今日は陽茉莉ちゃんの帰りが遅い。文化祭の片付けは昨日終わらせたと言っていたし、居残りや補習もないはずだ、、、多分。
もし、事故に遭っていたら?もし、何か犯罪に巻き込まれていたら?もし―――
心配で心配で、すぐにでも探しに行きたい。
「、、、行こう!」

陽茉莉ちゃんは学校から少し離れた墓地にいた。数人の子も一緒だ。
(あの子は、、、どうしてこんな場所に来てしまうのかな、、、?)
陽茉莉ちゃんは、昔から物の怪の声が、姿が、分かるから、物の怪はどうしてもそういう者に集まりやすい。
ほら、今だってそうだ。物の怪の白い指が陽茉莉ちゃんの首に近付く。
「この子は駄目だよ」
ぴたりと物の怪は動きが止まり、陽茉莉ちゃんが息を詰める。
「その子は君にはあげられない。良いね?」
そう言えば物の怪はあっさりと引き下がり、闇の中に消えていく。ほうっとそれに息を吐いて、陽茉莉ちゃんの傍まで行く。
「やぁ、陽茉莉ちゃん。大丈夫だった?」
「ノアさん、、、?今のは?」
「うーん、暖かくなると奇人変人が増えるからねぇ、、、。特に夜になると奇人変人の博覧会だよ」
だから、こんな時間にここに来るのは感心しないなぁと付け加えて。
さっきのが変人だと誤魔化されてくれるなんて思っていないけれど、曖昧なものは曖昧として話題を瞬時にすり替える。
「君みたいな若くて可愛い子は、悪い人達にとって一番のカモだからね」
物の怪だろうと人間だろうと、陽茉莉ちゃんみたいな子を狙う輩は多いだろう。陽茉莉ちゃんの性格は基本的に人を惹き付けてしまうから。
「ね、分かったら帰ろう?」
陽茉莉ちゃんを墓地に連れて来たであろう三人には見覚えがあった。確か、陽茉莉ちゃんを陰でいじめていた子達だ。
(、、、なら助けなくて良いか)
そう判断して、三人に聞こえるくらいの微量な声量で呟いた。
「今度、陽茉莉ちゃんをいじめたら、、、次はないよ」
今回は陽茉莉ちゃんがいたから助けただけであって、この子達だけの場合は助けない。だって、陽茉莉ちゃんを傷付けたから。
夜は一般の人でも物の怪を見ることが出来る。墓地で巫山戯た人がどうなるかなんて、そんなの分かり切った話だろう?
陽茉莉ちゃんの手を握り、震える三人に背を向けて歩き出した。
「ノアさん」
「ん?どうしたんだい?」
「何で私が墓地にいるって分かったの?」
「僕は君のことなら何でも分かるよ。だって、陽茉莉ちゃん専属の奇術師だからね」