う、う~ん。ちょっと買いすぎたかしら?

 必要なものしか買ってないと思うのだけれど、箱三つ分ともなるとなると「そんなことはない!」と断言できないわね……。

「ありがとうございました。品はうちの者が運ばさせていただきますね」

 人が入って来て箱を運び出してしまった。手際がよろしいことで。

「はい。お願いします」

 じゃあ、買うものも買ったし帰りますかと席を立ち、部屋を出ようとして立ち止まった。道具も大切だけど、食料も大切じゃない。

「どうかしましたか?」

「今の時間って、市は開いてますか?」

 このくらいの町なら何ヶ所かで市はやってるはずだが、場所によっては朝か夕方にやってるらしいわ。

「市、ですか? はい。南区でやっていますよ」

 お、やってるのね。それはよかったわ。

「これから市にいってもよろしいですか?」

 ナタリーさんに尋ねる。一応、わたしの〝監視員〞だからね。

「はい。構いません」

 騎士様に確認の目を向けると、騎士様は少し考えたのちにわかりましたと頷いた。今のはなんの間かしら?

 サナリオさんに見送られ南区にある市へと向かった。

「シャーリー嬢。市は人が多いので気をつけてください」

 人の往来が出て来たからか、騎士様が注意を促してきた。

 わたしを守るためか、常に横にいる騎士様。騎士なら女性を守るものらしいけど、わたし、そんなに弱そうに見えるのかしら? これでもおばあ様に仕込まれ、小さい頃は霧の森を遊び場にしていた。

 それに魔力は神獣級。魔法は一国の大魔法使いにも勝る。守られるより守るほうだと思うんだけどな~。

 まあ、騎士には騎士の矜持はあるもの。守られて不愉快って気持ちはわたしにないんだし、黙っていれば皆平和だわ。

「はい。わかりました」

 角を立たせないのも人間関係を良好に保つ手段と、笑顔で答えた。

 南区にある市は、前にいったことがある市よりは小さかったけど、売っている野菜や果物は新鮮で、肉も豊富だった。

「ギャレーの町は豊かなんですね」

 町の周辺に畑や果樹園があったけど、冒険者の町とも言われて。なら、魔物が多いってことよね? 被害とかないのかしら?

「そうですね。わたしも初めて来たときは驚きました」

 それとなく降ったのだけれど、騎士様はギャレーの町のことは知らないようだ。まあ、町に精通した騎士ってのも変だけどね。

 しかし、お昼を過ぎているのに人がいるってなにか不思議ね。これって仕事がいっぱいあるってことなのかな? 

 大きな都市ならまだ理解できるけど、二、三万人の都市でこれだけの人が往来してるって凄いことよね。ここが特別なのかしら?

 わたしな拳くらいある赤い実はトマトの仲間かしら? やけに大きいわね。土がいいのかしら?

「おばさん。これは薄味かしら? それとも濃い味かしら?」

 異次元屋の味を知ると、この世界の野菜や果物は一段階どころか四段階くらい落ちる。美味しいかと訊くより味が薄いか濃いかを訊いたほうが早い。

「今年は雨が多かったから少し薄いかね。でも、その分、酸味は少ないよ」

 不味いんだ。これより二回り小さいのは甘いのに。やはり土で変わるのかな?

「煮ると美味しくなりますか?」

「ああ。塩とロホの葉を入れるとさらに美味しくなるよ」

 そこは同じなんだ。なら、トマト煮が作れるわね。

「それはいいですね。じゃあ、三十個ばかりいただけますか?」

「そんなに買ってくれるならオマケするよ」

 ライヤード商会で買ったカサミ竹で編んだ手提げ籠に入れてもらう。

「……この籠、魔法の籠かい……?」

 入れてもいっぱいにならないことに気がついたおはさんが、不思議そうな顔で尋ねて来た。

「はい。そうですよ。いつもたくさん買うので」

 自給自足可能な城だけど、各地の季節を味わうために買いに出ていた。おば様にも送ったりするからたくさん買うのよ。
 
「あ、そっちの芋もお願いします」

 マヨネーズを使ったポテマヨ、わたし、大好物なのよね。いつも異次元屋で買ってたんだけど、自分で作ってみるのもいいかもね。

「シャーリー嬢は、料理をするのですか?」

「はい。しますよ。作るのも食べるのも好きですから」

 異次元屋を知る前は食に興味はなかったけど、料理を見てから食いしん坊になってしまった。不味い料理なんて口にしたくないわ。

「わたしも食べるのは好きですよ。まあ、作るのはダメですけど」

 騎士で料理作りができる人はいないでしょう。いたら変人扱いされるんじゃないかしら。わたしは、尊敬するけどね。

「今度、シャーリー嬢が作ったものをご馳走してくださいませんか? 男爵様には申し訳ないのですが、どうもいまいちでして」

「そうなのですか? なら、厨房を貸してもらえるようお願いしませんとね」

 他人様の台所を借りるなんて失礼かもしれないけど、美味しくないものを食べるよりはいいわ。不味いと食べる気も失せちゃうしね。

「ナタリーさん。男爵様にお話を通していただけませんでしょうか? わたしからもお願いするので」

 わたしと繋がりを求めているようだし、反対はされないでしょうと言う読みがあったので、ナタリーさんに言ってみたのだ。

「はい。わかりました。お話を通しておきます」

 つまり、よろしいってことですね。了解で~す。