おしゃべりの中で、四人の侍女さんたちが優秀なのが理解できた。

 まあ、大使団に加わるのだから優秀じゃないわけがないんだけど、奥様の身の回りの世話だけじゃなく、料理や裁縫、行儀作法、計算に語学と、並みの令嬢より優れているらしい。

「なにより侍女は体力がないと勤まらないわ」

 とは、この中で年長(二十二歳くらいかしら?)のミニーさん。珍しい金髪の人で、ナタリーさんの補佐らしいわ。

「体力があってもあの道は厳しかったですね~」

 小柄ながらふくよかな胸を持つタリオラさん。侍女の前は針子として働いてたけど、今回のことで引き抜かれたらしいわ。

「シャーリー様のお陰でそんなに酷くはならなかったので助かりましたよ」

 細身ながら何度か旅をしたことがあるササラさんは、回復魔法を一回だけで乗り切った人だ。両親が料理人で、自らも料理をして来たそうで、肉団子の作り方を訊いて来たわね。

「夕食も豪華になったんですからシャーリー様様です」

 ミニオさんはミニーさんの従姉妹で、料理も裁縫も器用にこなし、行儀作法も学んでいるとか。今はわたし担当、ってことみたいね。

「喜んでいただけたのなら嬉しいです」

 ミニーさんとミニオさんが食器を片付けている間に、わたしはお茶の用意をする。

「珍しいお茶ですね。どこのものなんですか?」

「外国のですね。ゲルセイヌと言うところでよく飲まれている一般的なお茶ですね」

「ゲルセイヌですか? 初めて聞きました」

 まあ、異世界ですし。とは言わない。

「わたしもよくわかりませんが、海を渡った別の大陸と聞いてますね。お気に召したらいくらかお譲りしますよ。まあ、帰ってから、ですけどね」

 大量買いすると安くしてくれるのよね、異次元屋って。

「砂糖もお譲りいただけますか?」

「構いませんが、砂糖はカルビラス王国で入手できますよ」

 異世界からの知識で、甘大根から砂糖を作れるようになった。おじ様のの領地で大々的に栽培してるから安く手に入れるはずだ。まあ、異次元屋で買っても安いんだけど、この世界で手に入れられるものはこの世界で手に入れたほうがいいでしょう。おじ様の領地が潤うしね。

「聞いたことがあります。カルビラス王国は砂糖が安いって」

 とは、ササラさん。

「サンビレス王国では高いんですか?」

「はい。庶民には手が出せません。子爵家でも茶会で使うくらいです」

 そうなんだ。隣の国なのに残念ね。

「カルビラス王国にはどんなお菓子があるんですか? ケーキと言うものがあるとは聞いたことありますが」

「そうですね。最近ではバームクーヘンって言うのが流行ってますね」

 さすがに異世界ほど食材が豊富じゃない。知識があっても作れるものは少ないのよね。

「バームクーヘンか~。カルビラス王国にいくのが楽しみです」

 なんてお菓子談義をしていたら、ドアがノックされ、ナタリーさんが入って来た。

「皆。奥様の湯浴みをするから手伝って」

 湯浴み? ここ、お風呂ないの?

「湯は沸いているのですか?」

「いえ、忙しくてまだよ。領事館の下女に声をかけてちょうだい」

「わたしたちが口を出してよいのですか? 領事館はサオニード侯爵の派閥が多いと聞きましたが」

 人が群れると派閥ができるっておじ様が言ってたけど、湯浴みできるかわからないほどになるものなの?

「さすがに嫌がらせはしないでしょうが、万が一のときは兵士にお願いしましょう」

「あの、わたしが用意しましょうか? わたしもお風呂に入りたいですし」

 男爵様のところでわたしが指輪を使ってお湯を沸かしたことは耳にしてるはずだ。

「で、ですが……」

「ご心配はいりません。部屋の中でも安全にお風呂に入れますから」

 お風呂を使えない場合を考慮し、部屋でお風呂に入れる方法は考えておりますよ。

「お願いします」

 逡巡したけど、すぐに決断をするナタリーさん。できる侍女って感じね。

 決まれば速やかに行動するのが侍女とばかりに全員で奥様のところへ向かった。

 奥様の部屋、と言うか、ガルズ様たちの部屋は広く、考えていた方法より広く使えそうだった。

 ナタリーさんが奥様に説明をし、ガルズ様が追い出されてしまった。ナタリーさん、容赦ないわね……。

「シャーリー嬢。お手数をかけて申し訳ありません」

「お気になさらず。これでも侍女の端くれ。このくらい軽い仕事ですわ」

 いや、やったことはないけど、物心ついたとこれからお風呂に入っている身。ここにいる誰よりお風呂に精通してるわ。

「シャーリー嬢。わたしにはわかりませんので指示をお願いします」
 
 はい。任されました!

 シャーリー流お風呂術。火と水の胡蝶の舞! あ、適当です。ごめんなさい。