侍女さんたちを完璧──とまではいかないまでも及第点くらいには仕上げられた。

 じっくり反省点を探したいけど、出発準備でそれどころではなかった。

 朝食もそこそこに馬車へと乗り込み、領事館を出発。国境線を越えた。

 まあ、国境線と言うよりは国境門で、潜ったと言うほうが正しいいいわね……。

 国境門を潜ると、そこはもうカルビラス王国。サンビレス王国とは百年近く友好関係にあるので、事前申請していていれば貴族は素通りできるそうだ。

 そうおば様から聞いてたけど、それでいいのかしら? 密輸とかされるんじゃないのかしら?

 なんて考えていたらラッパが耳に届いた。なに?

「大使を歓迎するものですね」

 と、ミニーさん。物知りですね。

 道の左右に儀仗兵みたいに着飾った兵士さんたちが並び、紙吹雪が舞っていた。凄い歓迎だこと。

「遅れた割にはしっかりした出迎えですね」

「四年毎の大使交換ですからね。慣れたものなんでしょう」

 大使って四年毎なんだ。四年も外国にいくってどんな気分なのかしらね。

 わたしも外国には何度もいったことはあるけど、数日いるだけの旅行だ。年単位でなんて想像も……いや、これから十年も城の外で暮らさなくちゃならかったんだ! 呑気か、わたし!

 馬車が停まり、ラッパが高らかになりだした。なに?

「受け入れの歓迎をしてるのよ」

 事前に情報を仕入れてたのか、ミニーさんが教えてくれた。

「姉さん。わたしたちも降りるの?」

 それは面倒ね。馬車の中にいたいわ。

 わたし、儀式とか儀礼とか、そう言うの固っ苦しいこと嫌いなねよね~。

 との心配は杞憂に終わった。

 馬車は再び動き出して、カルビラス王国側の町に出てしまった。

「このままいくの?」

「いえ、ハールメイヤ伯爵のお城へ向かうわ。そこで歓迎会が行われるのよ」

 ハールメイヤ伯爵? どこかで聞いたような名前ね? どこでだったかしら?

 おば様が開く舞踏会や夜会でたくさん紹介されたから記憶が曖昧なのよね~。

 馬車は町を出て一時間ほ進むと、城門を潜った。

 国境の町の門とは違い、こちらは守りに徹した重厚な造りで、対魔法処理が行われていた。

 ……そう言えば、昔はサンビレス王国と戦争してたんだっけ……。

 魔物の襲来もあるだろうけど、人の敵は人。人に備える必要があるんだろうな~。

「大きな町ね」

 窓から見える町並みは確かに賑やかで、三階建ての建物ばかりだった。

 ぼんやりと眺めていると、見知った旗が目に飛び込んで来た。

 ……あれはタダールン商会の旗よね……。

 おじ様がよく使っている商会のはず。大きい商会とは聞いてたけど、ここにもあるほど大きい商会だったのね。

 ……おじ様ならタダールン商会に話を通してるかな……?

 宰相をしているだけに伝は多く、伝達手段も多くある。国内なら一日もあれば伝えられるはずだわ。

 おそらくわたしが気づけるよう旗を立てたんでしょうね。もう四つは見てるもの。

 おば様にはメールしてるから問題ないでしょうが、わたしからも伝えておいたほうがいいわよね。わたしのために動いているんだから。

 スカートのポケットから折紙を出し、おばあ様が教えてくれたツルと言う鳥を折る。

「シャーリー様、それは?」

「東方の国に伝わる折紙と言うものですよ」

 折ったものを皆さんに配り、皆さんの目がツルにいってる間に窓からツル──式魔を放った。

 これは異世界の魔法で、折紙にわたしの思念を乗せて動かすものだ。

 前に試しに一回やっただけにしては上手くできたわね。ちゃんと飛んでいる。

 意識を半分だけ式魔に移しているので細かな操作はできないけど、タダールン商会の支部と思われるお店(看板)を発見できた。

 店内を探り、支部長らしき人の前に式魔を移動させる。

「突然失礼します。わたしは、シャーリーと申します。ここの責任者ですか?」

 式魔に驚いたものの、声は出さず、すぐに状況を理解したように表情を引き締めた。

「はい。ラルダルを任せられているミジックと申します」

「おじ様、いえ、ザンバドリ侯爵から連絡は入ってますか?」

「はい。お話は伺っております。シャーリー様をお助けしろと」

 さすがおじ様。仕事が早い。

「まだ馬車の中なので、落ち着いたらまた連絡させていただきます」

「はい。こちらからも伯爵夫人に話を通しておきます」

 伯爵夫人? あ、思い出した。おじ様の派閥の人だわ。

「ありがとうございます。侯爵様にはよくしてくれたと伝えておきますね」

 ちゃんと見返りはしておかないと。商人をタダで使ってはダメだっておじ様が言ってたしね。

「はい。連絡をお待ちしております」

 思念を解き、式魔をミジックさんの元に残した。