部屋はなんと言うか汚かった。
お金のない冒険者が泊まるような宿屋だから期待はしてなかったけど、予想以上に汚い。それにガードゥの寝床より臭い。気絶しそうだわ。
「清浄! 清浄! 清浄!」
で、部屋中を清浄しまくる。
「ふぅ~。一生分の清浄を使ったわ」
いや、それは言いすぎだけど、清浄だけで部屋中を綺麗にしたのはこれが初めてだわ……。
なんとか綺麗になった敷きっぱなしのベッドに腰かけた。
「……お風呂に入りたい……」
清浄で綺麗にはできるけど、お風呂は身だけではなく心も綺麗にしてくれ、疲れも癒してくれる。毎日の習慣でもあるから入れないのが苦痛でしかないわ。
部屋に入って来れないようにドアと窓、いや、部屋全体に結界を張る。音漏れや覗きは嫌だからね。
このまま眠ってしまいたいけど、朝起きてからバタバタしたくない。今日できることは今日やっておきましょう。
スマホを取り出して起動させる。
これはおばあ様が持っていたもので、十五の誕生日に贈られたものだ。
魔道具としては神話級のもので、嘘か真か神様から授かったとか。真意はわからないけど、そう思わせるだけの性能があるのは確かだ。
通信や地図アプリと言ったものの他に、このスマホには『異次元屋』と言うものに繋げることができる。
正式には『タカオカ・サブーロ』と言うらしいけど、おばあ様は異次元屋と呼んでたからわたしも異次元屋呼びになっちゃってるわ。
異次元屋のアプリを開くと、風変わりな店が表示され、『ようこそ、タカオカ・サブーロへ』と言う異世界語が浮かび上がる。
「入店──」
一瞬の喪失とともにわたしは疑似空間へと移り、わたしの霊体(的な?)が異次元屋のホールに立っていた。
「いらっしゃいませ。シャーリー様」
しばらく待つと、異次元屋の三代目店主、タカオカ・リュージさんが現れた。
種族としては人なのだけれど、わたしたちとは人種? が違うらしく、黒髪で顔の掘りが浅く、肌の色もやや黄色みを帯びてるわ。おばあ様の話では地球と言う世界の魔法結社の人らしいわ。
リュージさんも霊体(的な?)らしく、肉体は別のところにある。なので、肉体を害されないように注意を払う必要があるのよね。
「ごきげんよう、リュージさん」
異次元屋はわたしたちの世界と時間の流れが違うから挨拶もごきげんよう、になったのです。
「今日は旅用のものが欲しいの」
「旅用、ですか。どこかに旅行に?」
「いえ。おばあ様が亡くなってしまい、おば様のところで侍女として働こうと思いまして」
さすがに追い出されたってことは恥ずかしいので内緒にさせていただきます。
「そうですか。そこは遠いのですか?」
「ええ。せっかくなのでゆっくりいこうかな~と思いまして。いろいろ見ても回りたいので」
おばあ様なら転移魔法で一飛びなんでしょうけど、わたしは転移魔法はちょっと苦手で見える距離しか転移できないのよね。
ギャレーの町からカルビラス王国の王都までどのくらいの距離かわからないけど、王都から霧の森の中心にある城まで特別馬車でも八日はかかる。歩くとなれば一月は余裕でかかるでしょうね。
「そうですか。予算は如何ほどで?」
「ポイントはいくら貯まってたかしら?」
異次元屋ではポイント──魔力をお金としている。
地球と言う世界では魔力不足が深刻で、いろんな世界から魔力を集めているそうよ。
わたしの世界は魔力を持つ者は多く、聖賢者の血を引くわたしの魔力は膨大で、一般魔法師の四、五十倍はある。ちなみにおばあ様は千倍はあったらしいわ。
「約百八十万ポイントですね」
スマホを受け継いでから毎日魔力を売ってたとは言え、そんなに貯まってるとは思わなかった。食材も毎日ここで買ってたんだけどね。
「四十万ポイントくらいでお願いします」
異次元屋で売っている商品はびっくりするくらい高い。小瓶に入った塩でもこちらの二十倍くらいするわ。
