呪いは汚れに似ていると思う。
拭けば落ちるものもあれば洗濯しないと落ちないものもある。もちろん、雑巾でサッと拭けたり、洗剤を使わないと落ちないものもある。
まあ、なにを言いたいかと言うと、だ。汚れは落とせるけど、落とし方があるってことだ。
「捨てるのが一番簡単な方法だけど、さすがにこんな大きな絵画を捨てるにはいかないわよね」
きっと著名な画家が描いたのでしょう。値段も高額なはず。捨てましょうと言っても聞き入れられることはまずないでしょうよ。
「効果の割に念入りよね」
角に足の小指をぶつけるくらいなのに、三日三晩じっくり煮込んだかのような手間のかけっぷりだわ。
「呪いの相乗効果でも狙ってるのかしら?」
塵も積もれば、的なことはあるでしょうが、山になるまでどれだけ時間がかかるのよって話だ。もうその根気のほうが恐ろしいわ。
一抱えはある絵画を外し、裏返しにする。
見る人にしか見えない魔法陣が描かれていた。
「繊細よね」
呪いは興味がないからなにがどうなっているかはわからないが、魔力の流れから陣の良し悪しはわかる。これは一流の魔法師か呪術師の作だわ。
なんて観賞している場合ではないか。侍女としての仕事(?)を完遂しないとね。
「見つからないと思って付着式にしたのが失敗ね」
絵画自体が呪いだったら手間がかかったでしょうが、付着しているだけなら簡単。薄い魔力を隙間に入れて剥がすだけ。ってまあ、極限まで魔力を薄くできる者はそうはいないけどね。
「完了っと」
剥がした呪いは強い魔力で形成できないくらい圧縮。呪いが強ければ結晶化もするけど、角に足の小指をぶつけるくらいの呪いでは塵にしかならないわね。
侍女と下女しか知らない隠れ屑箱へと放り込み、次の呪いへと向かった。
館に仕掛けられた呪いは全部で八つ。弱い呪いとは言え、仕掛けられすぎじゃないかしら?
この繊細さからして館に侵入して、ってことはあり得ないから、購入することをわかっていてのことでしょうね。
とは言え、そんなわかりきったことをする相手ではないでしょう。隠蔽に隠蔽を重ねていることでしょう。
仕事は簡単に終わったので、奥も見回ってみることにした。
こちらに仕掛けられていたのだから奥も仕掛けられてるはずだわ。
「……なにもないわね……」
案内されたときはなにも感じなかったから入念に調べたけど、これと言ったものは見つけられなかった。
「あったのは胃腸の弱い人には食べさせてはダメな薬草くらいだわ」
さすがにそれは疑りすぎでしょうが、なにもないってことのほうが逆に怪しいわ。館にはあんな執念と思える仕掛けをしたのに。
見落としたのかと思い、もう一回りする。
「……ないわ……」
なかった。なにもなかった。そんなことあり得る? それともわたしの目を誤魔化せるほどのものなの?
いや、冷静に考えてそれはあり得ない。呪いは強ければ強いほど隠し通せるものではない。その逆でも0にすることはできないものだわ。
「……呪いじゃない……?」
もしかして、館の呪いはそれを誤魔化すための偽り? あり得るかもしれないわね。
なんのため? なにが目的? そうする理由はなに? 考えながら奥をうろうろする。
「シャルロット。なにをしているのです?」
いつの間にか侍女長様が目の前に。いけないいけない。考えに集中しすぎたわ。
「奥になにも仕掛けられてない理由を考えていました」
侍女長様の額に皺ができ、なんとも苦痛な表情をした。
……持病でもあるのかしら……?
「呪いは消したのですか?」
「はい。塵にして屑箱に放り込んでおきました」
「…………」
また額に皺をよせる侍女長様。そんなことしてたら将来皺が深くなりますよ。
「あなたは、奥になにか仕掛けられていると思っているのですか?」
「そこがわからないのです。館には仕掛けておいて奥になにもしないってことはあるでしょうか? 情報を探るなら奥にも仕掛けるはずです。わたしならします」
おじ様やおば様の手足となって働くのが侍女だ。いくら口が固くても侍女同士の情報共有のために話をする必要はある。
館が厳重ならまだ厳重じゃない奥に探りを出すはずだわ。
「侍女に裏切りがいると?」
「洗脳されていればそれもありますが、奥様や侍女長様が気がつかないわけがありません。それはないと断言できます」
それだけの能力があることは知っている。洗脳された者の言動には絶対に気がつくわ。
……たまに嘘を見破る人がいるけど、侍女長様はまさにそれだわ……。
「わかりました。あなたは見つけることに集中しなさい。奥様にはわたしから報告しておきます」
「はい、畏まりました」
よかった。気になって他のことに集中できないからね。
「それと、食事はちゃんと摂りなさい。あなたは一旦集中すると他のことに目を向けられなくなるのですから」
さすが小さい頃からわたしを知る人。わかってらっしゃる。
「はい。気をつけます」
「それと、奥様がケーキを食べたいそうです。厨房には話を通してありますから、休憩がてら作りなさい」
ってことは材料が揃っているってことか。なら、昼食後に作りましょうか。脳に糖分を与えたいしね。
「畏まりました。奥様の好物のチョコレートケーキを作っておきます」
「お願いしますね。一緒に昼食にしましょうか」
侍女長様と奥食堂へと向かった。
