部屋に案内──されはしたけど、なにか応接室のような部屋でした。ここに泊まれと?
「部屋の用意が調うまでお茶にしましょう」
あ、それもそうね。空いてる部屋にポイでは失礼か。わたしだっておば様が来る前はちゃんと客間を調えるしね。
席を勧められ、長椅子に腰を下ろした。
それに合わせて男爵家の侍女さんが押し車からお茶と焼き菓子をテーブルに並べた。
おば様の侍女さんたちも手際や所作がよかったけど、男爵家の侍女さんも負けてないわ。侍女を教育する場所でもあるのかしら?
「ありがとうございます」
侍女さんにお礼を言ってお茶に口につけた。
「これは、バリアール産の紅茶ですね。もう出回ってたとは思いませんでした」
紅茶は異次元屋を通してこの世界に伝わり、カルビラス王国各地に植えられたけど、バリアールとカルバルにしか根づかなかったわ。
「さすがザンバドリ侯爵の侍女ね。飲んだだけでわかるなんて」
「行儀作法として教えられますから」
おば様の侍女は、ですけど。他は知りません。
「わたしの侍女が淹れる紅茶はどうかしら? 意見を聞かせてくれる?」
「よろしいと思いますよ。人の好みはいろいろですし、これと言った答えは出せないですからね」
極めたいのなら日々鍛練するしかないし、淹れる専門になるしかないわね。誰の口にも合うなんて幻想だわ。
「自己紹介が遅れたわね。わたしは、ガルズの妻でアリータよ」
「わたしは、ダイグン・サンドラの妻でヤルーユよ」
どちらも三十半ばのご婦人で、理知的な表情をしている。宮廷晩餐会で見たフワフワなご婦人とは真逆の人たちね。
「改めて名乗らせていただきます。わたしは、シャルロット・マルディックと申します。ザンバドリ侯爵夫人に仕えております」
座ったまま一礼する。わざわざ立ってはおかしいでしょうからね。
「差し支えがなければ、でよいのだけれど、なぜ一人で旅をしているの?」
「ある方への使いを命じられて旅をしております。詳細はお答えできません。ご了承くださいませ」
侍女の言葉使い、もっと意識して聞いておけばよかったわ。後悔先に立たずとはこのことね。
「いえ、ごめんなさいね。答えられないことよね」
はい。城から追い出されたなんて言えません。わたしにも体裁と言うものがありますから。
「わたしは、侍女は侍女でも特殊な立場にいる侍女なので、世間一般の侍女の嗜みはありません。ご無礼はご容赦くださいませ」
そもそも侍女について詳しくないし。おば様の侍女しか知らないし。どう取り繕っていいかわからないし。
「いいのよ。侯爵家はカルビラス王国の盾と言われてるもの。侍女もいろいろよね」
へ~。ザンバドリ侯爵家ってそう言われてるんだ。まあ、おじ様はやり手の宰相だって言われてるみたいだし、隣国には厄介な存在でしょうよ。
「そうですね。いろいろですね」
もう、いろいろで片付けてください。なにも背景がないので。
「あの、わたしが同行してもよろしいのですか? 大使団に侯爵家の侍女が一緒ではいろいろ問題があるのでは?」
どんな問題があるかはわからないけど、なにか不味いんじゃないかってのはわかるわ。
「そうね。よからぬ噂を立てる人もいるでしょう。ですが、わたし、いえ、わたしたちとしてはザンバドリ侯爵家と繋がりができることのほうが重要だわ」
「わたし、侍女なのですが?」
おじ様やおば様、その子どもなら繋がりを得ようとするのはわかるけど、仕えているってだけの侍女になんの得があると言うんだろうか? わたしを懐柔したところでおじ様もおば様も国に不利益になるならわたしの言葉でも聞いたりはしない。二人はカルビラス王国に忠誠を誓ってるんだからね。
「侯爵が侍女を国外に出す。それだけで侯爵があなたを信用しているとわかるわ」
そう解釈するんだ。まあ、信用のない者を国外に出したりしないか。
「信用どうこうはわかりませんが、わたしに侯爵家を動かす力はありませんので過剰な期待はお止めくださいませ」
わたしに政治とかよくわかりませんし、おば様やおじ様の害になることはしたくありません。
「しっかりしているのね」
それはどうだろう? ただ、世間知らずなだけだと思うけどな~。
「奥様。部屋の用意が調いました」
男爵家の侍女さんが現れ、そう男爵夫人に告げた。
「わかったわ。シャーリー嬢。夕食までゆっくり休んでください。湯浴みが必要なら遠慮なく、そこのナタリーに言ってくれて構わないから」
ナタリーとは告げに来た侍女さんの名前のようだ。
「ありがとうございます。では、少し休ませていただきます」
なにかよくわからない見定めは疲れた。ゆっくりお風呂につかりたい。さっさと応接室を出て、用意された部屋へと案内してもらった。
「部屋の用意が調うまでお茶にしましょう」
あ、それもそうね。空いてる部屋にポイでは失礼か。わたしだっておば様が来る前はちゃんと客間を調えるしね。
席を勧められ、長椅子に腰を下ろした。
それに合わせて男爵家の侍女さんが押し車からお茶と焼き菓子をテーブルに並べた。
おば様の侍女さんたちも手際や所作がよかったけど、男爵家の侍女さんも負けてないわ。侍女を教育する場所でもあるのかしら?
