山菜の天ぷらは、わたしの舌にはちょっと合わなかったけど、年配の方には好評だった。
「旨いですな」
「ええ。クセになる苦味です」
特に男爵様とガルズ様が気に入ったようで、フォークが止まらなかった。
「塩につけるとまた旨い! 麦酒が欲しくなりますな!」
「まったく。酒のツマミにもってこいです」
酒を持って来いと叫びそうな勢いだけど、さすがに明るいうちにお酒は不味いと思っているようで、要求することはなかった。
騎士様もあまり山菜の天ぷらは好みではないようで、フォークの動きは鈍い。やはり若い人の口には合わないようね。
う~ん。なにか違うもの作らないとね。
パンケーキ……は無理か。シチューは……時間がかかるわね。あれやこれと考えるけど、設備が調ってなくて材料がない中では作れるものが限られて来るわね……。
厨房の中を見回すと、パンを焼く窯があった。
「ダボアさん。チーズありますか?」
「え? あ、ああ。保管庫にありますよ」
あ、あるんだ。さすが男爵家。保管庫まであるなんて裕福なのね。
「使いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。持って来ますね」
チーズは保管が難しく、一般の食卓にはなかなか出せないと聞いてたんだけど、男爵家ではそうでもないのね。
ダボアさんの部下さんがチーズを持って来てくれる間に小麦粉を台の上に撒き、塩を足して水をかけて練っていく。
「なにを作るので?」
「簡易ピザを作ろうと思いまして」
材料が足りなくて、工程を省くので簡易なんです。
捏ねて捏ねて捏ねまくり、手頃な感じの団子にする。
「ダボアさん。トマトをたくさん刻んでもらえますか?」
「あ、はい。わかりました」
一人では時間がかかるのでダボアさんたちに手伝ってもらうことにする。お腹の虫さんが抗議の声を上げそうなんでね。
あれこれ指示を出し、準備はできた。
ちょっとだけ寝かせた団子を薄く伸ばし、切ったトマトと玉葱を乗せ、削ったチーズを振りかける。
「ダボアさん。これを焼いてください。加減は任せませますので」
よそ様の窯はクセややり方がある、らしい。なので、焼きは任せるのが一番だわ。
「これは、窯に入れる専用の道具が必要ですね」
あ、ピザを掬う道具、忘れてたわ。まあ、代用品(薄い板で掬ってる)を使ってるから問題ないか。
「シャーリー様。こんなものでよろしいですか?」
窯を見ていた三十代くらいの男性に声をかけられた。窯担当の人かしら?
手を止め、焼き具合を見る。
「はい。いい感じです」
チーズが溶けていい匂いだわ。これなら味も大丈夫そうね。
簡易ピザを出してもらい、包丁で四等分に切り分けてわたし、ダボアさん、窯担当の男性で試食する。
簡易ピザにしてはまあまあかな。チーズが足りない部分を補っている感じね。
「……旨い……」
「あんな簡単な材料でできるなんて……」
ピザは異次元屋の世界のもの。知らないのは当然とは言え、そこまで驚かれることかしら? 地域が違えば食べるものも違うんだしさ。
「これは簡易なので、いろいろ工夫して極めてください」
今はお腹を空かした方々の胃を満たしてあげることを優先しましょうと、厨房の方総動員で簡易ピザを作り出した。わたしを厨房から追い出して……。
「シャーリー嬢の料理は不思議なものばかりですね。なんと言うものですか?」
子爵なら珍しい料理も食べているだろうに、天ぷらや簡易ピザを不思議に思うのね。おば様のところでは普通になっているのに。
……広めたのはおばあ様らしいわね……。
「ピザと言いますが、今回のは材料が足りなくて簡易なものです。カルビラス王国にいったらちゃんとしたピザをごちそうしますね」
おば様のところなら材料は豊富だし、ピザ専用の窯もある。簡易ピザなんて目じゃないピザを焼いてみせるわ。
「そう言えば、カルビラス王国は美食の国との噂は聞いたことあります。他にも不思議な料理があるので?」
「いろいろありますよ。お休みになったら王都のキャリバリーと言う店を訪れることをお勧めします。毎日通いたくなるくらい美味しいものが食べられますから」
昔、おばあ様が伝授したらしく、王都で一番の料理店になってるそうよ。
「キャリバリーですか。それは是非ともいってみたいですね」
わたしもお邪魔させてもらおうっと。お菓子の材料を分けてもらうためにね。
「シャーリー様。ちょっと材料を変えてみたので味見をお願いします」
ダボアさんがベーコンのようなものが乗った簡易ピザを持って来た。なにか目に炎を宿して。料理人としての誇りに火がついたのかしら……?
