いい仕事(?)をした次の日の朝はとても爽やかに目覚められた。

「あーよく寝た~」

 ベッドの上で大きく伸びをする。

「……もう起きてる人がいるんだ。夜の番の侍女さんかな?」

 おば様のところも夜の番はいる。ここも大きいから夜の番の侍女さんなんでしょう。

 不審者はいないので魔力探知を切り、もう一度大きく伸びをした。

 お湯玉を作り出し、寝巻きを脱いで入った。

 しっかりと体や髪を洗い終わり、癒しの魔法を風に乗せて全身を乾かす。

 下着姿のまま朝の紅茶を飲み、朝のまったりな時間を過ごした。

 六時くらいになり、旅用の服に着替え、部屋を掃除する。

 わたしのために一人部屋を用意してくれるってガルズ様は、どこまでも気を使ってくれるわよね~。

 そろそろかな? 魔力探知を放つと、人がたくさん動き出すのを感知した。

「やはり、魔力が活性化してくれると感知しやすいわ」

 昨日のは無償の行為ではなく、魔力を感知しやすくするためのものだ。

 誰にでも魔力はあるとは言え、わたしの膨大な魔力だと小さな魔力は消してしまう。それを感知させるためには魔力を活性化させるのが一番なのよね。

 人の動きがわかればここの内情や城の造りがわかってくる。

 しばらく侍女さんたちの動きを感じていると、ナタリーさんの魔力がこちらにやって来るのがわかった。

 しばらくしてナタリーがドアを叩いた。

「どうぞ」

「おはようございます。申し訳ありません。奥様のご用意を手伝っていただけますでしょうか?」

 わたしに断る理由はない。と言うか、昨日の成果を確めたかったので、笑顔満点で了承しました。

 奥様の部屋に向かうと、侍女の皆さんとガルズ様がいた。

「おはようございます」

 見る限り奥様の血色はいい。肌の艶も回復されているようだわ。よしよし。

「おはよう。シャーリー嬢のお陰でぐっすり眠れたわ。ありがとうね」

 声音からも体調がいいのもわかる。旅の疲れで衰えた体は完全に回復されたようね。

「いいえ。奥様が快調でなによりですわ」

 わたしの腕を向上させてくれてありがとうございますです。

「ええ。こんなに快調なのは久しぶり。なんだか生まれ変わった気分よ」

 そのまま踊り出しそうな勢いね。フフ。

「シャーリー様。奥様の髪をお願いできますか? 艶がよすぎてわたしどもでは纏められないのです」

 あー確かに髪質が変わると纏め方も変わるわよね。そこまで考えが至らなかったわ。

「わかりました」

 この際、髪結いの腕も上げておきますか。

 散髪の経験はたくさんできたけど、髪結いはあまりしたことがないのよね。自分のときは三つ編みや馬のしっぽ、団子くらいだし。

 奥様の髪はもうすく必要もないくらいサラサラになってるけど、どうするか考えるためにブラシですいた。

「奥様の髪は甘いチョコレートの色ですね」

「ふふ。シャーリー嬢のお口はチョコレートのように甘いのね」

 わたしの感想をサラリと返す奥様。さすが大使の奥様だわ。

 さて。奥様の年齢はおそらく三十半ば。婦人としては油が乗った年代でしょう。

 その年代に合う髪型となると団子かな? でも、それじゃひねりがないわね。

 あれやこれやと頭の中で試してみて、後ろで緩やかに纏める髪にした。

「飾りや髪止めはありますか?」

 はいと、宝石箱が出された。

 宝石箱の中にはいろいろ入っており、サンビレス王国の傾向と意匠がよくわかった。

 花の飾りを一つとり、髪を束ねたところを隠すのに使った。

 具合を見て髪油を使って形を整え、魔法で固定した。

「シャーリー嬢。今のは?」

 やることを見ていたガルズ様がわたしの魔法に気がついたようで声をかけてきた。

 ……あの微弱な魔法に気がつくとか、ガルズ様は魔法に長けてるのかしら……?

 魔力量や質は普通だ。あ、貴族の中ではってことね。鋭さはないから戦いで培ったものではないでしょう。魔法士かなんなのかしら?

「身体強化の魔法をちょっといじったものですね。髪型を固定するのに考えました」

 これならちょっとやそっとの風では乱れたりしないでしょうよ。

「シャーリー嬢はいろいろ考えるのだな……」

「凝り性なもので」

 おば様からは悪癖と言われるけどね。

「この魔法はちょっと難しいので、髪油で固定してください。カルビラス王国には質のよい髪油がありますので」

 わたしは使わないけど、他人で試したことはある。奥様の髪質なら痛めることはないでしょうよ。

「奥様。これでどうでしょうか?」

 手鏡を出して奥様に確認してもらった。

「とても素敵だわ。ありがとう、シャーリー嬢」

 喜んでもらえてなにより。けど、もうちょっといじってからにすればよかったわ。わたし、失敗。