こうして歩いて買い物するのもおもしろいものね。

 これまでも町に出て買い物はしたことあるけど、周りを固められての買い物で、自由気ままにはできなかった。

「シャルロット様。あまり寄り道していると帰りが遅くなりますよ」

 おっと。さすがに自由気ままにしすぎたわね。

「ごめんなさい。つい楽しくて」

 いけないいけない。今日の目的はシャンプーの材料を買いにきたんじゃないの。初志貫徹しなさい、わたし!

 ……いや、ブレまくりでなんなんだけど……。

 気持ちを落ち着かせ、ロックさんのあとに続いた。

 ロックさんの知り合いと言う薬問屋は路地裏にあるお店で、大手って感じではなかった。

「ここは店と言うより倉庫に近いところです。国中から集められた材料が一旦ここに集められて、各店の者がここに買いにきます」

 中に入ると、確かに倉庫のような造りで、棚に箱が積まれていた。

「魔法がかけられているんですね」

 建物全体と棚に結界が張られている。かなり高度なものだわ。専門家がやっているのかしら?

「主を呼んで参ります。お嬢様、あとをお願いします」

「わかりました。シャルロット様。ここでお待ちしましょう」

 つまり、ここから動くなってことね。了解です。

 先ほどのことがあるので大人しく待っていると、身なりのよい男性を連れて戻ってきた。

「シャルロット様。この問屋の主でハリドと申します」

「ハリドです。どうぞお見知り置きを」

「ザンバドリ侯爵家で侍女をしております、シャルロット・マルディックです。今回は無理を聞いてくださりありがとうございます」

 お辞儀をして感謝を表した。

「いえいえ。ザンバドリ侯爵家に仕える侍女様にご贔屓していただけるこちらがありがとうございますですよ」

「そう言っていただけると助かりますわ」

 あちらも商売。ザンバドリ侯爵家の関係者がお客になってくれるなら嬉しいでしょうけど、あの短時間でわたしのことを聞いたのかしら? 侍女としては扱いが丁寧よね?

「さっそくですが、この材料を見せていただけますか?」

 用意していた材料書をハリドさんに渡した。

「失礼します」

 材料書を受け取り、書かれているものを読むに連れて表情が少しだけ固くなった。

「難しいでしょうか?」

 あまり使われるものではない。なくても無理はないでしょうよ。

「あ、いえ、薬師でも知る者が少ないものばかりだったもので、少し驚いてしまいました」

 知る者も少ないのにハリドさんは知っている。さすが問屋の主ってことかしらね。

「シャルロット様がお使いになるので?」

「はい。わたしの髪は特殊で、他のシャ──髪薬だとパサつくんです」

 右手で自分の髪を梳いてみせた。

「確かにシャルロット様の髪色は珍しいですね」

「ええ。お陰で自作しないといけないないのです」

「……シャルロット様が自ら作るのですか?」

「はい。大抵のものは自分で作りますよ」

 さすがに素材を一から作ることはないけど、誰かに頼むってことは滅多にないわね。

「それはまた、器用ですな」

「そうですね。自分でも器用だと思いますわ」

 きっとおばあ様に似たのね。お母様は不器用だったから。

「すぐにお持ちしますので、しばらくお待ちください」

 控えている方々に視線を飛ばし、材料名を言って集めさせた。

「なんだか総動員させて申し訳ないわね」

 さらに人が増えて十三人になったわよ。

「お気になさらず。それどころか名誉なことだと喜んでいますよ」

 と、ロックさんが言うけど、わたしには必死に集めているように見えるわ。

 けど、身分社会では仕方がないこと。そうなのねと、笑って流すしかない。面倒なものよね……。

 皆さんの働きにより、材料が揃えられた。

 その中から良質なものを選び出し、手提げ鞄へと入れていく。

「ありがとうございます。おいくらでしょうか?」

「今回はお近づきを得られましたので無料にさせてください。次回、ご用意がありましたらマリッタお嬢様を通していただけると助かります」

「お代もマリッタに渡せばよろしいので?」

「はい。マリッタお嬢様にお渡しくださいませ」

 そう言う仕組みならそうするけど、下女の立場でお金の渡しとか許されるものなの? と、マリッタを見た。

「侍女長様より許しは得ております」

 根回しは完璧、ってわけね。さすが侍女長様だわ。

「わかりました。次回からマリッタを通させていただきますね」

「はい。これからもロゼラオ問屋をよろしくお願いいたします」

 なぜか従業員総出で見送られ、その日の買い物は終了とさせたわ。