結果から言うと、水晶はなかった。

 まあ、埋まっていたら見つけられないけど、ばら撒かれていたところをみると、埋めてはダメなことがあるのでしょう。

 もちろん、それが目眩ましだと言うこともある。そう考えて邪魔にならないところ魔法で掘ってみたけど、それらしいものはなかった。

 なら、回復魔法を、と思って待ったをかける。土の入れ換えをしなくちゃならないんだったわ。

 わたしの力じゃこれまでねと、侍女長様に報告に向かった。

「……そうですか。では、今日は仕事を終わらせなさい。疲れたでしょう」

 疲れはしたけど、まだ陽は高い。まだ休むには早いのでは?

「よろしいのでしょうか? まだやることがあれば致しますが?」

「それではお風呂の掃除をお願いします。下女が毎日やっているのですが、どうしても落ちない汚れがあるのです」

「畏まりました。そのあと、奥様は入りますでしょうか?」

「尋ねて連絡します」

 と言うことで、一旦部屋へと戻り、水着ビキニを持ってお風呂へと向かった。

 お風呂には掃除をする下女が四人、揃っていた。

 ……侍女長様の報告の速さに驚きものだけど、それに対応できる下女の有能さにも驚きよね……。

「昨日はありがとうございました。皆様の働きに助けられました」

 四人とも昨日の入浴時にいた記憶はあり、侍女たちを補佐していた、のを知っていたとは思ってなかったのか、四人とも驚いた顔になった。

「わたしたちは仕事をこなしたまでですので、礼は不要でございます」

 侍女と下女の間には身分の差がある。

 侍女は貴族の子女から選ばれ、下女は庶民から選ばれる。

 まあ、侯爵家の下女ともなれは選ばれた存在だ。大商家とか役人の娘とかから選ばれることでしょう。

 ましてやおば様や侍女長様が選ぶのだから優秀な者が働いていることでしょうよ。

「ふふ。では、この場だけに止めておいてください。まだ侍女としての心構えや常識が身についてませんので」

 下女まではわたしの身元は伝わってないでしょうが、侍女長様自らなにかお達しはしているはずだ。四人の緊張具合を見れば、ね。

「知ってはいるでしょうけど、ご挨拶はしておきますね。わたしは、シャルロット・マルディックと申します」

 目上から目下への挨拶がどんなものだったか思い出せなかったので、自然に、軽くお辞儀した。

「ミラリオと申します」

「ナバリラと申します」

「タリミーと申します」

「サナミニと申します」

 流れるように名を自己紹介をする四人。本当に優秀な者ばかり集めているのね~。

「では、お風呂を掃除をしますが、四人は魔法を使えますか?」

 と尋ねたら誰も使えないようだ。下女は魔力の有無を問わないで雇い入れているのね。

「では、四人は脱衣場のものを濡れない場所に出してください。わたしは、浴槽や天井の汚れを取りますから、中には入ってこないようお願いしますね」

 本当は四人もいらないのだが、下女を使うのも侍女の仕事らしいので、脱衣場のほうを任せた。

 水着ビキニに着替え、浴槽に残っている水を魔法で集め、ギュッと圧縮する。

 圧縮した水の一部を緩め、噴射する水を調整して天井や壁の汚れを洗い流す──と言うよりは剥ぎ落とすって感じで汚れを落としていった。

「長いこと使っているのね」

 おばあ様からおじ様とおば様が結婚したときに新しくしたとかなんとか聞いた記憶がある。

 そう考えると十八年か。毎日洗っているでしょうけど、お風呂は湿気が多いところ。少しずつこびりついていって、落とせなくなるものだ。

 その汚れを水の勢い──ジェット水を使うとよく落ちるのだ。

「こうも落ちると気持ちいいわね」

 目に見えて綺麗になる掃除はやっていて気持ちよくなる上に、満足感も絶頂になるわ。

 鼻歌を歌いながら隅々まで汚れを落とした。

「うん。完璧!」

 またやるのが楽しみだわ。

「次は浴槽ね」

 水はまだ残っているけど、詮を抜いて空にした。

「タリミー。サナミニ。床をブラシがけしてください」

 浴槽から水がなくなるまで二人に床に落ちた汚れを流してもらう。

「畏まりました」

 必要はないでしょうけど、配下の仕事を把握しておくのも上の仕事。とか聞いたことがあるので、脱衣場に出て二人の仕事を確認する。

「タオルは新品なのね?」

 異次元屋のものではなく、質はあまりよくないけど、使った形跡はない。一回しか使わないってことなのかしら?

「はい。タオルは一回しか使いません」

「使ったものは捨てるの?」

 まあ、おば様がそんなもったいないことはしないでしょうけど。

「使ったものは侍女に下賜され、徐々に下へと流れていきます」

 へ~。そんな流れとなってたんだ。確かに侍女も綺麗にしなくちゃならないし、下賜する形が自然にいき渡るか。自前で揃えるのは大変でしょうしね。

 わたしの基準では質が悪くても、この世界では高品質だ。買うとしたら結構高額になるでしょう。侍女のお給料がいくらかはわからないけど、下女のお給料では厳しいでしょうよ。

「奥様もこれを使うのですか?」

「はい。ここにあるものは奥様や旦那様が使用します」

「タオルの購入は決まっているの?」

「はい。メイヤード商会から一括で購入しております。なにかありましたでしょうか?」

「あ、いえ。物の流れを知っておこうと思ったまです。深い意味はありませんよ」

 侯爵家の館ともなれば購入数も多いはず。そのすべてを把握するのは不可能だ。どこかで危険なものが忍び込まれてもわからないでしょうよ。

「このタオル、ちょっと解れているわね。交換してください」

「申し訳ありません。見落としてしまいました」

「いいのよ。わたしが細かいだけだから」

 メイヤード商会の名前を頭に刻みつけ、浴槽の掃除に取りかかった。