モルティーヌの店内は、上品な女性が楽しそうにお菓子を選んでいる。

 服装や物腰から買いにきているのは侍女や裕福な奥様、使用人でしょう。いや、貴族のお嬢様もいたか。品位はあるけど、中流から上流を相手にしたお店のようね。

 商品より客層を見ていたら、モルティーヌの従業員(三十歳くらいかしら?)さんと目が合ってしまった。

 先に動いたのは従業員さん。こちらが行動に示す前ににっこりと上品よく笑った。

 ……せ、接客業の達人かしら……?

 先手を取られたことで一瞬の間を作ってしまったけど、わたしもにっこりと笑い返した。

 されど従業員さんの行動は次の行動に移っており、流れるようにこちらへと近寄ってきた。ど、どんな歩きしてるのっ?!

「いらっしゃいませ。ここは初めてですか?」

 親しみのある声で親しみのある言葉を使う従業員さん。達人に間違いないわ!

「はい。連れの者に案内してもらいました」

「そうでしたか。確か、ミリエイラ商会のお嬢様でしたかしら?」

 一緒に入ってきたところを見ていたのは納得として、マリッタのことまで知ってるとか、もしかして、従業員じゃなくて主だったりする?

「はい。ミリエイラ商会の娘のようですね」

 そう言えば、兄弟がいるか聞いてなかったわね。下女として出しているのだから跡継ぎってわけじゃないでしょうから、上か下に跡継ぎがいるんでしょうね。

「やはりそうでしたか。ミリエイラ商会とはあまりお付き合いはありませんが、家の方にはよくご利用いただいております」

「そうなのですか。仕事で出ていなければ頻繁に食べれてたでしょうに」

 今は他の侍女がお土産として買っていかなければ食べられないのだから可哀想ね。

「お客様はお菓子は苦手でしょうか?」

「いえ、自分で作るくらい大好きですよ。特にチョコレートが大好きですね。あ、ここではチョコレートを扱ってますか?」

 わたしら異次元屋で買ってるから当たり前の存在だけど、他は外国から輸入しているとか。王都で一、二を争うなら仕入れているはずでしょう。あるなら買っていきたいわ。

「は、はい。扱っておりますよ。ただ、なかなか入荷しないものなので量は少なくなっておりますが」

「やはり、そう簡単に手に入るものではないんですね」

 安く買えるとは言え、こちらの世界で入手できるのならそれに越したことはない。異世界のものを大量に食べると体に悪いと言うからね。

 ……まあ、異次元屋で厳しく検査してるからそんなに心配はないんだけどね……。

「シャルロット様。お土産はこれでどうでしょうか?」

 マリッタが綺麗な箱に入った焼き菓子──鳥の形をしたクッキーを持ってきた。

「あら、美味しそうね。下女に行き渡るくらい買いなさい」

 下女は三十四人はいるから五、六箱は買わないといけないわね。

「侍女の方々も食べるかしら?」

 わたしは気にしないけど、下女と侍女のお土産って分ける必要あるのかしら?

「はい。侍女様方もこの焼き菓子はいただきます」

「そうなのね。これは人気のものなで?」

 とは従業員さん(仮)に尋ねた。

「はい。当店の人気商品です。モルティーヌは鳥の名前から取っているんですよ」

 へー。モルティーヌって鳥の名前だったのね。

「侍女の方々もいただくなら十箱は必要かしら? あ、男性には他のものがいいかしら?」

 となると結構な量になるわね。他の侍女もこんなにお土産を買ってるのかしら?

「男性は男性が用意するので、侍女様と下女の分でよろしいかと」

 あら、そう言う対応? 決まり? をしてるんだ。なんだかいろいろ大変なのね。

「数はマリッタに任せるわ。必要なだけ買ってちょうだい」

「はい。畏まりました」

 嬉しそうなマリッタ。もしかして、お土産って少なかったりする? 大量に買うわたしが間違ってる?

 ま、まあ、皆が喜ぶなら構わないか。次の休みがいつになるかわからないんだしね。

 ……また入力作業かと思うとため息が出そうになるわ……。

「お客様。時間がよろしければ飲食所でお茶でもどうでしょうか? ロフロケーキも当店人気の品ですよ」

 ロフロケーキ? 初めて聞いたわね。

「そうですね。お昼もまだですし、いただいてみましょうかしら」

 休みなんだから急いで帰ることもないわよね。ロフロケーキがどんなものか気になるし。

「はい。ありがとうございます」

「あ、マリッタも一緒にお願いします」

 さすがに待っていろは酷でしょうからね。

「はい。別の者に案内させます」

 こちらへと、従業員さん(仮)に案内されて飲食所へと向かった。