「あ、わたし、ガルズ・バンドゥーリと申します」
と、男性が自己紹介をしてくれた。
「わたしは、マルディック男爵家長女、シャルロットと申します。気軽にシャーリーとお呼びください」
右手でスカートの裾をつかみ、軽くしゃがんだ。貴族令嬢の軽い挨拶、らしいです。
「マルディック男爵ですか? 失礼ですが、サンビレス王国のご出身で?」
男爵なんて結構いるからね、名だけではわからないか。
「いえ。生まれは別のところですが、カルビラス王国の者です。ザンバドリ侯爵家の使いでサンビレス王国に参りました」
と言う設定にしました。身分がある世界では身分を示したほうが事がすんなり運ぶからね。あと、侯爵家からの使いと言えば深く追及されないでしょうからね。
「ザンバドリ侯爵家ですか!?」
「正確に言えば侯爵夫人に仕えております」
おじ様よりおば様のほうがもっともらしいでしょう。政治的なことに巻き込まれても面倒ですし。
「そ、そうですか。しかし、女性一人で国外に使いを出すとは、危険ではありませんか?」
「母が魔法師なので、身を守る心得は持ち合わせておりますわ」
にっこり笑ってみせた。
騎士だとボロが出ちゃうからね。魔法師がちょうどいいでしょうよ。
「そうですか……」
まあ、納得でないでしょうが、納得できる材料もない。今は情報収集をしましょう、って顔ね。穏やかに笑ってはいるけどね。
ガルズさんに連れて来られたお店──ライヤード商会は、なかなか立派な造りをしており、よく掃除されている。店の者もよく教育されていて、通された部屋に入ると、お茶とお菓子を出してくれた。
出されたお茶とお菓子をいただいていると、ガルズさんと四十過ぎくらいの男性が入って来た。
「あ、そのままで」
席から立って挨拶しようとしたら制されてしまった。
「お初にお目にかかります。ライヤード商会ギャレー支部を任せられているサナリオと申します。どうかお見知り置きを、シャーリー様」
なにやら仰々しいこと。ただ指輪を売りに来ただけなのに。
「はい。こちらこそお見知り置きを」
軽く一礼する。こう言う場での対応を知らないので。
「ガルズ様から魔法の指輪を売りたいとか」
「はい。恥ずかしいことですが、旅費をなくしてしまいまして、これを売ろうと思いガルズ様にお声をおかけした次第です」
指輪を外し、テーブルの上に置いた。
「拝見しても?」
「はい。遠慮なくお確かめください」
どう確かめるかはわからないけど、結構頑丈にできている。テーブルに打ちつけても傷一つつかないでしょうよ。
サナリオさんは白い手袋を取り出して嵌め、魔法の指輪を手に取る。いや、そんな大したものではありませんよ。
「──なっ!? 聖印?!」
なにか驚くサナリオさん。聖印? なんのこと?
「こ、これはどこで手に入れたものなのですか?」
「どこ? 我が家にあったものですが……」
正確に言うのならば物置にしている部屋。そこの指輪入れに入ってたものの一つだ。
「確か、マルディック男爵家と仰いましたか?」
「ええ。マルディック男爵家ですよ」
記憶の中から名前でも探っているかのような顔をしている。いくら探っても無駄だと思いますよ。貴族名鑑に載ってるだけですから。
「それで、買取っていただけますでしょうか?」
「本当によろしいのですか? 聖印がある魔法の指輪は大変人気があるものです。最低でも金貨百枚で取引されます」
金貨百枚? これが? 水を出すだけの指輪ですよ? なんの冗談よ?