「ありがとうございます」
侍女さんにお礼を言ってお茶に口につけた。
「これは、バリアール産の紅茶ですね。もう出回ってたとは思いませんでした」
紅茶は異次元屋を通してこの世界に伝わり、カルビラス王国各地に植えられたけど、バリアールとカルバルにしか根づかなかったわ。
「さすがザンバドリ侯爵の侍女ね。飲んだだけでわかるなんて」
「行儀作法として教えられますから」
おば様の侍女は、ですけど。他は知りません。
「わたしの侍女が淹れる紅茶はどうかしら? 意見を聞かせてくれる?」
「よろしいと思いますよ。人の好みはいろいろですし、これと言った答えは出せないですからね」
極めたいのなら日々鍛練するしかないし、淹れる専門になるしかないわね。誰の口にも合うなんて幻想だわ。
「自己紹介が遅れたわね。わたしは、ガルズの妻でアリータよ」
「わたしは、ダイグン・サンドラの妻でヤルーユよ」
どちらも三十半ばのご婦人で、理知的な表情をしている。宮廷晩餐会で見たフワフワなご婦人とは真逆の人たちね。
「改めて名乗らせていただきます。わたしは、シャルロット・マルディックと申します。ザンバドリ侯爵夫人に仕えております」
座ったまま一礼する。わざわざ立ってはおかしいでしょうからね。
「差し支えがなければ、でよいのだけれど、なぜ一人で旅をしているの?」
「ある方への使いを命じられて旅をしております。詳細はお答えできません。ご了承くださいませ」
侍女の言葉使い、もっと意識して聞いておけばよかったわ。後悔先に立たずとはこのことね。
「いえ、ごめんなさいね。答えられないことよね」
はい。城から追い出されたなんて言えません。わたしにも体裁と言うものがありますから。
「わたしは、侍女は侍女でも特殊な立場にいる侍女なので、世間一般の侍女の嗜みはありません。ご無礼はご容赦くださいませ」
そもそも侍女について詳しくないし。おば様の侍女しか知らないし。どう取り繕っていいかわからないし。
「いいのよ。侯爵家はカルビラス王国の盾と言われてるもの。侍女もいろいろよね」
へ~。ザンバドリ侯爵家ってそう言われてるんだ。まあ、おじ様はやり手の宰相だって言われてるみたいだし、隣国には厄介な存在でしょうよ。
「そうですね。いろいろですね」
もう、いろいろで片付けてください。なにも背景がないので。
「あの、わたしが同行してもよろしいのですか? 大使団に侯爵家の侍女が一緒ではいろいろ問題があるのでは?」
どんな問題があるかはわからないけど、なにか不味いんじゃないかってのはわかるわ。
「そうね。よからぬ噂を立てる人もいるでしょう。ですが、わたし、いえ、わたしたちとしてはザンバドリ侯爵家と繋がりができることのほうが重要だわ」
「わたし、侍女なのですが?」
おじ様やおば様、その子どもなら繋がりを得ようとするのはわかるけど、仕えているってだけの侍女になんの得があると言うんだろうか? わたしを懐柔したところでおじ様もおば様も国に不利益になるならわたしの言葉でも聞いたりはしない。二人はカルビラス王国に忠誠を誓ってるんだからね。
「侯爵が侍女を国外に出す。それだけで侯爵があなたを信用しているとわかるわ」
そう解釈するんだ。まあ、信用のない者を国外に出したりしないか。
「信用どうこうはわかりませんが、わたしに侯爵家を動かす力はありませんので過剰な期待はお止めくださいませ」
わたしに政治とかよくわかりませんし、おば様やおじ様の害になることはしたくありません。
「しっかりしているのね」
それはどうだろう? ただ、世間知らずなだけだと思うけどな~。
「奥様。部屋の用意が調いました」
男爵家の侍女さんが現れ、そう男爵夫人に告げた。
「わかったわ。シャーリー嬢。夕食までゆっくり休んでください。湯浴みが必要なら遠慮なく、そこのナタリーに言ってくれて構わないから」
ナタリーとは告げに来た侍女さんの名前のようだ。
「ありがとうございます。では、少し休ませていただきます」
なにかよくわからない見定めは疲れた。ゆっくりお風呂につかりたい。さっさと応接室を出て、用意された部屋へと案内してもらった。