侯爵家にきて早一月。わたしは毎日パソコンに向き合ってます。
「奥様。休みが欲しいです!」
と言うか、休みってありましたよね? 最初のときに聞いた記憶があります。今の精神状態では確信を持てないけど。
「あ、そう言えば休みを与えていなかったわね」
つまり、忘れていたってことですね。酷い!
「あはは、ごめんなさいね。まったく疲れを見せないからつい頼っちゃっていたわ」
本当に酷い。わたしも疲れる生き物なんですからね!
「そうね。休みは必要ね。では明日から三日、休みをあげるわ。それでどう?」
「はい、ありがとうございます!」
「引き継ぎと指示は出しておいてね。ロブの資料整理もあるから」
一月もやってるのにおば様の仕事が終わってないのに、おじ様のまでって、一年先までパソコンに向かわなくちゃならないの?
「……人を増やしてください……」
「ロブと相談して進めているけど、まだまだ先になるわ」
わたしの侍女仕事、パソコンを打つことで終わらないよね?
「まあ、もうしばらくは我慢してちょうだい。ロブのところにもタイプライターを渡したから」
あら。買い足したのね。ラディアとシューリの働きを見て決断したのかしらね?
「職人にも渡したのですか?」
「領地の職人を集めて仕組みを理解させてるわ。ただ、あの精密さでは十数年はかかるみたいね」
十数年か。まあ、そのくらいはかかるか。あちらは機械で大量生産して造ったもの。手工業では時間をかけるしかないでしょうよ。
「失礼します。シャーリー様。タイプライターの動きが鈍くなってきました」
隣の部屋からラディアがやってきた。
もうか。酷使しすぎね。
「奥様。席を外します」
「ええ、わかったわ」
隣の部屋に向かうと、タイプライターで打った書類を纏める侍女が忙しく働いている。こちらも休みを与えないとダメな感じね……。
おば様、仕事となると容赦がないのはわかっていたけど、仕事を振る容赦がない。もっと手加減しないと倒れる者も出てくるわよ。
「ラディアは、タイプライターの申し子ね」
異次元屋から買ったタイプライターは中古品であり、長い間眠っていたもの。そのまま使ったらすぐに壊れてしまう。なので、保護強化膜を纏わせているのだけれど、動かす摩擦で保護強化膜も消えてしまう。
最初の頃は四日は持っていたのだけれど、ラディアの熟練度が増すごとに保護強化膜を張る間隔も短くなっていってるわ。
「自分にこんな才能があるとは思いませんでした」
でしょうね。タイプライターを打つ未来が見えたら逆に怖いわ。
薄くなった保護強化膜を一旦消し、新たな保護強化膜を纏わせた。
「才能があっても精神力や体力は限界があるのだから無理してはダメよ。疲労は蓄積するのだから」
やはり休ませる必要があるわ。疲労が溜まれば作業の効率が落ちるからね。
執務室に戻り、おば様の前に立つ。
「奥様。明日は侍女を休みにしてください。いえ、夕方から休みにすべきです」
新参が主に意見するなど烏滸がましいことでしょうが、これはおば様や侍女長様に察しろと言ってもダメだ。二人は周りが自分に合わせろと言う性格だからね。
「え、な、なに、いったい?」
「侍女を酷使しすぎです。適度な休憩と休日、あと、お風呂を開放してください」
侍女なら就寝前に体を拭くことをしているでしょうが、連日の仕事で怠っている侍女がちらほらと見える。侍女が汗臭いなどあり得ないわ。
「あ、そ、そうね。メアリ、調整をしてちょうだい」
わたしの迫力に圧されてか、意見を通してくれた。
「畏まりました。シャルロット。全員を休ませることはできません。交代にしてください」
確かに全員を休日にはできないわね。書類仕事に回されたせいで館の仕事に負担がいっているみたいだからね。
「では、三組に分けます。わたし、ラディア、シューリにして、五人ずつつけます。それなら問題ないかと思います」
「わかりました。あなたが組分けして仕事の配分を決めなさい」
ん? あれ? わたしの仕事増えてない?
「急な提案をするからです。提案するならば根回しをしなさい」
うぐっ。侍女長様の注意に言葉を詰まらせた。
「い、以後、気をつけます」
「変なほうに解釈しないで、なにかあればメアリに相談しなさい」
おば様からも注意を受けてしまった。
「肝に命じます」
確かにこれは失敗だったわ。もっと考えてから行動しないと。
でもまあ、休みをもぎ取れたのだからやるしかないわ。これからも休みをもらうためには、ね。
すぐに三組体制を考え、仕事配分を決める。
紙に移して侍女長様へ出す。どうでしょうか?
「休日、三倍に増えてますが?」
「三組が休むのですから三倍に増えるのは当然です」
そこは譲れない聖域。わたしは一歩も退きませんから。
「……わかりました。調整します……」
おば様と侍女長様の許可は得た。なので、侍女たちに報告し、仕事の配分を教える。
夕方までに終わることなく夜中までかかってしまい、お湯玉に入る気力もなくベッドに倒れてしまい、そのまま深い眠りへと落ちていった。
「奥様。休みが欲しいです!」
と言うか、休みってありましたよね? 最初のときに聞いた記憶があります。今の精神状態では確信を持てないけど。
「あ、そう言えば休みを与えていなかったわね」
つまり、忘れていたってことですね。酷い!
