お湯玉を五つにして全回転。汚れが酷すぎるわ。

「洗濯とかしなかったんですか?」

 ナタリーさんやミニーさんがガルズ様や奥様の世話に下がったため、一緒に洗濯を見守るタリオラさんに尋ねた。

「……衣装は二回か三回着れば払下げされるか下取りに出されます。まあ、奥様は堅実な方なので十数回は着るんですが……」

 あ、そう言えばそうだったわね。貴族の普段着以外の衣装は使い捨てだ、って。

「貴族の衣装は不便ですよね」

 異世界のファッション──服の型は何百年も先をいっていて、とても洗練されている。組み合わせは無限とも言っていいわ。

 ……あんなファッションがこの世界でも広がったらいいのにな~……。

 侍女じゃなく服屋さんでもいいわね~。とか妄想しながら洗濯を終わらせた。

「う~ん。少し色落ちしたわね」

 生地もだけど染め具合もダメなのね。まったく歯痒いわ~。

「このくらいなら大丈夫ではないですか? 元々色落ちしてましたし」

 まあ、何回か洗ったからか色は落ちてたけど、さらに一割落ちた感じだわ。

「これで式典に出させるのは許せないわね」

 これが生活で着るなら文句はないわ。けど、人前で着るとなるとわたしの美意識が許さない。綺麗な服は綺麗じゃないといくないのよ!

「しょうがない。魔法で処理するか」

 魔法で服を創る──正解に言えば具現化することは可能だ。わたしの魔力なら百でも二百でも余裕でしょう。けど、それは服ではない。魔法だ。装飾道からは外れるわ。

 まあ、必要なら魔法で服を創りもするけど、今はそこまでする必要はないわ。やるなら修復か被膜かしらね。

「ガルズ様と奥様は、どの服を使用するのですか?」

「そのときの状況で服を選ぶので、わたしにはなんとも……」

 そりゃそうか。時と場所と場合によって服装を変える必要がある。そのためにこんなに衣装を持って来たんだろうからね。

「しかたがないわね。なら被膜にしましょうか」

 修復は他の糸を持って来てほつれを直し色をつける方法だ。ほつれはなんとかできても色染め材がないと修復は無理だしね。

 お湯玉からお湯と汚れを排出し、結界に熱風を入れて衣装を乾かした。

 結界を解いて衣装をベッドに並べてもらった。

「どうするのですか?」

 衣装を魔法で浮かべて色を確認す。

「な、なにをしてるのですか?」

「色の確認です」

 被膜もいろいろあり、全被膜から一部被膜。絵をつけたり水を弾く被膜だったりある。

 今回は同じ色を被膜にしようと思っているわ。ちょっと輝かしく、ね。

「香水が欲しいところよね」

 衣装は視覚だけじゃなく嗅覚にも働きかけてこそ栄えるのよね。

「香水なら奥様のがありますが」

 と言うので香水を見せてもらった。

「……濃いわね……」

 それにいい匂いがしないわ。サンビレス王国ではこう言う香りが流行っているのかしら?

「臭い消しも兼ねてますので」

 そりゃ洗濯しなければ香りで誤魔化すしかないわよね。

 衣装に色被膜していく。何回かやったけど、派手すぎず元の色を損なわず、見た目よくするのは難しいわよね。わたしの色彩感覚、もっと頑張りなさいよ。

「灯りとの関係もあるし、煌めきすぎも不味いわよね~」

 夜と昼の違いもあり、人工的な灯り火によっても色合いを考えなくちゃならない。こんなことならもっと試行錯誤しておくんだったわ。

「式典はそんなに派手にしなくてもよいのでは? 主役は旦那様ですし、奥様が目立ちすぎもよくないですし」

 あ、そう言うこともあるのか。考えもしなかったわ。

「では、少し暗めにしますか」

 元の色から二割暗くした感じにする。

「装飾品も押さえたものにするんですか?」

「そうですね。そうなるかと思います。装飾品は奥様が選ぶのではっきりそうだとは言えませんが」

 まあ、そこは奥様の感覚に任せましょう。いろいろ夜会とか出ているでしょうからね。

 他の衣装も色被膜を施した。

「旦那様のはどうしますか?」

「男性のは洗濯だけで構わないでしょう。ほつれや色も落ちてないようですし」

 男性は衣装より勲章の輝きのほうが重要でしょうしね。

「式典まで少しの時間があるなら散髪と髭を整えましょう。少し乱れてますしね」

 自分でやっているのか、ちょっと野性味がある。髪も中途半端に伸びてだらしないわ。

「わたしが刃物を持っても大丈夫かしら?」

「シャーリー様なら問題ないかと思いますが、ナタリー様と相談します」

「わかりました。お話ください」

 一応、異次元屋で産毛剃り用の刃物を買ったけど、男性の髭は大丈夫かしら? 

「誰かで試したいわね。兵士で髭を生やしてた方、いたかしら?」

 全然かかわりがなかったから髭が生えていたかも記憶にないわ。

「タリオラさん。兵士さんで髭剃りを練習したいんですが、できますかね?」

 一応、できるかどうか尋ねてみる。ダメなら諦めるけど。

「では、聞いて来ます。兵士たちは休憩していると思うので」

 なかなか臨機応変で行動的なタリオラさん。そう言うとハールメイヤ伯爵家の侍女さんに話を通して部屋を出ていった。

 こうして裏方を見ると、侍女って能力がないとやれない職業だと思い知らされるわね……。