スープがいい感じにできあがりそうな頃、懐かしい魔力がわたしの索敵内に入った。

「シャーリー様。どうかなさいましたか?」

 石窯でピザを焼いていたミニオさんがわたしの手が止まったことに気がついて尋ねてきた。

「カルビラス王国の方が来たようですね。兵士の皆さん。カルビラス王国の方が来ますので迎えてください」

 魔法の光を増やし、こちらに向かって来る一団を迎える用意をした。

 しばらくして土を蹴る音が耳に届き、魔法の光に照らされた一団が見えた。

「姫様!」

 やはりアルジャードか。会うのは何年振りかしらね? 昔、おば様のところにいくとわたしについてたけど、何年か前からおじ様つきとなったはず。王宮詰めだからおば様のところにいっても会えなかったねよね。

 馬から落ちたと思うくらい勢いよく降りて、わたしに右膝をついて服従の礼を取った。

「久しぶりね、アルジャード。でも、今は侍女だから姫様は止めてね」

 わたしは貴族でもなんでもないのになぜか姫様と皆がそう呼ぶのよね。まあ、慣れたから気にはならないけど、侍女としているのだから侍女として扱ってくださいませ。

「はっ。わかりました。では、シャーリー様と呼ばせていただきます」

 侍女に様はないんじゃない? とは思ったけど、ミニオさんたちからも様扱いなんだから今さらね。

「ええ。そうしてちょうだい。そちらは?」

 同じく服従の礼を取っている女性騎士に目を向けた。年齢はわたしくらいかしら?

「シャーリー様の守り役として任命された、ナタージャと申します。ナタージャ、挨拶を」

「はっ。お初にお目にかかります。わたしは、ナタージャ・ティーエルと申します。この度、シャーリー様の守り役を仰せつかりました」

 守り役と言うよりお目付け役。昔のわたしがバカなことばかりしていたからおじ様が命じた役職だ。

 騎士の仕事ではないと思われるでしょうが、昔のわたしは野生の獣が如く暴れん坊だった。おば様の侍女さんからは子竜こりゅうと呼ばれるくらい。

 そんなわたしに騎士でもないと押さえられないと、常に四人をつけられたわ。

 ……今のわたしくらいの年齢で暴れん坊を面倒見なくちゃならないんだから哀れよね。いや、自分で言っておいてなんだけどさ……。

「そう。よろしくね、ナタージャ」

 主が騎士に敬称をつけるのは侮辱でしかない、らしい。わたしは主従関係はよくわからないけど、おじ様から守り役には敬称はつけるなと言われてるのよね。

「はっ! 誠心誠意、お仕えさせていただきます!」

 ミニオさんたちの視線が痛いけど、カルビラス王国では受け入れるしかないわ。

 ……はぁ~。昔のわたしを力の限り蹴飛ばしてやりたいわ……。

「来たのはあなたたちだけ?」

「はっ。まず我らが駆けつけました。後に応援が来ます」

「さすがアルジャードね。出世したのでしょうね」

 結果、わたしのところに来てしまうのだから不運よね……。

「あ、いえ、そんなことは……」

 あったことね。本当にごめんなさいね。今度、ちゃんとお詫びさせてもらうわ。

「とにかく、お腹が空いているでしょう。応援が来るまでたくさん食べてゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」

 わたしを知っているだけに遠慮はせず、疲れ切った兵士さんたちに食事を摂るように指示を出した。

 兵士さんたちも災難ね。きっと強行軍だったのでしょう。埃まみれで疲労感がありありと出ているわ。

「アルジャード。休んだら身を綺麗にしなさい。汚いわよ」

「……すっかり綺麗好きになられて。昔は泥だらけで寝具で寝ていた方が……」

「昔のことは止めてちょうだい。わたしは成長したのよ」

 まったく、昔を知っている人は余計なこと口にするから嫌だわ。

「いいから身を綺麗にしなさい。ナタージャは別のところに用意してあるわ。ミニオさん。申し訳ありませんが、ナタージャの世話をお願いします」

 他国の侍女さんを使うのは不味いかもしれないけど、それも今さらね。わたしなんて散々口出しをして、お節介をしているんですからね。

「はい。お任せください」

「ナタージャ。シャーリー様の命に従え。汚れたままではシャーリー様が恥をかかれる」

 恥はかかないけど、汚いままでいられるのは嫌だわ。しっかり洗って来なさいね。あ、服も洗濯させないとね。

「兵士様方。こちらの騎士と兵士が綺麗になるまで警備をお願いします」

 わたしもお湯に浸かりたくなったので、サンビレス王国方の兵士さんにお願いしてナタージャに用意した場所へと向かった。