんな、それこそ家族でも信じてくれないようなことを、さらりと受け入れたのだ。
「ど、して、、、、」
「陽茉莉ちゃんは僕の✕✕✕✕だからね」
一部雑音が入って聞き取れなかった。
そっと、首から下げた狐の根付(ねつけ)を握り締めた。
私が生まれる前、お父さんが家の倉庫を掃除していたら見付けた物らしい。古い物らしいが、傷ひとつ付いていないので、お守り代わりになるだろうと私に持たせた。
小さい時はよく根付と喋っていたらしい。(一方通行なのだが、両親曰く『根付と会話していた』と言う)
「ショートケーキ、ありがとうございました」
「いーよ、いーよ。お礼なんて、陽茉莉ちゃんが笑顔なら僕はそれで良いんだ」
そろそろ帰らないと両親が心配する時間帯になるので、お礼を告げて公園を後にした。

一人残されたノアの目には華奢な陽茉莉の後ろ姿が映っていた。
「小さい頃と変わっていないね」
視線をずらし、陽茉莉が持って帰るのを忘れたお菓子が大量に入った袋を見つめる。
「おっちょこちょいなところも、ね」
呟いた言葉は風によって、拾われることはなかった。