「帝都! 私の兄もね、帝都の学校に通っているのよ。一緒ね」
「へぇ、それはすごいな」
素直に感嘆の声を漏らす雪成を見て、燈華は自分のことのように誇らしく思った。清原家の子供達は四人兄妹。勉強熱心な兄は人間に混じって帝都の学校で経営や経済の勉強をしていた。いずれその知識が店を支えるためになるだろうと、兄はいつも得意気に語っている。
きょうだいはどんな感じ? というような話をしながら、その日は時間を潰した。
帰り際、燈華は雪成に呼び止められた。彼が手にしているのは高台から見下ろした雫浜の街の様子を描いた絵だった。わざわざ作業場から持って来たようだ。夜の間に少しずつ描き進めた絵は、完成まであともうひと頑張りといったところである。
「この絵を近いうちに完成させようと思っている。……花火大会があると聞いた。その日に、花火を描き込みたい。日程を教えてほしい。俺は外の情報には疎いから」
冬の始め、雫浜の空には花火が揚がる。
豪雪地帯に片足を踏み込んでいるようなこの街は冬が長い。大水害から復興した頃、凍える季節を乗り切る気合を入れるため、大水害を越えて皆の気持ちを一つにするため、なけなしの金を出し合って小さな花火を揚げたのが始まりと言われている。今では大きな花火が無数に揚がる楽しい冬の催し物である。
一緒に花火を見られたら楽しいだろうなぁ。そんな気持ちが燈華の頭に過った。
「再来週の土曜日よ」
「そうか」
「よかったら私も一緒に……。花火を描いているところを見てみたいんだけど」
「夜にここまで来るつもりか。君みたいな年の女の子が一人で夜道を歩くのは危ない」
「私子供じゃないわ」
「君、十六くらいだろう。俺は十九だけど保護者を務められる自信はない」
「本当は雪成さんよりずっと年上なのよ」
「それでも妖怪にとっては年頃の女の子だろ。君は家族と花火を見るといい」
今日はもう帰りな。いつもの言葉を言って、雪成は燈華のことを強引に見送った。
花火大会当日。
燈華は茉莉と一緒に花火を見ると家族に言って家を出た。行先は雪成の元である。茉莉には口裏合わせを頼んであった。
雪成がどこで街の絵を描いているのか、燈華は知らない。高級住宅街の中を歩き回りながら、彼の匂いを追った。外に出る際、雪成は人目を避けるはずだった。それならば家の少ない場所だろう。それでいて、ある程度開けている場所。
人間が多すぎて匂いを上手く辿れなくても、場所の予想が合っていればきっと会える。うきうきとした足取りで、燈華は茂みの中を進む。
「へぇ、それはすごいな」
素直に感嘆の声を漏らす雪成を見て、燈華は自分のことのように誇らしく思った。清原家の子供達は四人兄妹。勉強熱心な兄は人間に混じって帝都の学校で経営や経済の勉強をしていた。いずれその知識が店を支えるためになるだろうと、兄はいつも得意気に語っている。
きょうだいはどんな感じ? というような話をしながら、その日は時間を潰した。
帰り際、燈華は雪成に呼び止められた。彼が手にしているのは高台から見下ろした雫浜の街の様子を描いた絵だった。わざわざ作業場から持って来たようだ。夜の間に少しずつ描き進めた絵は、完成まであともうひと頑張りといったところである。
「この絵を近いうちに完成させようと思っている。……花火大会があると聞いた。その日に、花火を描き込みたい。日程を教えてほしい。俺は外の情報には疎いから」
冬の始め、雫浜の空には花火が揚がる。
豪雪地帯に片足を踏み込んでいるようなこの街は冬が長い。大水害から復興した頃、凍える季節を乗り切る気合を入れるため、大水害を越えて皆の気持ちを一つにするため、なけなしの金を出し合って小さな花火を揚げたのが始まりと言われている。今では大きな花火が無数に揚がる楽しい冬の催し物である。
一緒に花火を見られたら楽しいだろうなぁ。そんな気持ちが燈華の頭に過った。
「再来週の土曜日よ」
「そうか」
「よかったら私も一緒に……。花火を描いているところを見てみたいんだけど」
「夜にここまで来るつもりか。君みたいな年の女の子が一人で夜道を歩くのは危ない」
「私子供じゃないわ」
「君、十六くらいだろう。俺は十九だけど保護者を務められる自信はない」
「本当は雪成さんよりずっと年上なのよ」
「それでも妖怪にとっては年頃の女の子だろ。君は家族と花火を見るといい」
今日はもう帰りな。いつもの言葉を言って、雪成は燈華のことを強引に見送った。
花火大会当日。
燈華は茉莉と一緒に花火を見ると家族に言って家を出た。行先は雪成の元である。茉莉には口裏合わせを頼んであった。
雪成がどこで街の絵を描いているのか、燈華は知らない。高級住宅街の中を歩き回りながら、彼の匂いを追った。外に出る際、雪成は人目を避けるはずだった。それならば家の少ない場所だろう。それでいて、ある程度開けている場所。
人間が多すぎて匂いを上手く辿れなくても、場所の予想が合っていればきっと会える。うきうきとした足取りで、燈華は茂みの中を進む。

