あーいいお風呂でした~!

 ただのお湯だったけど、今のわたしには入れるだけで幸せだわ。

 風の魔法で体についた水滴を乾かし、髪を柔らかい風にして乾かす。

「あれ? 鏡がない……」

 髪をとかそうとして脱衣場的なところに鏡がないことに気がついた。

「……そんな……」

 あるのが当たり前すぎて今の今まで気がつかなかったわ……。

「はぁ~。異次元屋で買うものがまた増えたわね」

 品揃え豊富な異次元屋だけど、どれもが高くて気軽には利用できない。姿見の鏡なんて買おうものなら一万ポイントは取られるでしょうよ。

「魔力を節約しないとな」

 人より魔力があると言うのに、異次元屋の世界では百分の一くらいになってしまう。こちらの世界では百分の一もあれば事足りるのにね……。

 こんなに魔力があっても使うときがなければ宝の持ち腐れ。異次元屋と繋ぐスマホがなければ霧の森が灰になってたかもね。

 強大な魔力を溜め込んでおくのも体に悪い。まったく、難儀なものよね~。

 鏡がないので壁に向かいながら髪をとかした。

「ん~蜂蜜リンスもいまいちね」

 悪くはないけど、いつも使っているエボルの花から絞った油には負けている。おば様に連絡して集めてもらおうっと。

 手で何度かとかし具合を確かめ、新しい下着をつけ、服を着た。

「毎日着替えられないと香水も買わないとダメね」

 清浄をかければ汚れや臭いを消せるけど、常にやってたら「この人、常に臭いのかしら?」と思われちゃう。それなら「いい香りね」と思われたほうがあわ。その辺は女心と言うものです。

「やっぱり鏡がないと不便よね」

 まあ、旅に姿見の鏡を持ち歩くのも変だから手鏡は買っておきましょう。

 見える範囲で服のシワやよれがないかを確かめてから脱衣場的なところから出た。

 もちろん、外にはナタリーさんと年配の侍女さんが待ってました。

 ……侍女の扱いじゃないわよね……。

 おば様のところでは「姫様」と呼ばれて、侍女さんを最低でも三人はつけられるからこの状況をすんなり受け入れられるけど、侍女の立場でいるとなると戸惑いしかないわ。

 まあ、おば様との関係を考慮してのことだから拒むつもりはないわ。外の世界は利害関係が大切だっておば様が言ってたしね。

 わたしはおば様のところに連れてってもらう。お礼におば様に紹介する。うーなんとかかんとかの関係だと、おばあ様が言ってたわ。いや、なんて言ってたか忘れちゃったけどねっ。

「ありがとうございました。男爵様によろしくお伝えください」

 年配の侍女さんに頭を下げてお礼を伝えるようお願いした。

「はい。お伝えいたします」

 侍女教育が徹底してるわよね。余計なことはなにも言わず、表情も変えない。きちんと線を引いている。おば様のところの侍女を知っているだけに教育の凄さが理解できるわ。

 ……城にいた頃は全然わかりませんでしたけどね……。

「夜まで部屋で休ませていただいてよろしいでしょうか?」

 わたしが動くといろいろ準備に大変でしょう。縁の下の力持ちな侍女さんが、ね。

「お休みになられるので?」

「いえ。旅の準備をしようかと思います」

 出だしからポイントを減らしちゃうけど、それで侍女さんたちの不興を買うほうが問題だわ。まあ、ナタリーさんたちなら仕事として割り切れるでしょうが、避けられることなら避けいたほうがいいでしょうよ。侍女は一番に味方にしておかなくちゃいけないそうだからね。

「わかりました。では、夕食になりましたらお呼びいたします」

 あ、夕食か。この流れではガルズ様や男爵様と一緒の席になりそうね。この服じゃまずいかしら?

「正式な服は持ってないのですが、よろしいのですか?」

「身内の席ですので、その服装でも問題ありません。もし、気になるのでしたらこちらでご用意いたしますが?」

 わたしの体に合う服がそう簡単に用意できるはずがない。きっと侍女総出で準備するんだろうな~。

「いえ。この服で問題ないのならこれで出席させていただきます」

「はい。わかりました」

 承諾を受けたので夕食まで旅の準備に取りかかった。