この世界に、いや、この国にはお湯に浸かる文化はない。

 カルビラス王国で一部の貴族には受け入れられてはいるけど、庶民には体を拭くくらい。水浴びすらないと思う。

 これまでやってないことやるには抵抗があるものだ。だけど、侍女さんたちはお湯に浸かることに抵抗を感じてはいない。それどころかおもいっきり堪能しているわ。

 ……何日に一回は入っているそうだから、あまり湯で入ってたのかしら……?

「シャーリー様」

 奥様をバスタオルの上からマッサージしていると、ナタリーさんがやって来た。

 ……ナタリーさんの胸も凶悪ね……。

「な、なにか?」

 わたしの視線が自分の胸に向いているのを察して慌てて両腕で隠した。いい形してるんだから堂々としてればいいのにね。

「シャ、シャーリー様を湯をどうぞ」

「いえ、まだ奥様方のマッサージが残ってるので、まだお湯をいただいてていいですよ。あ、これで髪を洗ってください」

 シャンプーをナタリーさんに渡した。と言うか、凶悪な胸の上に置いた。ちょっとした台ね。

「あ、え、いや、これは高価なものなんでは……」

 石鹸はあるけど、液体はないから高価なものだと解釈してるのでしょうね。

「高価は高価ですが、わたしの髪にいまいち合わないので使い切っていただけると助かりますます」

 前に買ったものだからと買ったはいいけど、年齢とともに頭皮が変わったのか、ちょっと突っ張るのよね~。

「皆様でお使いください。泡はしっかり落としてくださいね。フケになりますから」

 わたしは奥様方のマッサージで忙しいのです。

 奥様方の肌を回復させるシャーリー流マッサージ。目覚めたときは艶のあるお肌へとなるでしょう。うふふ。

「無駄毛処理とかやってないんだ」

 ガルズ様の奥様の腕や脛に生えてなかったから剃る文化はあるんだと思ったけど、ハールメイヤ伯爵夫人を見るとそうでもない感じね。

 侍女さんたちに目を向けると、うん、まあ、ある人はあるか……。

 わたしは、異世界の美意識に侵略されているので、無駄毛は恥ずかしいと言う意識がある。一本でも生えてたら卒倒しちゃうわ。

 無駄毛処理の魔法はある。けど、さすがに許可なしにはやれないわよね。旦那様の好みとかあるし。

 人の好みは千差万別。そう言うのが好きってあるそうだからね。

「ふぅ~。こんなものかしらね」

 満足いくできににんまりしてしまう。ウフフ。

 集中してたからか、お湯をいただいた凶悪な胸を持つ侍女さんが側に立っていた。どこからか持って来た布を巻いて。

 ……逆に凶悪さが増してるわよね……。

「終わりでしょうか?」

「あ、はい。朝まで起きないでしょうね」

 治癒力を利用した回復マッサージだから体力は低下している。体力が戻るまで時間がかかるのよね。

「そうなのですか? どう運びましょう……?」

「わたしが運びますので奥様方に服を着せてください。あ、皆様がお湯をいただいてからにしましょうね。奥様方は魔法で包んでいるので寒くはありませんので」

 まだ侍女さんたちが髪を洗っている。中断させたら大顰蹙ものだわ。

「わたしもお湯をいただきたいのでゆっくりいたしましょう」

 共謀したなら最後まで。皆でさっぱりいたしましょうよ。

 水着を脱ぎ、お湯玉を作り出して体を洗う。

 全身くまなく洗い、念のため買った別のシャンプーで髪を洗った。赤ちゃんポスト用だから頭皮か突っ張ることはないわね。よかった。

「……なにか?」

 侍女さん方の視線がわたしに集中していた。

 同性に見られて恥ずかしいと言う気持ちはないけど、これほどの人数に見られたらさすがに抵抗はあるわ。

 急いでお湯に浸かった。

「シャーリー様の体、とっても綺麗です! どうしてそんなに綺麗なんですか?!」

 ミニオさんが興奮気味に尋ねてくる。

 ……前は気にしなかったけど、ミニオさんも凶悪な胸を持っていたのね。と言うか、サンビレス王国側の侍女さん、皆凶悪じゃない……。

 比べてわかるこの違い。いや、失礼か。申し訳ございませんです。

「毎日お風呂に入って綺麗にしているからですよ」

「それだけ、ですか?」

「もちろん、それだけではありませんよ。美しくあろうとしたら体を洗う石鹸や肌を傷つけないようなタオ──布とかも用意しなくてはなりません。他にも食事を気をつけたり運動したりとやることはたくさんあります」

 なにもしてないとは言わない。それどころかいろいろやっていると主張するわ。

「美しさは一日して成りません。日々の努力の積み重ねです」

 今のわたしがあるのは日々の努力。妥協なき試行錯誤の積み重ね。わたしの体は作った美である。

「まあ、そこまでしなくても毎日お風呂に入って体を清潔にすれば男性を虜にできる美しさになりますよ」

 別に男性を虜にするために美を追求しているわけじゃないけど、男性に汚い女だと思われたくはない。どうせなら綺麗と見られたいわ。

「……毎日は無理です……」

「ミニオさんは魔力があるから水を出せるよう魔法を覚えるといいですよ」

「わたし、魔法が使えるんですか!?」

「はい。ミニオさんの魔力なら桶三杯分は出せると思いますよ」

 ミニオさんの手をつかみ、強制的に指先から水を出させた。