『今日は何の話をしようか』
小さい頃から、不意に現れる人がいる。
男性なのか女性なのか、そもそも顔すら覚えていないけれど、その人はほぼ毎日、私とお話してくれた。
『陽茉莉ちゃん、陽茉莉ちゃん』

目の前が眩しい。
「う、う〜ん、、、、」
朝。寒い。起きたくない。
そんな単語が頭の中でグルグル回る。
アラームの音が遠くの方で聞こえる。手探りで探しても見付からない。
ここ最近、朝は寒いから布団から中々出られない生活が続いている。
三月の朝は寒い。
「ねむ〜、、、、」
目の前が霞む。人間はどう頑張っても睡魔には勝てない。
それから三十分近く布団に包まっていたが、ようやくリビングに向かった。フローリングの床は冷たい。早足でリビングのソファへと駆け込んだ。
「おはよう、陽茉莉」
「はよ〜、、、」
お母さんが今日は早いわねと言いながら食パンを食べる。
「もう高校生になるから、それに懐かしい夢を見たから」
「へ〜、どんな話?」
「ん〜、、、何だっけ?忘れちゃった」
思い出せそうで思い出せない夢。何か大切な誰かを忘れているような、、、、。
「春休みこそ、早寝早起き!」
「うん、、、、」
まだ眠たい目を擦った。
『そんなに擦ると痛くなるよ?』
「え?」
少し高めの男性の声が聞こえた。
部屋を見渡しても誰もいない。気のせいだったようだ。
春休みと言っても、特にすることがない。友達もいないし、何処かへお出かけする予定なんかない。
スマホをいじったり、何時も通りまったりお菓子をベッドの上で食べて慌てて食べかすを掃除したり、、、、。
夕暮れ時、ちょっとした散歩がてらにお菓子を買いにスーパーまで行った。
朝はあんなに寒かったのに、お昼になると暖かくなるのは何故だろう?
「友達、出来るかな?」
春になったら高校生。
新しい環境、新しい友達。
(ないか、、、、)
コミュ障の中のコミュ障の私が友達なんて出来る訳ない。それに―――
「陽茉莉ちゃん、不安かい?」
「え、、、、」
電信柱の陰から現れたのは、薄いえんじ色の燕尾服(えんびふく)に片眼鏡をかけた糸目の男性だった。
めっちゃ怪しい。
年齢は二十代半ばだろうか?とても笑顔だ。
それに何で名前を知っているんだろう。
無意識に一歩後ずさる。
「そう警戒しないでほしいな。僕は怪しい人じゃないよ」

「あ、怪しい人はみんなそう言うんです!!」
逃げ出そうと足を動かした瞬間―――「え、、、、」
男性に後ろから抱きつかれていた。
「怖がらせてしまってごめんね。でも安心して、僕は君を傷付ける存在じゃないから」
初めて聞いた声のはずなのに、懐かしい。
「陽茉莉ちゃん、今から少し時間ある?」
「え」