「急いでますのでここで買取っていただけると助かります」
ここからサンビレス王国の王都までどのくらいかかるかわからない。それまでギャレーの町で待ってるなんてできないわ。
「ここでは出せる金額が決まって来ますが、それでもよろしいので?」
「はい。構いません」
おば様のところへいけるだけのお金になれば助かるけど、当分の宿代になればそれで充分だわ。大体のものは異次元屋で揃えられるしね。
「わかりました。少々お待ちください」
指輪を一旦返され、サナリオ様が部屋を出ていった。
「ガルズ様。ありがとうございました。お陰で旅が続けられます」
にっこり笑ってガルズ様にお礼を言う。優しい方に出会えて本当によかったわ。
「いえ。こちらこそありがとうございます。まさか聖印入りの指輪を売っていただけるのですから」
と言うか、ガルズ様は何者なのかしら? サナリオ様の態度から上司っぽいけど。
「聖印入りはそんなに人気のあるものなんですか?」
「聖賢者が作りし聖印の指輪。求める方はたくさんおります」
使っているわたしが言うのもなんだけど、この世には如雨露《じょうろ》と言うものがある。つまり、代用品はあるってこと。そこまで求めるものじゃないと思うけどな~。
まあ、世の中には収集家はいるもの。人様の趣味に口を出すつもりはないわ。こうして買取ってくれるんだからね。
「そうですか。欲しい方に渡るといいですね」
使うにせよ飾るにせよ欲しい方に渡るのがなによりだわ。
「これからすぐにカルビラス王国へ?」
「いえ、明日の朝にでも出発してみます」
もう一日ゆっくりしたい。なによりお風呂に入ってすっきりしたいわ。まあ、お風呂がある宿があるなら、だけどね。
「それならわたしたちとご一緒しませんか? 実は、わたしたちもカルビラス王国へと赴く用がありまして、二日後にギャレーを出発するのですよ。指輪の買取り料としてお代は結構ですので」
それは願ってもないことだけど、見ず知らずの方に甘えていいのだろうか?
「黙っておりましたが、わたし、サンビレス王国の子爵で、大使としてカルビラス王国へと参るのです」
子爵? 大使? それって重要人物ってこと?
「失礼しました! 知らずとは言えご無礼を」
男爵令嬢より上。ましてや今は侍女の身。同席するのも憚れる立場、のはず。よくはわからないけど。
「いえいえ。そう畏まらないでください。まだ大使とはなってないのですから」
と言われて普通に接する人はいないでしょう。世間知らずのわたしでもわかることだわ。
あたふたしてるとガルズ様が戻って来た。助かりました。
「金額が少なく申し訳ありませんが、これで買取らせていただきます」
なにか革袋をテーブルに置かれた。なにか、わたしの両拳くらいあるんですけど。
「は、はい。ありがとうございます」
仮に中身が銅貨だとしても凄い大金なのはわたしにでもわかる。文句など言うはずもないわ。
ずっしりとした革袋を鞄に仕舞った。こんなもの持って歩けないし。
「もし、宿を決めてないのならわたしたちが借りている宿を紹介しますよ」
子爵が泊まるなら冒険者の泊まる宿より充実してるはず。なら、断る理由はありません。二つ返事でお願いしました。
と、男性が自己紹介をしてくれた。
「わたしは、マルディック男爵家長女、シャルロットと申します。気軽にシャーリーとお呼びください」
右手でスカートの裾をつかみ、軽くしゃがんだ。貴族令嬢の軽い挨拶、らしいです。
「マルディック男爵ですか? 失礼ですが、サンビレス王国のご出身で?」
男爵なんて結構いるからね、名だけではわからないか。
「いえ。生まれは別のところですが、カルビラス王国の者です。ザンバドリ侯爵家の使いでサンビレス王国に参りました」
と言う設定にしました。身分がある世界では身分を示したほうが事がすんなり運ぶからね。あと、侯爵家からの使いと言えば深く追及されないでしょうからね。
「ザンバドリ侯爵家ですか!?」
「正確に言えば侯爵夫人に仕えております」
おじ様よりおば様のほうがもっともらしいでしょう。政治的なことに巻き込まれても面倒ですし。
「そ、そうですか。しかし、女性一人で国外に使いを出すとは、危険ではありませんか?」
「母が魔法師なので、身を守る心得は持ち合わせておりますわ」
にっこり笑ってみせた。
騎士だとボロが出ちゃうからね。魔法師がちょうどいいでしょうよ。
「そうですか……」
まあ、納得でないでしょうが、納得できる材料もない。今は情報収集をしましょう、って顔ね。穏やかに笑ってはいるけどね。
ガルズさんに連れて来られたお店──ライヤード商会は、なかなか立派な造りをしており、よく掃除されている。店の者もよく教育されていて、通された部屋に入ると、お茶とお菓子を出してくれた。
出されたお茶とお菓子をいただいていると、ガルズさんと四十過ぎくらいの男性が入って来た。
「あ、そのままで」
席から立って挨拶しようとしたら制されてしまった。
「お初にお目にかかります。ライヤード商会ギャレー支部を任せられているサナリオと申します。どうかお見知り置きを、シャーリー様」
なにやら仰々しいこと。ただ指輪を売りに来ただけなのに。
「はい。こちらこそお見知り置きを」
軽く一礼する。こう言う場での対応を知らないので。
「ガルズ様から魔法の指輪を売りたいとか」
「はい。恥ずかしいことですが、旅費をなくしてしまいまして、これを売ろうと思いガルズ様にお声をおかけした次第です」
指輪を外し、テーブルの上に置いた。
「拝見しても?」
「はい。遠慮なくお確かめください」
どう確かめるかはわからないけど、結構頑丈にできている。テーブルに打ちつけても傷一つつかないでしょうよ。
サナリオさんは白い手袋を取り出して嵌め、魔法の指輪を手に取る。いや、そんな大したものではありませんよ。
「──なっ!? 聖印?!」
なにか驚くサナリオさん。聖印? なんのこと?
