敷地内にあった不審な石を片付けるだけなのに、なにやら大事になってしまった。

 水晶を封印してたらおじ様も城から帰ってきて、主要な者を集めて話し合いが始まった。

 わたしは侍女としての立場から壁側で決まるのを待っている。待つのも仕事、だからね。

 ただまあ、なにもしないで待つのも時間がもったいないので、精神統一して魔力を高めてスマホに流し込んだ。

 あーだこーだと話し合いは終わらない。とうとうお昼になり、涼しい顔で控えた侍女長様が部屋を出て、すぐに戻ってきた。

 ……昼食でも頼んだのかしら……?

 しばらくして手押し車が二台、入ってきた。随分と早いこと。こうなることを読んで用意してたのかな?

 侍女長様がサンドイッチをおじ様たちに配り、自分は食べないでまた涼しい顔で控えている。鍛え方が違うってやつね。あそこまでの域に到達するのに何年かかるのかしらね?

「シャーリー」

 と呼ばれたのでおじ様の元へいく。

「もう一度尋ねるが、これは危険なのだな?」

「どう危険かは説明できませんが、捨てたほうがよいものだとは進言します」

 小さい頃、霧の森を駆け回り、食べれるものを感覚で探していたせいか、危険なものはなんとなくわかるようになってしまったのよね。恥ずかしい過去なので内緒にしてるけど。

「お前にもわからないものか」

「お役に立てず申し訳ありません」

 まだまだ知らないことがある。休暇が出たら王都の図書館でも通いましょうっと。

「いや、構わない。それより、これは捨ててもよいものなのか?」

「人のいないとこ。一つ一つ離して捨てれば問題ないかと。自然の中にも危険な石や植物はありますから」

 勘でしかないけど、この水晶は人為的なのものだと思う。どれも形が同じだし。確実に加工されてるわ。

「それと、一度庭の土を入れ換えたほうがよろしいかと思います。念のために」

「まだ危険なものがあるのか?」

「いえ、念のためです」

「……シャーリー。なにかあるなら言いなさい」

 やはりおば様には隠し通せないか。

「また仕掛けてきたら捕まえようかと」

 侯爵の館の庭の土を入れ換えようとしたら周囲の知ることとなる。職人が何人も入ることになればなにか仕掛けてくるでしょうし、仕掛けてこないのならそれでよし。平和でなにより、だわ。

「はぁ~。あなたは根本的なところは昔のままよね。ロブ。黒衣にグラワン商会を探らせましょう。なにか接触があるかもしれないわ」

「ああ、わかっている。シャーリー。見つけても手は出すな。すぐに黒衣に伝えるんだ」

 つまり、侍女に徹しろってことか。

「畏まりました」

 まあ、黒衣のお仕事を奪うのも申し訳ないしね、そのときはお任せしましょう。

「モルドル。お前にもわからないのか?」

 わたしは面識ないご老人だけど、魔力からしてザンバドリ侯爵家の魔導師でしょう。

 魔法師や魔導師の違いがよくわからないけど、たぶん、公に雇われているのが魔導師なんだと思うわ。

「申し訳ありません。わたしにもわかりません。ですが、禍々しいものだとはわかります。おそらく呪い石の一種でしょう」

 魔導師でもわからないのか。まあ、呪術具は奥が深いからね。専門家でもないとわからないでしょうよ。

「わたしとしてはよくわかったことが不思議でたまりません。よくよく見ないとわからないものです、これは」

「それはシャーリーだからとしか言い様がないわね。この娘の勘と目は特別だから」

 特別になった理由を知るだけに言葉を濁すおば様。他にも知ってるんだから隠す必要もないのに。

「弟子に誘うのは止めておけよ。苦労しかしないぞ」

 わ、わたし、おじ様やおば様に苦労かけてます? 昔ならともかく今は常識と自重を覚えましたからね。

「シャーリー。この石を封印できるかしら?」

「予算をいただけるなら」

 確か異次元屋で封印の護符が安く売っていたはずだわ。

「あそこで買うの?」

「はい。封印の護符を使えば周りに被害は出ないかと思います」

 衝撃に弱いけど、異空間に閉じ込めることはできる。あとは魔法で封じればしばらくは問題ないでしょう。

「わかったわ。昼食を済ませたら用意してちょうだい」

「畏まりました」

 とりあえず水晶が入った桶はわたしが預かることになったわ。わたしが持っているのが安全だからね。

 収納魔法で異空間に放り込み、その場は一旦解散。わたしは、昼食を摂るために奥食堂へと向かった。