「──ふわっ!?」

 なにか追いかけられる夢を見て飛び起きてしまった。

「……あ、昨日、そのまま眠っちゃったんだわ……」

 わたしったらいくら疲れてたとは言え、体を洗わないどころか着替えることもしないなんて。たるんでるのもほどがあるわね……。

「六時か。休みなのにいつもの時間に起きちゃうのね」

 まあ、城にいた頃からこの時間に起きるんだけどね。

 ぐっすり眠れたから疲れは取れたけど、そのまた眠っちゃったから体が気持ち悪いわ。

 服を脱ぎ、お湯玉を作って飛び込んだ。

 お湯を回転させて自動洗い。衣服になった気分だけど、これはこれで気持ちがいいのよね。

 面倒なので手足や顔をお湯玉に入れ、お湯の回転を強めて全身を洗った。

 三分くらい潜り、回転を止めてお湯玉から出た。

「あ、バスタオル出すの忘れてたわ」

 床がびちょびちょになっちゃった。今度、バスマット買わないとね。

 掃除はあとにするとして、バスタオルを出して体に巻き、お湯玉を分解して髪を洗った。

 いつもなら十分くらいで終わらすけど、今日は休み。ゆっくりできる。夜に入るくらいに時間をかけて綺麗に洗った。

 さっぱりとなり、お湯に下着を放り込む。侍女服は下女が洗うので、さっと部屋を出て専用の箱に入れました。ふぅ~。

 鏡台の前に座り、ゆっくりと髪を乾かし、優しく髪をブラシで梳く。

 鼻歌混じりにブラシを動かしていると、部屋の戸が叩かれた。

「はい、どうぞ」

 今は動けないので入ってもらう。

「失礼し──あ、すみません!」

「大丈夫よ。なにか用かしら?」

 入ってきたのは若い下女だった。

「じ、侍女長様から伝言です。朝食が済んだらわたしのところにきてくださいとのことです」

 侍女長様? なにかしら?

「わかりましたと侍女長様に伝えてください」

「は、はい。失礼します」

 逃げるように出ていってしまった。なにか不味かったかしら?

 まあ、いいやと、身嗜みを整え、私服に着替えて奥食堂へと向かった。

 遅い時間なのであまり人はおらず、今日休みの侍女がゆっくりと朝食を摂っていた。

「おはようございます」

「おはようございます、シャルロット様」

 と言うかわたし、未だに侍女の名前をほとんど知らないのだけれど。おば様、名簿のこと完全に忘れているよね。完全に忘れていたわたしが言うのもなんだなけど。

 一緒の席について朝食をいただき、一旦部屋に戻ってから新たな侍女服に着替えて館へと向かった。

 連絡下女にわたしがきたことを告げてもらいい、しばらくして返事を持って下女がきた。

 これにも慣れたわよね。人を介しての連絡ってのにも。

 下女の案内で侍女長様がいるところへと向かった──ら、おば様の寝室だった。うん?

「入りなさい」

 下女が扉を叩くと、中から侍女長様の声がして、わたしだけ中へと入った。

「おはようございます」

 中に入って挨拶する。休みとは言えわたしは侍女。侍女として接した。

「おはよう。休みなのに呼びつけてごめんなさいね」

「いえ。ゆっくりしておりました」

「メアリ」

「はい。シャルロット。これを」

 と、綺麗な袋を渡された。

 中は金属のような感触と重さがある。お金かしら?

「あなたの給金よ」

 給金? あ、働いたらお金をもらえるんだったわね! 

 必要なものは異次元屋で買っていたし、ここにきてから仕事ばかり。お金なんて必要ともしなかった。当たり前なことを忘れてもしょうがないわ。

「ありがとうございます」

「これから出かけるの?」

「はい。王都も見てみたいので」

 何度かきたことはあるけど、馬車に乗って通過した感じだ。自分の足で歩いたことはない。せっかく王都にきたのだから土地勘は持っておきましょう。

「それなら下女を一人つけていきなさい。あなた一人だとどんな厄介事に見舞われるかわからないからね」

 わたし、信用されてません。

「メアリ。誰か街に詳しい下女をつけてちょうだい」

「はい。すぐに用意します」

 侍女長様に連れられて部屋を出て、部屋で待っているように告げられた。

 しょうがないと諦め、部屋に戻り私服に着替える。

 袋を開けて給金を確めると、ルビ銀貨が二十五枚入っていた。

「どのくらいになるのかしら?」

 昔、使ったことはあったけど、あの頃は大雑把すぎて銀貨で果物一つ買ってた。なんの経験にもなってないわ。

「まあ、使って覚えたらいっか」

 そのためにも街に出るんだからね。

 銀貨をスカートのポケットと手提げ鞄に分けていれた。

「シャルロット様。失礼します」

 戸が叩かれた、前に聞いた声がした。

「はい。どうぞ」

 入ってきたのは十四、五歳の少女が入ってきた。

「マリッタです。シャルロット様のお供を命じられました」

「そう。よろしくお願いしますね」

 マリッタを知るために寝台へと座らせる。

「マリッタは、王都出身なの?」

「はい。ミリエイラ商会の娘です」

 確かに街に詳しそうな者を選んだわね。

「薬の材料とか扱っている場所は知っているかしら?」

「はい。マリル通りとサナッタ地区が有名です」

 おば様や侍女長様なら下女たろうと優秀な者を採用する、とわかっていても下女のことまで把握しているとは凄いこと。下女の名簿ももらわないとね。

「ここからだとどちらが近いかしら?」

「サナッタ地区です。馬車だとそう時間はかかりません」

 あ、移動は馬車なんだ。わたし、歩きでいこうとしてたわ。

「馬車を出してくれるの?」

「はい。侍女様用の馬車が用意されております」

 そんなのまであるんだ。厩舎が大きいのはそのためだったのね。

 歩いていけそうにないので馬車を用意してもらい、それで館を出発した。