「こ、これはどこで手に入れたものなのですか?」
「どこ? 我が家にあったものですが……」
正確に言うのならば物置にしている部屋。そこの指輪入れに入ってたものの一つだ。
「確か、マルディック男爵家と仰いましたか?」
「ええ。マルディック男爵家ですよ」
記憶の中から名前でも探っているかのような顔をしている。いくら探っても無駄だと思いますよ。貴族名鑑に載ってるだけですから。
「それで、買取っていただけますでしょうか?」
「本当によろしいのですか? 聖印がある魔法の指輪は大変人気があるものです。最低でも金貨百枚で取引されます」
金貨百枚? これが? 水を出すだけの指輪ですよ? なんの冗談よ?
「急いでますのでここで買取っていただけると助かります」
ここからサンビレス王国の王都までどのくらいかかるかわからない。それまでギャレーの町で待ってるなんてできないわ。
「ここでは出せる金額が決まって来ますが、それでもよろしいので?」
「はい。構いません」
おば様のところへいけるだけのお金になれば助かるけど、当分の宿代になればそれで充分だわ。大体のものは異次元屋で揃えられるしね。
「わかりました。少々お待ちください」
指輪を一旦返され、サナリオ様が部屋を出ていった。
「ガルズ様。ありがとうございました。お陰で旅が続けられます」
にっこり笑ってガルズ様にお礼を言う。優しい方に出会えて本当によかったわ。
「いえ。こちらこそありがとうございます。まさか聖印入りの指輪を売っていただけるのですから」
と言うか、ガルズ様は何者なのかしら? サナリオ様の態度から上司っぽいけど。
「聖印入りはそんなに人気のあるものなんですか?」
「聖賢者が作りし聖印の指輪。求める方はたくさんおります」
使っているわたしが言うのもなんだけど、この世には如雨露《じょうろ》と言うものがある。つまり、代用品はあるってこと。そこまで求めるものじゃないと思うけどな~。
まあ、世の中には収集家はいるもの。人様の趣味に口を出すつもりはないわ。こうして買取ってくれるんだからね。
「そうですか。欲しい方に渡るといいですね」
使うにせよ飾るにせよ欲しい方に渡るのがなによりだわ。
「これからすぐにカルビラス王国へ?」
「いえ、明日の朝にでも出発してみます」
もう一日ゆっくりしたい。なによりお風呂に入ってすっきりしたいわ。まあ、お風呂がある宿があるなら、だけどね。
「それならわたしたちとご一緒しませんか? 実は、わたしたちもカルビラス王国へと赴く用がありまして、二日後にギャレーを出発するのですよ。指輪の買取り料としてお代は結構ですので」
それは願ってもないことだけど、見ず知らずの方に甘えていいのだろうか?
「黙っておりましたが、わたし、サンビレス王国の子爵で、大使としてカルビラス王国へと参るのです」
子爵? 大使? それって重要人物ってこと?
「失礼しました! 知らずとは言えご無礼を」
男爵令嬢より上。ましてや今は侍女の身。同席するのも憚れる立場、のはず。よくはわからないけど。
「いえいえ。そう畏まらないでください。まだ大使とはなってないのですから」
と言われて普通に接する人はいないでしょう。世間知らずのわたしでもわかることだわ。
あたふたしてるとガルズ様が戻って来た。助かりました。
「金額が少なく申し訳ありませんが、これで買取らせていただきます」
なにか革袋をテーブルに置かれた。なにか、わたしの両拳くらいあるんですけど。
「は、はい。ありがとうございます」
仮に中身が銅貨だとしても凄い大金なのはわたしにでもわかる。文句など言うはずもないわ。
ずっしりとした革袋を鞄に仕舞った。こんなもの持って歩けないし。
「もし、宿を決めてないのならわたしたちが借りている宿を紹介しますよ」
子爵が泊まるなら冒険者の泊まる宿より充実してるはず。なら、断る理由はありません。二つ返事でお願いしました。