「はい。では、一通り揃えてみますね。あ、身の回りのものはどうしますか?」
身の回りとは下着とかよ。
「こちらで選びます」
店主とは言え、男性に下着とかを選ばれるのは抵抗があるわ。
霊体(的な?)の状態だけど、異次元屋内では商品に触れ、試着もできるため、買い物篭を持って下着売場へと向かった。
ちょっとした城くらいある異次元屋だけど、ちょくちょく来てるのでどこになにがあるかはわかっているので案内は不要。なんて、異次元屋はリュージさんしかいないんだけどね。
下着売場へと向かい、下着を物色する。
「あっちの世界はお洒落よね~」
おばあ様が利用して下着も貴族間では普及して来たけど、地球産の質にはまだ届かない。すぐに崩れたり色褪せたりする。地球産を知ったら他のは使えないわ。
「……これ素敵だけど、二万ポイントは高いなぁ~……」
千ポイントの安いのもあるけど、質や意匠はよくない。肌心地もね。最低でも一万ポイント以上のものでないと買いたいとは思わなくなっているわ。
「ポ、ポイントはたくさんあるんだし、自分へのご褒美よ」
なんの? とかは訊かないでください。それが女と言うものなんです。
上下六着選び、靴下やタイツ、化粧道具、小物類、女性用品などを買い物篭に放り込む。
支払いは自動的に行われるのでリュージさんの目に触れることはない。まあ、店主なんだからなにが買われたかわかっているでしょうけどね。
「シャーリー様。集めてみましたのでどうぞ」
こちらの世界のことは知っているので、世界観に合ったものを選んでくれたようだ。
「女性一人の旅のようなので、動きやすい服を選んでみました」
どれもこれもお洒落なものばかり。
「まったく、リュージさん、感性がいいから悩ませてくれます」
全部買いたくなるじゃない。
「ふふ。ごゆっくりお選びくださいませ」
なんて小憎らしい笑みを見せるリュージさん。
うぐっ。わたしの戦いが今始まる、って感じだわ。
お金のない冒険者が泊まるような宿屋だから期待はしてなかったけど、予想以上に汚い。それにガードゥの寝床より臭い。気絶しそうだわ。
「清浄! 清浄! 清浄!」
で、部屋中を清浄しまくる。
「ふぅ~。一生分の清浄を使ったわ」
いや、それは言いすぎだけど、清浄だけで部屋中を綺麗にしたのはこれが初めてだわ……。
なんとか綺麗になった敷きっぱなしのベッドに腰かけた。
「……お風呂に入りたい……」
清浄で綺麗にはできるけど、お風呂は身だけではなく心も綺麗にしてくれ、疲れも癒してくれる。毎日の習慣でもあるから入れないのが苦痛でしかないわ。
部屋に入って来れないようにドアと窓、いや、部屋全体に結界を張る。音漏れや覗きは嫌だからね。
このまま眠ってしまいたいけど、朝起きてからバタバタしたくない。今日できることは今日やっておきましょう。
スマホを取り出して起動させる。
これはおばあ様が持っていたもので、十五の誕生日に贈られたものだ。
魔道具としては神話級のもので、嘘か真か神様から授かったとか。真意はわからないけど、そう思わせるだけの性能があるのは確かだ。
通信や地図アプリと言ったものの他に、このスマホには『異次元屋』と言うものに繋げることができる。
正式には『タカオカ・サブーロ』と言うらしいけど、おばあ様は異次元屋と呼んでたからわたしも異次元屋呼びになっちゃってるわ。
異次元屋のアプリを開くと、風変わりな店が表示され、『ようこそ、タカオカ・サブーロへ』と言う異世界語が浮かび上がる。
「入店──」
一瞬の喪失とともにわたしは疑似空間へと移り、わたしの霊体(的な?)が異次元屋のホールに立っていた。
「いらっしゃいませ。シャーリー様」
しばらく待つと、異次元屋の三代目店主、タカオカ・リュージさんが現れた。
種族としては人なのだけれど、わたしたちとは人種? が違うらしく、黒髪で顔の掘りが浅く、肌の色もやや黄色みを帯びてるわ。おばあ様の話では地球と言う世界の魔法結社の人らしいわ。
