朝、いつもより早く起きて念入りに身嗜みを整えた。

 今日が初仕事。がんばらないとね。

 渡された侍女服に着替え、シワがないかを姿見で念入りに確認をする。

「よし! 完璧!」

 時刻は六時。ちょっと、いや、かなり早起きしてしまったわね……。

 侍女長様が迎えに来るので部屋を出るわけにもいかないので、静かに待つしかなかった。

「……働くって大変ね……」

 いや、まだ働いてもないんだけど、待つのも仕事ってことなんでしょう。わたしには苦痛でしかないわ。

「なにか暇潰しを考えないとね」

 なににしようかしらと考えていたらドアが叩かれた。お、来たわね。

 すぐにドアを開けた。

「おはようございます、侍女長様」

 楚々とお辞儀をして挨拶をする。

「え、ええ。おはようございます。準備はできているよね……」

「はい。初日ですからしっかりしませんと」

 初めが肝心とも言う。なら、完璧にしまないね。

「まずは朝食を済ませましょう」

 あれ? いきなり朝食? 朝の仕事ではないの?

 疑問に思ったけど、新米侍女なので素直に従った。

 ザンバドリ侯爵家の館(王都のね)は大きく、そこで働いている者も多い。まあ、正確な人数はわからないけど、軽く百人はいると思う。

 おじ様──旦那様は、爵位や役職から朝晩関係なく仕事が舞い込んで来るため、館は二十四時間体制になっている。

 そのせいか、働く者専用の食堂があり、料理人も二交代で働いているそうよ。

「ここが奥食堂ですか」

 あるのは知っていたけど、ここに来たときはおば様たちと食堂で食べてた。だからここには来たことなかったのよね。

「ええ。利用の仕方を教えます」

 侍女長様のあとに続いて奥食堂の利用法を教えてもらう。

 重ねられた盆を取り、厨房と食堂の区切りとなっている食台に向かい、盆を出すと、野菜の汁物とパンを二つ乗せられた。え、これだけ?

 侍女長様を見ると、そのまま席へと移動した。どうやらこれだけらしい。

「皆さん、朝は少食なのですね」

 わたしは結構がっつり食べる。一日の終わり、異次元屋に魔力を売るからお腹が空くのよね。

「そうでしたね。あなたはよく食べましたね」

「はい。今日をがんばるにはしっかりと朝食はいただきませんと」

 皆さん、よくこれだけの量でがんばれるよね。お腹空かないのかしら?

「足りなければお代わりしなさい。厨房には伝えておきます」

「はい」

 こんな量じゃ全然足りない。この五倍は必要だわ。

 とは言え、皆さんの手前、一回お代わりするだけに止めた。これは、部屋で食べれるようにしたほうがいいかもね。

 朝食を済ませると、広間へとやって来た。

 ……ここも初めてね……。

 なんの広間かわからないけど、殺風景なところね。なにかよくわからない箱も積み重ねられてるし。物置かしら?

「しばらくここで待ってなさい」

 と、よくわからない広間に一人にされた。

 なんなの? と待っていたら侍女たちが入って来た。

 奥食堂にいた人たちじゃないわね。夜担当の人たちかな?

 最後に侍女長様が入って来てドアが閉じられた。

「昨日のことは知っているでしょうが、改めて紹介しておきます。今日から館で働くシャルロット・マルディックよ。いいわね」

 紹介と言うより言い聞かせな感じ。まあ、大体の侍女はわたしの正体を知っている。おそらく、わたしは侍女。侍女として扱えと諭しているのでしょう。

 ……なにかごめんなさいね……。

 ザンバドリ侯爵家で働く侍女はよく教育されていて、皆優秀だ。表情にはまったく出さず、「畏まりました」と合唱した。

「ご挨拶しなさい」

 一歩前に出る。

「今日から皆様とお仕事をさせていただく、シャルロット・マルディックです。皆様の邪魔にならないよう一生懸命働かせていただきます」

 楚々とお辞儀をする。見様見真似だけど、上手くできたかしら?

「では、夜の者は休みなさい」

 一礼して夜担当の侍女さんたちが部屋を出ていった。

 出ていったら奥食堂にいた侍女さんたちが入って来て、同じように侍女長様がわたしのことを言い聞かせ、挨拶をした。

 昼担当も広間を出ていき、侍女長様と二人っきりとなった。

 ……指導が始まるのかな……? 

「シャーリー様」

 と、侍女ではない呼び方をされた。なに?

「皆にああは説明しましたが、シャーリー様の立場を知る者は遠慮し、贔屓するでしょう。ですが、ザンバドリ侯爵家の侍女として粛々と仕事をこなしてくださいませ」

 わたしへの言い聞かせね。

「はい。どんな仕事もザンバドリ侯爵家の侍女として恥じぬよう、完璧にこなしてみせます」

「……不安だわ……」

 え? 今、しっかりと答えたのに!?

「いいえ。なんでもありません。ではまず、館を案内します。よく間取りを覚えてください。いえ、まずいところは見逃しなさい」

「はい、わかりました」

 まあ、ザンバドリ侯爵家の館だものね。秘密の部屋や隠し通路があるのは当たり前。知らないことにしろ、ってことでしょうよ。

 ……昔、探検と称して地下の宝物庫に入ったりしましたしね……。

「はぁ~。不安だわ」

 ため息一つ吐いて侍女長様が部屋を出た。

 全身全霊を賭して侍女の仕事をまっとうさせていただきます!

 侍女長様の背中に向かって誓わせてもらった。