ガルズ様と奥様が歓迎会の装いで部屋を出ていった。

「大使って忙しいんですね」

 ここについてから休むことなく動いている。いったいなにをやってるのかしらね? まあ、興味はないので尋ねたりはしませんけど。

 ガルズ様たちが出ると、わたしたち──と言うか、ミニーさんたちは待機になってしまう。

 控室に戻り、お茶を淹れて一息。侍女と言う仕事は不規則よね。いや、大使の仕事が不規則なだけか。

「シャーリー様。あの、髪を生やす薬は高価なものなのですか?」

「う~ん、前に売った髪洗い液はカルビラス金貨で一枚で売れましたから、四枚くらいですかね?」

 おじ様からわたしが作ったものは安売りするなと言われている。もし買いたいと言う者がいたら金貨一枚以上で売れとも言われてるわ。

「カルビラス金貨で四枚ですか。そんなに安いんですか?」

 あれ? 安い? え? 金貨一枚ってかなり価値があるんじゃなかったっけ? わたし、なにか勘違いしてた?

「そ、そうなのですか?」

「はい。髪を生やす薬は安くてもカルビラス金貨六枚と聞いたことがあります。ダイガ様も金貨三十枚は費やしたと噂です」

 はあ? 金貨六枚? 髪を生やす薬が? 冗談でしょう? 

「……それは、なんと言うか、髪にかける熱意が凄いことに驚きです……」

「そうですね。髪は男性の命ですから」

 ん? え? 男性が? 普通、女では? わたし、おばあ様から髪は女の命と聞いて育ちましたよ……。

 国が違えば考えも違う。それはわかっている。わかっているけど、髪が男性の命と言うことには異議ありです。ハゲていたって格好良い人はいるでしょうに!

 と、まあ、それはわたしの勝手な価値観。口にすることはありません。

「でも、金貨三十枚も使って全然生えてませんでしたよ? その薬、本物だったんですか?」

 効果なんて皆無でしたよ、あれ。

「自分に合った薬に出会うの奇跡と言いますからね」

 それは単に薬が合ってないってことですよね? 髪は男性の命と言うくらいなんだから薬学が発展するものじゃないの? まるでなってないじゃない。

「シャーリー様の薬で助かる男性が増えますね」

 う~ん。これはもしかするとおじ様に怒られる案件かもしれない。このままではさらに問題が大きくなる予感するわ……。

「それならよいのですが、わたしはザンバドリ侯爵家に仕えてますから、大きな金額が動くとなれば侯爵様に相談しなくてはいけません。まあ、あるていどの権限はもらってますから少量なら融通はできますが」

 と、予防線は張っておく。どこまで効くかはわからないけど。

「それはそうですね。でも、シャーリー様は侯爵様に信頼されてるのですね。普通の侍女では首になってますよ」

「あはは。わたしはタダの侍女ではありませんので」

 侍女は侍女だよと突っ込みを受けそうだけど、特殊技能を持った侍女はいる。まあ、世間一般に知られてはいないでしょうが、いるのはいるのです。知っている人は知ってるのです。だから、タダの侍女ではないって言えるのです!

 なんて言い訳はともかくとして、増毛回復水を譲る約束はしてしまったのだから果たすしかないわね。

「なにかこのくらいの瓶はありますかね? 魔力を込めたものは時間とともに拡散してしまうので」

 この世界には魔力拡散現象なるものがある。

 人や動物、植物は魔力を生み出すけど、それを貯めておくことはできない。それができるのは魔物や精霊と言った、わたしたちと違う次元(?)にいる存在だけだ。

 だから魔力が含んだ回復薬等のものは魔力拡散しない容器か結界を施す必要があるのよ。

「葡萄酒の酒瓶でもよろしいですか? 手頃なものがないので」

「よく洗ってあるなら大丈夫ですよ。結界を施せば数ヶ月は持ちますので」

 前に効果期間を決めて売れ。そうすれば希少価値は高まり、高値で売れると、おじ様の御用達の商人さんが言ってた。その教えを参考にさせていただきました。

 ミニオさんが控室を出ていき、空の酒瓶を三つ持って来た。ちゃんと封木(コルクみたいなものね)を持ってね。

「これでよろしいでしょうか?」

「はい、問題ありませんよ。太陽の光も防げますし」

 瓶を作る技術は発展していて、特に葡萄酒の瓶には大陽の光を防ぐ材料が混ぜられている。しかも、割れないような箱もあるので、適したものと言えるてましょうよ。

 三つの空瓶に増毛回復水を入れ、封木で塞ぎ、二、三ヶ月は持つだろう結界を施した。

「一本で四人分ですからカルビラス金貨十六枚ですかね?」

 結界はオマケです。

「本当によろしいのですか? そんなに安くて……」

「ガルズ様には助けられ、こうして同行させていただいているのです。感謝の気持ちとさせてください」

 髪の事情も勉強できたし、そのお代でもある。そのくらいが妥当でしょうよ。