拭けば落ちるものもあれば洗濯しないと落ちないものもある。もちろん、雑巾でサッと拭けたり、洗剤を使わないと落ちないものもある。
まあ、なにを言いたいかと言うと、だ。汚れは落とせるけど、落とし方があるってことだ。
「捨てるのが一番簡単な方法だけど、さすがにこんな大きな絵画を捨てるにはいかないわよね」
きっと著名な画家が描いたのでしょう。値段も高額なはず。捨てましょうと言っても聞き入れられることはまずないでしょうよ。
「効果の割に念入りよね」
角に足の小指をぶつけるくらいなのに、三日三晩じっくり煮込んだかのような手間のかけっぷりだわ。
「呪いの相乗効果でも狙ってるのかしら?」
塵も積もれば、的なことはあるでしょうが、山になるまでどれだけ時間がかかるのよって話だ。もうその根気のほうが恐ろしいわ。
一抱えはある絵画を外し、裏返しにする。
見る人にしか見えない魔法陣が描かれていた。
「繊細よね」
呪いは興味がないからなにがどうなっているかはわからないが、魔力の流れから陣の良し悪しはわかる。これは一流の魔法師か呪術師の作だわ。
なんて観賞している場合ではないか。侍女としての仕事(?)を完遂しないとね。
「見つからないと思って付着式にしたのが失敗ね」
絵画自体が呪いだったら手間がかかったでしょうが、付着しているだけなら簡単。薄い魔力を隙間に入れて剥がすだけ。ってまあ、極限まで魔力を薄くできる者はそうはいないけどね。
「完了っと」
剥がした呪いは強い魔力で形成できないくらい圧縮。呪いが強ければ結晶化もするけど、角に足の小指をぶつけるくらいの呪いでは塵にしかならないわね。
侍女と下女しか知らない隠れ屑箱へと放り込み、次の呪いへと向かった。
館に仕掛けられた呪いは全部で八つ。弱い呪いとは言え、仕掛けられすぎじゃないかしら?
この繊細さからして館に侵入して、ってことはあり得ないから、購入することをわかっていてのことでしょうね。
とは言え、そんなわかりきったことをする相手ではないでしょう。隠蔽に隠蔽を重ねていることでしょう。
仕事は簡単に終わったので、奥も見回ってみることにした。
こちらに仕掛けられていたのだから奥も仕掛けられてるはずだわ。
「……なにもないわね……」
案内されたときはなにも感じなかったから入念に調べたけど、これと言ったものは見つけられなかった。
「あったのは胃腸の弱い人には食べさせてはダメな薬草くらいだわ」
さすがにそれは疑りすぎでしょうが、なにもないってことのほうが逆に怪しいわ。館にはあんな執念と思える仕掛けをしたのに。
見落としたのかと思い、もう一回りする。
「……ないわ……」
なかった。なにもなかった。そんなことあり得る? それともわたしの目を誤魔化せるほどのものなの?
いや、冷静に考えてそれはあり得ない。呪いは強ければ強いほど隠し通せるものではない。その逆でも0にすることはできないものだわ。
「……呪いじゃない……?」
もしかして、館の呪いはそれを誤魔化すための偽り? あり得るかもしれないわね。
なんのため? なにが目的? そうする理由はなに? 考えながら奥をうろうろする。
「シャルロット。なにをしているのです?」
いつの間にか侍女長様が目の前に。いけないいけない。考えに集中しすぎたわ。
「奥になにも仕掛けられてない理由を考えていました」
侍女長様の額に皺ができ、なんとも苦痛な表情をした。
……持病でもあるのかしら……?
「呪いは消したのですか?」
「はい。塵にして屑箱に放り込んでおきました」
「…………」
また額に皺をよせる侍女長様。そんなことしてたら将来皺が深くなりますよ。
「あなたは、奥になにか仕掛けられていると思っているのですか?」
「そこがわからないのです。館には仕掛けておいて奥になにもしないってことはあるでしょうか? 情報を探るなら奥にも仕掛けるはずです。わたしならします」
おじ様やおば様の手足となって働くのが侍女だ。いくら口が固くても侍女同士の情報共有のために話をする必要はある。
館が厳重ならまだ厳重じゃない奥に探りを出すはずだわ。
「侍女に裏切りがいると?」
「洗脳されていればそれもありますが、奥様や侍女長様が気がつかないわけがありません。それはないと断言できます」
それだけの能力があることは知っている。洗脳された者の言動には絶対に気がつくわ。
……たまに嘘を見破る人がいるけど、侍女長様はまさにそれだわ……。
「わかりました。あなたは見つけることに集中しなさい。奥様にはわたしから報告しておきます」
「はい、畏まりました」
よかった。気になって他のことに集中できないからね。
「それと、食事はちゃんと摂りなさい。あなたは一旦集中すると他のことに目を向けられなくなるのですから」
さすが小さい頃からわたしを知る人。わかってらっしゃる。
「はい。気をつけます」
「それと、奥様がケーキを食べたいそうです。厨房には話を通してありますから、休憩がてら作りなさい」
ってことは材料が揃っているってことか。なら、昼食後に作りましょうか。脳に糖分を与えたいしね。
「畏まりました。奥様の好物のチョコレートケーキを作っておきます」
「お願いしますね。一緒に昼食にしましょうか」
侍女長様と奥食堂へと向かった。