まあ、お腹空いてるしと、ダボアさん作の簡易ピザを口にした。
「美味しい。さすが玄人が作るものは違いますね」
やはり毎日作ってる人の勘や技術は凄いわよね。まさしくセンスがあるわ。
「ありがとうございます!」
なんとも嬉しそうに笑い、さらなる味を求めて厨房へと戻っていった。
ふふ。これならお菓子作りも許可してくれそうね。
カルビラス王国まで何日かかるかわからないけど、一日二日で着けるわけない。なら、その間のオヤツは作っておかないと。オヤツのない人生はあり得ないもの。
「旨いですな」
「ええ。クセになる苦味です」
特に男爵様とガルズ様が気に入ったようで、フォークが止まらなかった。
「塩につけるとまた旨い! 麦酒が欲しくなりますな!」
「まったく。酒のツマミにもってこいです」
酒を持って来いと叫びそうな勢いだけど、さすがに明るいうちにお酒は不味いと思っているようで、要求することはなかった。
騎士様もあまり山菜の天ぷらは好みではないようで、フォークの動きは鈍い。やはり若い人の口には合わないようね。
う~ん。なにか違うもの作らないとね。
パンケーキ……は無理か。シチューは……時間がかかるわね。あれやこれと考えるけど、設備が調ってなくて材料がない中では作れるものが限られて来るわね……。
厨房の中を見回すと、パンを焼く窯があった。
「ダボアさん。チーズありますか?」
「え? あ、ああ。保管庫にありますよ」
あ、あるんだ。さすが男爵家。保管庫まであるなんて裕福なのね。
「使いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。持って来ますね」
チーズは保管が難しく、一般の食卓にはなかなか出せないと聞いてたんだけど、男爵家ではそうでもないのね。
ダボアさんの部下さんがチーズを持って来てくれる間に小麦粉を台の上に撒き、塩を足して水をかけて練っていく。
「なにを作るので?」
「簡易ピザを作ろうと思いまして」
材料が足りなくて、工程を省くので簡易なんです。
捏ねて捏ねて捏ねまくり、手頃な感じの団子にする。
「ダボアさん。トマトをたくさん刻んでもらえますか?」
「あ、はい。わかりました」
一人では時間がかかるのでダボアさんたちに手伝ってもらうことにする。お腹の虫さんが抗議の声を上げそうなんでね。
あれこれ指示を出し、準備はできた。
ちょっとだけ寝かせた団子を薄く伸ばし、切ったトマトと玉葱を乗せ、削ったチーズを振りかける。
「ダボアさん。これを焼いてください。加減は任せませますので」
よそ様の窯はクセややり方がある、らしい。なので、焼きは任せるのが一番だわ。
「これは、窯に入れる専用の道具が必要ですね」
あ、ピザを掬う道具、忘れてたわ。まあ、代用品(薄い板で掬ってる)を使ってるから問題ないか。
「シャーリー様。こんなものでよろしいですか?」
窯を見ていた三十代くらいの男性に声をかけられた。窯担当の人かしら?
手を止め、焼き具合を見る。
「はい。いい感じです」
チーズが溶けていい匂いだわ。これなら味も大丈夫そうね。
簡易ピザを出してもらい、包丁で四等分に切り分けてわたし、ダボアさん、窯担当の男性で試食する。
簡易ピザにしてはまあまあかな。チーズが足りない部分を補っている感じね。
「……旨い……」
「あんな簡単な材料でできるなんて……」
ピザは異次元屋の世界のもの。知らないのは当然とは言え、そこまで驚かれることかしら? 地域が違えば食べるものも違うんだしさ。
「これは簡易なので、いろいろ工夫して極めてください」
今はお腹を空かした方々の胃を満たしてあげることを優先しましょうと、厨房の方総動員で簡易ピザを作り出した。わたしを厨房から追い出して……。
「シャーリー嬢の料理は不思議なものばかりですね。なんと言うものですか?」
子爵なら珍しい料理も食べているだろうに、天ぷらや簡易ピザを不思議に思うのね。おば様のところでは普通になっているのに。
……広めたのはおばあ様らしいわね……。
「ピザと言いますが、今回のは材料が足りなくて簡易なものです。カルビラス王国にいったらちゃんとしたピザをごちそうしますね」
おば様のところなら材料は豊富だし、ピザ専用の窯もある。簡易ピザなんて目じゃないピザを焼いてみせるわ。
「そう言えば、カルビラス王国は美食の国との噂は聞いたことあります。他にも不思議な料理があるので?」
「いろいろありますよ。お休みになったら王都のキャリバリーと言う店を訪れることをお勧めします。毎日通いたくなるくらい美味しいものが食べられますから」
昔、おばあ様が伝授したらしく、王都で一番の料理店になってるそうよ。
「キャリバリーですか。それは是非ともいってみたいですね」
わたしもお邪魔させてもらおうっと。お菓子の材料を分けてもらうためにね。
「シャーリー様。ちょっと材料を変えてみたので味見をお願いします」
ダボアさんがベーコンのようなものが乗った簡易ピザを持って来た。なにか目に炎を宿して。料理人としての誇りに火がついたのかしら……?
まあ、お腹空いてるしと、ダボアさん作の簡易ピザを口にした。
「美味しい。さすが玄人が作るものは違いますね」
やはり毎日作ってる人の勘や技術は凄いわよね。まさしくセンスがあるわ。
「ありがとうございます!」
なんとも嬉しそうに笑い、さらなる味を求めて厨房へと戻っていった。
ふふ。これならお菓子作りも許可してくれそうね。
カルビラス王国まで何日かかるかわからないけど、一日二日で着けるわけない。なら、その間のオヤツは作っておかないと。オヤツのない人生はあり得ないもの。