昼は小休憩で終わってしまいました。え、昼食は?

「日程が遅れているので、国境の町まで急ぎます」

 とのことだった。旅の厳しさを毎日のように痛感させられます……。

 お昼から休むことなく馬車は走り続け、夕方に国境の町へと到着した。こう言うのを強行軍って言うのね。

 ……トイレを我慢しても先を急ぐとか、奥様や侍女さんたちは大変ね……。

 水分補給もしないから侍女さんたちの唇がカサカサ。これじゃ旅が終わる頃には髪も肌もカサカサになるわね。

 町に入り、しばらく進むと、馬車が停止した。

「荷物は任せます」

 そう言ってナタリーさんが馬車を出ていった。

「ナタリーさん、大丈夫かしら?」

 回復魔法をかけたとは言え、精神までは回復されない。精神は自然に休ませてこそ回復するものなのよ。

「奥様の世話はわたしたちではできませんから」

 なぜに?

「ナタリー様は上級侍女で、わたしたちは下級侍女なの」

 なんでもナタリーさんも男爵家の生まれで、ミニオさんたちは商家の生まれだとのこと。侍女に上級とか下級とかあるんだ。初めて知ったわ。

 しかし、奥様の世話を一人でって大変じゃない? 世話くらい上級とか下級とか関係ないと思うんだけどな~。まあ、貴族社会に口を出しても面倒なだけ。そうなんだ~と納得しておきましょう。

「ここは、どこなんですか?」

 なにか物々しい造りのところね。石組みの砦みたいだわ。

「サンビレス王国の領事館です」

 領事館? って、なんだったかしら? 前に聞いたような気はするけど、なんだったか思い出せないわ。

 馬車から荷物は降ろさないみたいで、手ぶらで領事館へと入った。わたしは、鞄を持って入りました。

「シャーリー嬢。バタバタして申し訳ない。部屋は用意してあるのでゆっくり休んでください」

 ガルズ様はゆっくりできないようで、そう言うと、どこかへといってしまった。

 領事館の侍女さんと思われる女性がすぐに来て、部屋と案内された。

「なんだかな~」

 わたしの立場がはっきりしないからのか、扱いもはっきりしない。わたしもどう動いていいかわからないわ……。

 しょうがないので旅の服から部屋着へと着替え、お湯を沸かしてニケ茶をいただく。あー美味しい。

 夕食ってどうなるのかな~? と、考えながらニケ茶を飲んでいると、部屋のドアがノックされた。

「は~い、どうぞ~」

 ドアが開き、ミニオさんが現れた。

「シャーリー様。夕食です」

 と言うので部屋を出て、ミニオさんに案内されたところは質素な部屋で、侍女さんたちがいた。

「すみません。こんな粗末な部屋で」

「いえ、全然構いませんよ。こうして雨風を凌げるんですから」

 部屋も冒険者相手の宿屋より断然よかった。文句を言ったら罰が当たるわ。
 
「あと、いろいろと忙しいみたいで食事も粗末で申し訳ありません」

 円卓を見れば野菜のスープとパンだけ。確かに粗末ね……。

「なら、少し足しましょうか」

 旅はまだ続く。しっかり体力をつけないと途中で脱落してしまうわ。

「男爵様のところで作っておいてよかったです」

 大したものは作れなかったけど、ダボアさんの御厚意で腐り──じゃなくて、熟成されたお肉(なんのお肉かは聞いてません)で肉団子を大量に作ったのです。

 甘辛仕立てにしたのでパンに挟んで食べると、結構食べ応えがあるものになるでしょうよ。

「あと、トマトを切って砂糖をかけたものをっと」

 これで夕食が華やかになったわ。

「……シャーリー様は、物語に出て来る魔法使いみたいですね……」

「ふふ。わたしなんてまだまだ未熟な魔法使いですよ」

 物語に出て来る魔法使いはおばあ様だ。人をカエルに変えちゃったり、カボチャを馬車にしちゃったりと、もうメチャクチャな人だったわ。

 ……カボチャをなぜ馬車にしたかは未だに意味がわからないけどね……。

「魔法使いなのは否定しないんですね」

「まあ、魔法しか取り柄がないので」

 おばあ様にいろいろ仕込まれたけど、それが取り柄かと言われたら首を傾げるしかないわ。積み重ねれば大抵の人はできるんだからね。

「さあ、夕食にしましょう。お昼を抜いたからお腹ペコペコです」

 侍女さんたちに仕事がないのなら夕食を楽しみましょう。
 
 皆さんもお昼がなかったので、出されたものをすべて平らげてしまいました。

 お腹が満ちたお陰か、皆さんとの壁が少し低くなり、馬車内ではできなかったおしゃべりができた。

 これが女子会と言うものかしら? なにか楽しいわ。うふふ。