リュージさんも霊体(的な?)らしく、肉体は別のところにある。なので、肉体を害されないように注意を払う必要があるのよね。
「ごきげんよう、リュージさん」
異次元屋はわたしたちの世界と時間の流れが違うから挨拶もごきげんよう、になったのです。
「今日は旅用のものが欲しいの」
「旅用、ですか。どこかに旅行に?」
「いえ。おばあ様が亡くなってしまい、おば様のところで侍女として働こうと思いまして」
さすがに追い出されたってことは恥ずかしいので内緒にさせていただきます。
「そうですか。そこは遠いのですか?」
「ええ。せっかくなのでゆっくりいこうかな~と思いまして。いろいろ見ても回りたいので」
おばあ様なら転移魔法で一飛びなんでしょうけど、わたしは転移魔法はちょっと苦手で見える距離しか転移できないのよね。
ギャレーの町からカルビラス王国の王都までどのくらいの距離かわからないけど、王都から霧の森の中心にある城まで特別馬車でも八日はかかる。歩くとなれば一月は余裕でかかるでしょうね。
「そうですか。予算は如何ほどで?」
「ポイントはいくら貯まってたかしら?」
異次元屋ではポイント──魔力をお金としている。
地球と言う世界では魔力不足が深刻で、いろんな世界から魔力を集めているそうよ。
わたしの世界は魔力を持つ者は多く、聖賢者の血を引くわたしの魔力は膨大で、一般魔法師の四、五十倍はある。ちなみにおばあ様は千倍はあったらしいわ。
「約百八十万ポイントですね」
スマホを受け継いでから毎日魔力を売ってたとは言え、そんなに貯まってるとは思わなかった。食材も毎日ここで買ってたんだけどね。
「四十万ポイントくらいでお願いします」
異次元屋で売っている商品はびっくりするくらい高い。小瓶に入った塩でもこちらの二十倍くらいするわ。
「はい。では、一通り揃えてみますね。あ、身の回りのものはどうしますか?」
身の回りとは下着とかよ。
「こちらで選びます」
店主とは言え、男性に下着とかを選ばれるのは抵抗があるわ。
霊体(的な?)の状態だけど、異次元屋内では商品に触れ、試着もできるため、買い物篭を持って下着売場へと向かった。
ちょっとした城くらいある異次元屋だけど、ちょくちょく来てるのでどこになにがあるかはわかっているので案内は不要。なんて、異次元屋はリュージさんしかいないんだけどね。
下着売場へと向かい、下着を物色する。
「あっちの世界はお洒落よね~」
おばあ様が利用して下着も貴族間では普及して来たけど、地球産の質にはまだ届かない。すぐに崩れたり色褪せたりする。地球産を知ったら他のは使えないわ。
「……これ素敵だけど、二万ポイントは高いなぁ~……」
千ポイントの安いのもあるけど、質や意匠はよくない。肌心地もね。最低でも一万ポイント以上のものでないと買いたいとは思わなくなっているわ。
「ポ、ポイントはたくさんあるんだし、自分へのご褒美よ」
なんの? とかは訊かないでください。それが女と言うものなんです。
上下六着選び、靴下やタイツ、化粧道具、小物類、女性用品などを買い物篭に放り込む。
支払いは自動的に行われるのでリュージさんの目に触れることはない。まあ、店主なんだからなにが買われたかわかっているでしょうけどね。
「シャーリー様。集めてみましたのでどうぞ」
こちらの世界のことは知っているので、世界観に合ったものを選んでくれたようだ。
「女性一人の旅のようなので、動きやすい服を選んでみました」
どれもこれもお洒落なものばかり。
「まったく、リュージさん、感性がいいから悩ませてくれます」
全部買いたくなるじゃない。
「ふふ。ごゆっくりお選びくださいませ」
なんて小憎らしい笑みを見せるリュージさん。
うぐっ。わたしの戦いが今始まる、って感じだわ。