異次元屋とは時間の流れが違うので、おば様の霊体はすぐに戻ってきた。

 けど、その表情は何年もいっていたかのようにやつれている。人って霊体の疲れも肉体に影響を及ぼすのね。霊体回復の魔法がないか今度リューケンさんに尋ねてみようっと。

「……疲れたわ……」

 侍女長様がすぐにお酒を出す。あそこまでいくと未来視ができるんじゃないかと思うわ……。

 実際はおば様の行動や考えを理解しているのでしょうが、極めたら未来視と変わらないわね。

「労う言葉も見つかりません」

 侍女としての立場であるわたしでも疲労感が凄まじいのに、被害者(としか表現できないわ)の立場ならその疲労は推し測ることもできないわ。

「久しぶりに胃が痛いわ」

 胃の辺りを擦るおば様。責任感があると長生きできなさそうね。

「死者の石はすべて売却したわ」

「……一つ残らず、ですか?」

「あんな怖いもの一つたりとも残したくないわよ。もしかして、不味かったかしら?」

 急に冷静になるおば様は、自分のしたことに不安になったようだ。

「いえ、不味いとは思いませんが、証拠を残しておいたほうはよかったとは思います」

 なんなのかわからないものを残しておかないほうがいいとは思う。なにが仕掛けられてるかわかったもんじゃないしね。けど、だからと言ってすべてを手放してしまうのも違うと思う。

 魔術結社との関係は良好でしょうが、情報を共有しているわけじゃない。世界レベルに合わせて情報を統制してるはずだ。つまり、わたしたちは魔術結社から見れば下の立場だと言うこと。情報をくださいと言っても簡単にはくれないでしょうね。

「……クッ。不味ったわね……」

 侯爵夫人とは思えない悪態をつくおば様。さすがおばあ様と交流があった人よね。おば様が手玉に取られたわ。

 そんなおば様に、わたしは小箱を卓に置いた。

「万が一のために少し残しておきました」

 フフと、驚くおば様に笑ってみせた。

「……あなたは……」

 手癖が悪いとは言わないでくださいね。主人の間違いを正すのも配下の役目ですしね。

「このことを知っているのはわたしと奥様、そして、侍女長様だけです」

 その秘密をどうするかはおば様が決めること。わたしたちはタダ、口を閉じるだけである。

「ハァ~。あなたも悪いことを考えるようになってしまったのね……」

 悪いことって、まあ、悪いことか。主に黙ってやったんだから。

 わたしはまだ未熟な侍女。身を挺して、なんてまだできないわ。

「簡易な封印はしているようね」

「この世界に、聖なる魔法はありませんが、死人からして光系、闇系、回復系は効果があるはずです」

 一つ、いいですかと目で問うと、理解したおば様は頷いた。

 手に回復系魔法を纏わせながら死者の石をつかむと、煙を吹き出した。

「大丈夫だとは思いますが、安全のために吸わないでくださいね」

 たぶん、回復煙──傷を修復するときに出る血の水蒸気だとは思うけど、未知なものは吸わないほうがいいでしょうよ。

 ハンカチを出して口と鼻を覆い、おば様と侍女長様もそれに倣った。

 完全に消えたら窓と戸を開けて換気をする。

「……回復魔法が効果あり、ですね。となれば死人も回復魔法で排除できそうですね」

 まだ二十個近くある。対応策が練れるくらいには充分な量でしょう。

「そうね。もし、他の敷地にもあったら国が動くでしょうしね」

 あ、そうか。ここだけに死者の石をばら蒔くはずがないか。他にもと考えるのは当然よね。

 ……タダ、ばら蒔けるほどの量になると秘密結社との繋がりは太く、計画が壮大ってことになるけどね……。

「こんなものを持っていたくないけど、収納魔法で仕舞っておくしかないわね」

 魔法陣を描き、箱を異次元に仕舞った。

「シャーリー。あなたのことだから残りはないでしょうが、念のため、もう一度探してみてちょうだい」

「畏まりました。動きやすい服に着替えて隅々まで探してみます」

 一応、侍女長様を見ると、やりなさいとばかりに小さく頷いた。

 二人に一礼して部屋を出て自分の部屋へと向かった。

「……うん。確かにわたしは悪い娘よね……」

 卓の上に置いていた死者の石をハンカチで包み、スカートの収納ポケットへと仕舞った。

 おば様たちには申し訳ないけど、わたしも死者の石には興味がある。密かに調べさせていただきますわ。オホホ。

 動きやすい服へと着替え、残りがあるかを探しに庭へと向かった。