「あはは、ごめんなさいね。まったく疲れを見せないからつい頼っちゃっていたわ」
本当に酷い。わたしも疲れる生き物なんですからね!
「そうね。休みは必要ね。では明日から三日、休みをあげるわ。それでどう?」
「はい、ありがとうございます!」
「引き継ぎと指示は出しておいてね。ロブの資料整理もあるから」
一月もやってるのにおば様の仕事が終わってないのに、おじ様のまでって、一年先までパソコンに向かわなくちゃならないの?
「……人を増やしてください……」
「ロブと相談して進めているけど、まだまだ先になるわ」
わたしの侍女仕事、パソコンを打つことで終わらないよね?
「まあ、もうしばらくは我慢してちょうだい。ロブのところにもタイプライターを渡したから」
あら。買い足したのね。ラディアとシューリの働きを見て決断したのかしらね?
「職人にも渡したのですか?」
「領地の職人を集めて仕組みを理解させてるわ。ただ、あの精密さでは十数年はかかるみたいね」
十数年か。まあ、そのくらいはかかるか。あちらは機械で大量生産して造ったもの。手工業では時間をかけるしかないでしょうよ。
「失礼します。シャーリー様。タイプライターの動きが鈍くなってきました」
隣の部屋からラディアがやってきた。
もうか。酷使しすぎね。
「奥様。席を外します」
「ええ、わかったわ」
隣の部屋に向かうと、タイプライターで打った書類を纏める侍女が忙しく働いている。こちらも休みを与えないとダメな感じね……。
おば様、仕事となると容赦がないのはわかっていたけど、仕事を振る容赦がない。もっと手加減しないと倒れる者も出てくるわよ。
「ラディアは、タイプライターの申し子ね」
異次元屋から買ったタイプライターは中古品であり、長い間眠っていたもの。そのまま使ったらすぐに壊れてしまう。なので、保護強化膜を纏わせているのだけれど、動かす摩擦で保護強化膜も消えてしまう。
最初の頃は四日は持っていたのだけれど、ラディアの熟練度が増すごとに保護強化膜を張る間隔も短くなっていってるわ。
「自分にこんな才能があるとは思いませんでした」
でしょうね。タイプライターを打つ未来が見えたら逆に怖いわ。
薄くなった保護強化膜を一旦消し、新たな保護強化膜を纏わせた。
「才能があっても精神力や体力は限界があるのだから無理してはダメよ。疲労は蓄積するのだから」
やはり休ませる必要があるわ。疲労が溜まれば作業の効率が落ちるからね。
執務室に戻り、おば様の前に立つ。
「奥様。明日は侍女を休みにしてください。いえ、夕方から休みにすべきです」
新参が主に意見するなど烏滸がましいことでしょうが、これはおば様や侍女長様に察しろと言ってもダメだ。二人は周りが自分に合わせろと言う性格だからね。
「え、な、なに、いったい?」
「侍女を酷使しすぎです。適度な休憩と休日、あと、お風呂を開放してください」
侍女なら就寝前に体を拭くことをしているでしょうが、連日の仕事で怠っている侍女がちらほらと見える。侍女が汗臭いなどあり得ないわ。
「あ、そ、そうね。メアリ、調整をしてちょうだい」
わたしの迫力に圧されてか、意見を通してくれた。
「畏まりました。シャルロット。全員を休ませることはできません。交代にしてください」
確かに全員を休日にはできないわね。書類仕事に回されたせいで館の仕事に負担がいっているみたいだからね。
「では、三組に分けます。わたし、ラディア、シューリにして、五人ずつつけます。それなら問題ないかと思います」
「わかりました。あなたが組分けして仕事の配分を決めなさい」
ん? あれ? わたしの仕事増えてない?
「急な提案をするからです。提案するならば根回しをしなさい」
うぐっ。侍女長様の注意に言葉を詰まらせた。
「い、以後、気をつけます」
「変なほうに解釈しないで、なにかあればメアリに相談しなさい」
おば様からも注意を受けてしまった。
「肝に命じます」
確かにこれは失敗だったわ。もっと考えてから行動しないと。
でもまあ、休みをもぎ取れたのだからやるしかないわ。これからも休みをもらうためには、ね。
すぐに三組体制を考え、仕事配分を決める。
紙に移して侍女長様へ出す。どうでしょうか?
「休日、三倍に増えてますが?」
「三組が休むのですから三倍に増えるのは当然です」
そこは譲れない聖域。わたしは一歩も退きませんから。
「……わかりました。調整します……」
おば様と侍女長様の許可は得た。なので、侍女たちに報告し、仕事の配分を教える。
夕方までに終わることなく夜中までかかってしまい、お湯玉に入る気力もなくベッドに倒れてしまい、そのまま深い眠りへと落ちていった。


