茉莉は面白いものを見つけたという顔になる。鼬の仲間のほとんどは凶暴な肉食獣である。獲物を見つけた顔になった茉莉はミルクセーキのグラスから口を離す。
「バレバレよ。何年親友やってると思ってるの。わたし達の間に隠し事は無しでしょ。ね、教えてよ。誰にも言わないから。わたしだって先輩の話したんだし」
「いー、いない。いないんだって、本当に。本当なのよ」
「えー、本当?」
「気になる人、なんて……。……い」
雪成が、頭にこびりついて離れない。
「……茉莉」
「な、何よ急に神妙な顔になって」
「妖怪が人間を好きになることってあるのかな。捕食の対象として食べてしまいたいと思うんじゃなくて、恋をすることって……あるのかな」
「え……。燈華、まさか、気になっているの、人間が」
「人間……。人間だって本人は言ってた……」
「自称人間? 何それ。化けるのがめちゃくちゃ上手くて自信たっぷりってこと?」
「分からない……。私は、彼のこと何も知らない。知りたい。出会ってからずっと彼のことを考えている。思い浮かべるだけで、なんだか胸が高鳴る。尻尾が爆発して、どきどき、した」
からかう様子だった茉莉も徐々に真剣な顔になっていた。
店内の客は誰も彼も各々のやっていることや話していることに夢中で、燈華達の会話に聞き耳を立てている者などいない。それでも、なんだかひそひそ話してしまう。茉莉は少し身を乗り出して、口の横に手を添えた。
「それは恋よ、燈華」
「ひぃ」
人に言われることで、自分の中で答えを見付けられていなかったものが「これだ」と示されて固定される。燈華は身震いをした。
親友殿が言うには、どうやら自分は雪成に恋をしているらしい。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、燈華の動きはぎこちない。がちがちになりながらクリームソーダを飲み、茉莉の言葉を反芻し、己が雪成を好いているらしいという事実を嚥下する。
「人間を好きになることも、きっとあるよ。友達になるんだから、恋人になることもある。実際、その結果結婚した人もいるらしいし」
「けっ、けけけけけこんこん」
「ただ、幸せになるかどうかは時と場合によるんだって。やっぱり、人間と妖怪は違うから。……わたし、燈華には不幸になってほしくないな」
「わ、私はまだそんな先のことは……。今はただ、彼を知りたいだけ」
「うん、それでいいと思うわ。人間と付き合うのはどんな関係であれ簡単ではないから。応援してる」
茉莉はミルクセーキを飲み干す。
「だからわたしのことも応援してほしいな。わたしの話、聞いてくれるよね?」
「もちろん」
茉莉の前のグラスは空っぽ。今日はそろそろ解散のようだ。残してはもったいないので、燈華はまだグラスの半分ほどあるクリームソーダをごくごくと飲む。
しかし、炭酸が思っていたよりも残っていて一気に飲むことは難しそうだ。待たせてしまうなと茉莉を見ると、彼女はなぜか女給を呼び止めていた。燈華は目をぱちくりとして茉莉を見つめる。
「次に、同級生の話なんだけど……」
「……は」
ほどなくして、テーブルには二人分のプリンが運ばれて来た。茉莉の話は、まだ終わりそうにない。
「バレバレよ。何年親友やってると思ってるの。わたし達の間に隠し事は無しでしょ。ね、教えてよ。誰にも言わないから。わたしだって先輩の話したんだし」
「いー、いない。いないんだって、本当に。本当なのよ」
「えー、本当?」
「気になる人、なんて……。……い」
雪成が、頭にこびりついて離れない。
「……茉莉」
「な、何よ急に神妙な顔になって」
「妖怪が人間を好きになることってあるのかな。捕食の対象として食べてしまいたいと思うんじゃなくて、恋をすることって……あるのかな」
「え……。燈華、まさか、気になっているの、人間が」
「人間……。人間だって本人は言ってた……」
「自称人間? 何それ。化けるのがめちゃくちゃ上手くて自信たっぷりってこと?」
「分からない……。私は、彼のこと何も知らない。知りたい。出会ってからずっと彼のことを考えている。思い浮かべるだけで、なんだか胸が高鳴る。尻尾が爆発して、どきどき、した」
からかう様子だった茉莉も徐々に真剣な顔になっていた。
店内の客は誰も彼も各々のやっていることや話していることに夢中で、燈華達の会話に聞き耳を立てている者などいない。それでも、なんだかひそひそ話してしまう。茉莉は少し身を乗り出して、口の横に手を添えた。
「それは恋よ、燈華」
「ひぃ」
人に言われることで、自分の中で答えを見付けられていなかったものが「これだ」と示されて固定される。燈華は身震いをした。
親友殿が言うには、どうやら自分は雪成に恋をしているらしい。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、燈華の動きはぎこちない。がちがちになりながらクリームソーダを飲み、茉莉の言葉を反芻し、己が雪成を好いているらしいという事実を嚥下する。
「人間を好きになることも、きっとあるよ。友達になるんだから、恋人になることもある。実際、その結果結婚した人もいるらしいし」
「けっ、けけけけけこんこん」
「ただ、幸せになるかどうかは時と場合によるんだって。やっぱり、人間と妖怪は違うから。……わたし、燈華には不幸になってほしくないな」
「わ、私はまだそんな先のことは……。今はただ、彼を知りたいだけ」
「うん、それでいいと思うわ。人間と付き合うのはどんな関係であれ簡単ではないから。応援してる」
茉莉はミルクセーキを飲み干す。
「だからわたしのことも応援してほしいな。わたしの話、聞いてくれるよね?」
「もちろん」
茉莉の前のグラスは空っぽ。今日はそろそろ解散のようだ。残してはもったいないので、燈華はまだグラスの半分ほどあるクリームソーダをごくごくと飲む。
しかし、炭酸が思っていたよりも残っていて一気に飲むことは難しそうだ。待たせてしまうなと茉莉を見ると、彼女はなぜか女給を呼び止めていた。燈華は目をぱちくりとして茉莉を見つめる。
「次に、同級生の話なんだけど……」
「……は」
ほどなくして、テーブルには二人分のプリンが運ばれて来た。茉莉の話は、まだ終わりそうにない。

